酔歩人(ランダムウォーク・マン)

野球やテニスなどのスポーツや、The Beatlesから筒美京平メロディまでを愛する昭…

酔歩人(ランダムウォーク・マン)

野球やテニスなどのスポーツや、The Beatlesから筒美京平メロディまでを愛する昭和生まれのrandomwalk manです。

最近の記事

【連載小説】俺たちの朝陽[第13章]「ダラ監」哲彌の改革

【サインは個々の自己責任で】  区の早朝野球大会で2位になった2年目が終わってまもなく、監督の地金が結婚するというので河川敷で練習をした後、みんなで祝おうという事になった。面々の事だから、まず普通の式を考えるものはいない。型通りの挨拶が終わるや否や、みんなが隠し持っていた豆腐を地金に向けて浴びせるという、手荒い祝福の洗礼だ。  ビールかけならぬ豆腐かけだ。数少ない上下のユニフォーム保持者の地金は、それが豆腐でぐちゃぐちゃになっても嬉しそうに顔をほころばせていた。  結婚したら

    • 【連載小説】俺たちの朝陽[第12章]あの頃は、何も無かったが……

      【ジャンケンの神】  素人野球チーム『27時』が、まさかの3位になるとは。野球はやってみないと何が起こるか分からないものだと、思い知らされたシーズンだった。それは予想外の嬉しい出来事でもあった。  2年目を迎えると、評判を聞き加入するチームが増え、総勢25チームになった。  前年3位になったことで、次の年は、みんなの士気がより一層上がり、我先にスターティングメンバーへの売り込みが激しくなった。  哲彌は、今年こそ俺がエースだということを知らしめるため、地金にアピールしていた。

      • 【連載小説】俺たちの朝陽[番外編2]スペイン良いとこ、一度はおいで

        【とりあえず南へ】  2年目が終わろうとすると、『27時』にも変化が。  スペイン人が参加したいと言ってきたのだ。名はフランシスコ・ホセ・デ・アントニオ。スペイン人の名前は長い。皆は覚えられないのでホセと呼ぶ事にした。男ならホセかぺぺ、女ならマリアが定番らしい。ホセによると街中でホセとかぺぺと呼びかけると何人もが振り向くという。ま、それで済むならそれでいいかもしれない。日本ほど苗字や名前が多様な国民はいないという。皆がマリアなら万が一、恋人の名前を間違えてもバレないので便利だ

        • 【連載小説】俺たちの朝陽[番外編1]哲彌、シベリア鉄道で日本脱出

          【見渡す限りどこまでも続く草原】  哲彌は学生時代、この国を巻き込んだ壮絶な事件に嫌気が差し、大学での単位をひとつ落として留年し、幼い頃から行ってみたいと思っていたヨーロッパに行こうと決めたのだった。その頃に読んだ小田実の『なんでも見てやろう』に影響されたこともあったらしい。なぜヨーロッパかと言われても判然とはしないが、なんとなく西への憧れだったかもしれない。  しかしここで問題がひとつ。哲彌は極度の飛行機嫌いだったのだ。昔は横浜からフランスのマルセイユまでの航路があったのだ

        【連載小説】俺たちの朝陽[第13章]「ダラ監」哲彌の改革

          【連載小説】俺たちの朝陽[第11章]奇跡の三位、一体の『27時』

          【つまらん、勝つためだけの野球はつまらん】  洋助は、昔酔っぱらうとすぐ、テレビのブラウン管の向こうにいる贔屓チームの監督に怒鳴っていた親父の事を思い出していた。旅館をやっていた洋助の親父は、洋助と同じで酒に弱い。そのくせ常連客に勧められると呑んでしまい、挙げ句の果てに喧嘩をしてしまうのだった。それは決まって野球のテレビを見ていてのことだった。  小さな旅館だったが、客商売とあってテレビが入るのは早かった。プロレスと野球のある日は、近所の連中は、みんな当然のように見るために集

          【連載小説】俺たちの朝陽[第11章]奇跡の三位、一体の『27時』

          【連載小説】俺たちの朝陽[第10章]運も二度続けば何とやら

          【点を取るのは難しいが、取られる時は簡単だ】  その頃、スナック『愛』のふたりは、ヤキモキしていた。『27時』の大事な初戦が始まろうとしているのに、客がひとり帰らないのだ。ピンク映画の助監督を長年やっている風采のあがらないこの男は、桃ちゃんをお気に入りで、このところ毎晩のように通ってきている。最近の上得意なのでそうそう邪険にもできなかった。  その日は、客の入りが悪くマー姐ぇは桃ちゃんに早く帰ってもらおうとしていた時に顔を出して5時間も粘っているのだ。今日は、いつもはサントリ

          【連載小説】俺たちの朝陽[第10章]運も二度続けば何とやら

          【連載小説】俺たちの朝陽[第9章]根拠のない自信だけで勝負!

          【根拠のない自信だけで勝負!】  相手投手の1球目は左バッターの外角低めのストレート。守田は言われた通りに目一杯振り回した。そのバットはボール2つ分は上で円を描いた。 「スットッライーク」審判の渇いた声に力がこもった。  1球目が外角低目か、思った通りまともな考えをする投手だと哲彌は思った。投げ方は多少ぎこちないが、考え方はオーソドックスな奴なのだろう。かき回せばなんとかなる。    2球目は、内角高目のクソボールだったが、思い込んだら命がけの守田は顔の辺りに来たのに避けよう

          【連載小説】俺たちの朝陽[第9章]根拠のない自信だけで勝負!

          【連載小説】俺たちの朝陽[第8章]シロート野球の初戦が始まる

          【お知らせ】再開しました。 【サインはF フリーだ!】  開会式のあったその晩、ほぼ全員が『ヒゲ』に集まっていた。明日の輝ける初戦をいかに戦うかと各々が思いを廻らせていた。  監督の地金は、アメリカのメジャーリーグのドジャースばりのブロックサインを考案していた。巨人で一時代を築き上げた監督の川上哲治と参謀の牧野茂が、その戦法の下敷きにしたというドジャース。地金は、そのチームを『ダジャース』と、通ぶって発音するくらいのめり込んでいた。それでも全員の理解力を考慮して、 「右手で

          【連載小説】俺たちの朝陽[第8章]シロート野球の初戦が始まる

          【連載小説】俺たちの朝陽[第7章]みんなが出るから全員野球だろ

          【みんなが出るから全員野球だろ】  スナック『愛』のママのマー姐ぇも、ホステスの桃ちゃんと一緒に『27時』の応援団を結成すると張り切っていた。なんでも桃ちゃんの元旦那というのが、関西の大学野球でならしたスラッガーだったという。大阪のプロ球団に入り、そこそこの成績をあげていたが、監督と折り合いがつかず、東京の球団へ放り出され、桃ちゃんもついてきたが、元旦那は怪我をきっかけに解雇され、お決まりの喧嘩から離婚の道を歩んできたという。 「だからさ、野球っていうと、辛いんだけれど、ふと

          【連載小説】俺たちの朝陽[第7章]みんなが出るから全員野球だろ

          【連載小説】俺たちの朝陽[第6章]楽しくなけりゃ草野球じゃない

          【楽しくなけりゃ草野球じゃない】  哲彌は、伊勢のお父が営むレコード店『衆音堂』の中で交渉していた。パチンコで取ったレコードを買い取ってくれと言うのだ。 「え、何があるの」と、お父。 「ええと、井上陽水の『夢の中へ』、りりィの『私は泣いています』、郷ひろみの『よろしく哀愁』、キャンディーズの『危ない土曜日』、森進一の『襟裳岬』、西城秀樹の『傷だらけのローラ』、それに殿さまキングスの『なみだの操』もあるよ」 「まあ、一応売れ筋だけれどね。でもこのシールは剥がしてね」  シングル

          【連載小説】俺たちの朝陽[第6章]楽しくなけりゃ草野球じゃない

          【連載小説】俺たちの朝陽[第5章]無謀にも早朝野球リーグに参加

          【無謀にも早朝野球リーグに参加】  そんな面々が、新宿の浄水池跡の通称四号地で野球の練習を始めたのは、もう暮れに近い、ある日曜日だった。ばらばらの服装なのでとても合同練習とは思えない。コバと地金は寒さに震えながらもユニフォーム上下にアンダーシャツ、そしてストッキングやアンダーストッキングなど一式を着ていて、一応野球をする姿になっている。  しかし、亀ちゃんはGパンに同じデニム素材のカストロ帽で悦にいっているし、哲彌は高校時代のユニフォームはすでになく上下ブルーのジャージ姿、信

          【連載小説】俺たちの朝陽[第5章]無謀にも早朝野球リーグに参加

          【連載小説】俺たちの朝陽[第4章]スポーツって何だ?

          【スポーツって何だ?】  まだまだ、傍若無人の貧乏神たちは往く。卓球に出たのは、哲彌だった。哲彌は高校で硬式野球部に所属していたが、部室の近かった卓球部のひとりと試合をして、1セットを取ったことが自慢だった。鮨屋の信介とふたりでチームを作り、参加した。昔の覚えがなまじあるために、無謀にも練習らしきものもせず、その日を迎えた。  会場へ入って驚いた。  彼らを除き全員がピチッとしたユニフォーム姿で身を包んでいるのが目に飛び込んできた。会場内の十数台が並ぶ卓球台の上を、ピンポン球

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          【連載小説】俺たちの朝陽[第2章]謎の女

          【謎の女】  餃子チャレンジ企画は、軽く7人前から始めた。最初は相手に花を持たせよってヤツだ。最初の記録樹立者は、もちろん持ち合わせのなかった永チンだが、聞きつけた常連客に続けて9人前、10人前とすぐに破られ、元がとれるどころか損ばかり。これも余興だと気張っていたが、さすがに12、3人前をやられてしまうとちょっとこたえた。16人前で止まった時は、正直ホッとした。15人前くらいでギブアップしてくれれば、売り上げはいくし、白菜も捌けるというものだ。  ある日、能一が模型を作ってい

          【連載小説】俺たちの朝陽[第2章]謎の女

          【連載小説】俺たちの朝陽[第3章]ユニフォームって何だ!

          【ユニフォームって何だ!】  能一が帰ろうかと思った頃、続々とチームの面々が集まって来て、狭い店の中は、男たちの熱気で一杯になった。監督の哲彌が、監督会議から帰ってくる時間だった。 「やあ、集まってるな」  勢い良く現れた哲彌を見て、安心したかのようにみんなが一斉に、 「大丈夫だった?」と、声をそろえた。 「ダメ、完敗だわ」と、哲彌は努めて明るく大きな声で叫んだ。 「当事者の我々を除いて、1対23で却下された」と、哲彌は今度は投げ出すように言った。 「やっぱりか」 「賛成の1

          【連載小説】俺たちの朝陽[第3章]ユニフォームって何だ!

          【連載小説】俺たちの朝陽[第1章]置き忘れられた町

          [第1章]置き忘れられた町 【初めに】  半世紀ほど前の出来事を読み物として書き残してみました。エピソードは多くが実話です(特にラストシーンは)。  ケイタイは勿論、まだファミリーコンピュータなどは影形も無く、スペースインベーダーさえも我々が遊ぶ事ができるようになるには、あと数年待たなくてはならない時でした。それでも仲間たちと野球チームを作ったり、様々な遊びを見つけてその時々を謳歌していた、おおらかで穏やかな時代の雰囲気をお愉しみいたいただけたら幸いです。 【プロローグ】

          【連載小説】俺たちの朝陽[第1章]置き忘れられた町