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虹乃ノラン
2024年5月10日 20:44
第一章動かない猫「いってきまーす!」 スニーカーを履いて玄関から飛び出すと、四月の風が頬をなでる。通いなれた道を歩いて今年で六年目。満開まであと少しの桜と日差しが、気持ちいい。 急にぽかぽかしてきた陽気のせいなのか、ベンチで眠りこけてるお年寄りや、バスが来てるのにぼーっと立ち尽くしているスーツ服のお姉さんなんかで目白押しだ。 大人になると忙しすぎて、みんな疲れちゃうのかな。 そんなこと
2024年5月18日 12:59
天川の行方不明事件(1) 自宅に戻ると、いつもより元気のない僕に気づいて、お母さんが心配そうな顔をした。だけど、靴を脱ぎながら黙っている僕に、それ以上話しかけてはこない。 今のままではスカーフェイスを捕まえるどころか、姿さえ見つけるのは難しい。手がかりと言えば救急車のサイレンだけ。その音を頼りにあいつを追うわけだけど、救急車が現場に到着するまで、親切にスカーフェイスが僕たちを待っているはず
2024年5月18日 13:01
天川の行方不明事件(2) 目を覚ますと朝八時だった。目覚まし時計の音と同時に、腕時計から紅葉の声が届く。『おはよう! 昨日考えたんだけど、スカーフェイスを見つけても、素手じゃなかなか捕まえられないと思うの。だからみんな、家を出るときに虫捕り網を忘れないで!』 めずらしく起きているジョージが、元気に答える。『オゥ! じつはそれ俺も考えてたよ! 思いついたのは野球のミットだったけどな!』
2024年5月18日 13:02
天川の行方不明事件(3)僕はライオン公園までの上り坂を一気に駆け上がる。脇道から乙女町に入り、《北川理髪店》の前へたどりつく。するとちょうど店からミチルが出てきた。 腕時計を確認すると、時刻は九時三〇分。「千斗君! さっきお父さんが、天川で小学生が消えたって!」 ミチルもどうやら行方不明の男の子の話を聞いたみたいで、かなり慌てている。僕は呼吸を整えて言った。「……うん! 僕も聞いた!
2024年5月26日 20:13
第十章不法の器の代償 カラス神社に着いたのは、それから十分ほど経ってからだった。窮屈そうに虫網に押し込められたスカーフェイスは、まだ意識を取り戻していない。「マルコ! ミチル! おまたせ! 本当におつかれさま!」「おまえらマジでクレイジーにすごいぜ!」 自転車を止めて二人に駆け寄ると、マルコとミチルは照れくさそうに顔を見合わせた。「みんな、気をつけてね。クロの意識が戻ったら、目を見ない
2024年5月26日 20:15
第十一章ミチルのフラッシュ 紅葉とジョージの意識が戻ったのは、それからすぐ後のことだった。気がつけば、状況がガラリと変わった様子を見て、ジョージも紅葉も目を丸くしている。「おぃ⁉」白地の黒ぶち猫を見たジョージが突然叫んだ。「うし?」 どう見たって猫だよ、ジョージ。「これは、一体どうなってるのよ?」 時間をかすめ取られて状況がつかめていない紅葉たちに、その間に起きたことを説明すると、二人