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【後日談 後編】 検査結果が出るまでの10日間。どう生きるのか、私よ

エコー検査の翌日。
目覚めたら、起きた瞬間から気分がどんよりしているのを自覚しました。

「今日一日に集中して生きるぞ。以前の私ではないぞ」と思うのに、気分がついてゆけません。
再びガン患者としてのあの暮らしが始まるかもしれない……その恐怖は、二度目でも一切色褪せないんだなぁと、半ば呆れます。

前編のおさらいはこちらから⤵


脳科学的には「楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなる」。
分かっていても、そういう気分じゃないときに、それを行うことはものすごく困難です。

しかしこのままじっとしていたら、悶々と再発の不安にとらわれてしまう。

「何か行動を変えると、気持ちも切り替わるんだったよね」
私がミソちゃんにそう呼びかけると、
「う~ん……でもミソは、今、本当にそんな気分じゃない」
案の定の応えが返ってきます。

私「はいはい。それも織り込み済みです。でも、これから図書館に出かけます!」
ミソ「えーーやだーー気分じゃないーーー」

私「イヤでも出かけます。『意識さんの私』が、ミソちゃんより偉いんで、言うことを聞いてもらいますから!!」

私はミソちゃんの声を無視して、軽くカラダをストレッチした後、着替えて外に飛び出しました。

一歩外に出ると太陽がきらきらと輝いていました。
歩いていると、冷たい風が気持ちいい。思い切り、深呼吸します。

一年前、治療が終わった瞬間の、あの晴れ晴れとした幸福。
紅葉を踏みながら歩いた、世界一幸せだった私。

今は、こうして同じ空の下、私は再発の恐怖に怯えている。

ガンになったら不幸で、ガンじゃなければ幸福なんだっけ?

そうじゃないでしょ。

ガンであろうとなかろうと、私は幸福に暮らすんだよ。



脚を動かし、図書館まで早足で歩いていると、息も切れてきます。身体を動かすことで、気持ちも少しだけ前を向けるようになってきます。

……しかし図書館に入ると、私はふらふらとエッセイのコーナーに行き、気づけば『はなちゃんの味噌汁』という、小さな女の子を残して亡くなった乳がん患者の闘病記を抜き取って、座席に座って読みながら、目を潤ませていました。

『はなちゃんの味噌汁』の著者さんは、25歳で乳がん発病。
それから結婚と出産を経て、小さなお子さんが自分がいなくなっても困らないようにと、みそ汁のつくり方などの家事を教えてゆくのです。

わが子が大人になるのをおそらく見届けてあげられない。
その悔しさ、切なさ、悲しみ。
それでも、とても強い精神力で「今日という一日」を懸命に生きていくのです。

「……なんて強いんだ……私なんて、もし再発してたとしたってすぐに死ぬわけでもないのに、こんなに怯えて……自分のことばっかり考えて……」
本を閉じ、机に突っ伏しました。


「あ~。また、闘病記を読んじゃった」
ミソちゃんがつぶやきます。

「うん、読んじゃったよね。こういうとき、どうしても手が伸びちゃうんだよね。でもとにかく、もうこれは本棚に返すね。今日は、マンガのコーナーに行って楽しくなる種類の本を借りよう」

正直、乳がん関連の本が気になりますが、借りると余計にドツボにハマるので病気関連のコーナーは素通りしました。

図書館は、数は少ないけれど、ほっこり系やコミカルなマンガが置いてあるのです。ほしよりこさんの『今日の猫村さん』と、松本ぷりっつさんの『うちの3姉妹』を数冊抜き取ります。

「まったくもって、人生に本があって助かるよ……」

図書館や本屋さんは、いついかなるときにも、あらゆるアングルから私を励ましてくれる偉大なるパートナーです。
想定外の不安と恐怖に圧し潰されそうなこんな日にも、本たちが「さあ、今日のご気分に合わせて、お好きな本をお選びください」と、私を包み込んでくれるのです。


図書館を出て、外を歩きながら、考えます。
ガンの手術から2年、抗がん剤治療終了からちょうど1年。

そこにきて、再発の兆し。

「第2ステージがやってきた、と捉えてみたらどうだろう」

ミソちゃんと一緒に知恵を絞ります。

この難解なゲームを、私なりにどう攻略するか? 
何をすれば、どう考えれば、今日という日を少しでも幸せに、快適に、不安に苛まれずに過ごせるか? 

そういうゲームだと思って、まずは検査結果がでるまでの10日間を元気に過ごしてみようじゃないの。

「ミソちゃんよ、『元気に過ごせるかゲーム』を開催するぞ!!」
「………うーん、分かったよ」


私はガンになって学んだことを、思い出していました。
ガンが問題なのではない。
ガンのことで、思い煩う精神が問題なのだ。

「病気になっても、病人にはなるな」


私は10日間で、年末にやろうと思っていた大掃除を前倒しすることに決めました。普段はやらない換気扇の掃除などを無我夢中で続けます。

さらに、コロナで長らく会えなかった友人にも久しぶりに会うことに。
友人には「再発してるかも」とは言わないままに、楽しいランチタイムを過ごしました。

借りたマンガにも助けられつつ、10日間という時間を無駄にせずに、その日その日を充実して過ごすことができたことが、私なりの成長でした。


そして10日後。


病院に行くと、「大丈夫でしたよ」の主治医の言葉。

「えーーー!!!!」

私ってヤツは……
私ってヤツは……
なんて思い込みの激しい人間なんだろう。

結果が分かる前から再発したと決めつけた。
ほぼ確信していた……情けない。
またひとつ、自分という人間を知った気がしました。

帰りがてら、今後は二度とエコー中に「モニター画面を観ない」と決めました。気になって観るから「なんか写ってる!?」と怯えるのです。素人の私が見ても何も分からないのに。

帰ったら、夫に土下座して謝らなくては。
「まだまだだなあ」と反省しきりなのでした。


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