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「鳥かごのハイディ」完結済み 全23話

23
ラクロスの双子、エレノアとチャーリーは幸せに暮らしていた。姿はそっくりでも、性格は正反対。せっかちで右利きのエレノアに、不器用で左利きのチャーリー。一歩先を行くエレノアをチャーリ…
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「鳥かごのハイディ」第一話

「鳥かごのハイディ」第一話

プロローグ
 ハイディー、エレノア。

 八月のグランダッド・ブラフから見る、ミシシッピ川の渓谷と、青々と生い茂る木々の緑。その境界線の向こうには、手を伸ばせば届きそうなほどの真っ白くて大きな雲と、透き通った青空が見えるわ。
 青と緑の境界線を自由に飛び回る野生の鷲が、今のわたしには眩しく見える。このシーズンの、グランダッド・ブラフ・パークって、こんなにも観光客で賑わってたかしら? 
 たった一年

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「鳥かごのハイディ」第八話

「鳥かごのハイディ」第八話

Haze
(3)

「チェック!」

 翌日、毎時間恒例の看護師によるチェックコールのあと、レベッカがわたしに向かって言った。
「チャーリー。あなたに面会人が来てるわよ?」
 レベッカの話に驚いたわたしは、ベッドから体を起こして彼女に訊ねた。
「面会人? 一体誰?」
「あなたのお父さんよ。私について来て」
 レベッカが優しく笑いながら廊下の方へと姿を消す。わたしは慌てて後を追った。
 エレベーター

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「鳥かごのハイディ」第十三話

「鳥かごのハイディ」第十三話

Smoke
(4)

「君たちが毎週末ピクニックに出掛けたグランダッド・ブラフと呼ばれる場所は、この時期どんな様子だったんだい?」

 スタイルズ先生の問い掛けに、わたしは目を開けることなくそのときの様子を話し出す。
「ただ、綺麗だとか、紅葉が美しいだとかって言葉を並べるだけでは、とても陳腐になってしまう」
 ラクロスの街並みは平坦で、極端に背の高い建物などない。そのラクロスで最も高台のグランド・

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「鳥かごのハイディ」第十四話

「鳥かごのハイディ」第十四話

Smoke
(5)

 秒針の音は心地好く、あの頃の記憶を呼び起こしていく。
「チャーリー! 今度教会に行くときは、わたしたちの大切な宝物を、神様に預かってもらいましょ!」
 窓から射す月明りの中、向かいのベッドに眠るエレノアがわたしに囁いた。
「宝物? オルゴールボックスに入れたわたしたちの思い出のこと?」
「そうよ! 他になにかあるの!?」

 そのオルゴールボックスには、たくさんの思い出が詰

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