【詩人の読書記録日記】栞の代わりに 11月14日~11月20日

はじめに

こんにちは。長尾早苗です。先週は晴れた日が続いて気持ちがよかったです。今週は移動する詩作の仕事としての散歩、移動しない詩作としての仕事の読書に本格的に精を出し、週末は少し仕事を離れて遊ぼうと思います。最後にお知らせがありますので、最後までお付き合いいただければと思います。

11月14日

今日は作品群の推敲と朗読音源に画像をつけるいつもの作業を集中して。今週は推敲ウィークにしていきたいと思っています。来月の詩誌の合評に向けて、新作の推敲も始めつつ、また新たに書き下ろしていきたいです。朝方、伊藤比呂美さんが出演されていたテレビを見ました。齢を重ねてから書ける詩句、古典と書き手が向き合うということ、立ち止まって振り返り、また前へ歩くこと。七五三だったので昼の散歩は笑顔の親子のみなさんを見に行きがてら、自分の幼少期と照らし合わせて詩を考えていました。夕方短い文章。新作二編。

11月15日

今日は朗読音源のいつもの作業ともろもろ推敲。今日もいい天気です。散歩に行ったら新作一編。作品群の課題だった部分を手直し。いつの間にか腹筋が割れていました……!歩くってすごいなあ。規則正しい生活っていいなあ。昼の散歩に行くと必ず一万歩以上歩いて夕方の作業がはかどらないため、今日はお休み。今週は散歩の中で見つける「ことば」に着目して詩を書きます。いつか発表します。お楽しみに。先日寄稿した『ハルハトラム3号』、文学フリマ東京の稀人舎のブースで発売されます。北爪満喜さんが主宰されている詩誌です。どうぞよろしくお願いいたします。

11月16日

移動図書館!先週借りた文庫本を返してギリギリまで借りて。金曜日までは作業をがんばります。金曜日からは久々にオフを取ってみたいと思います。がんばるぞ。新作一編。

・イポリト・ベルナール『アメリ』リトルモア

高校生になったくらいのころ、アメリの映画を見ました。映画は特に好きで、フランス映画はわかりづらかった年ごろでしたが、一気にその世界にハマって、髪をショートボブに切りに行ったことは覚えています。アメリは空想好きで、恋をしたことがない二十一歳の女の子。そんな彼女がニノという男の子に運命的な出会いをして、恋をします。すれ違い、すれ違いが起こっていく中で二人がたどった運命とは。ほっこりするしあわせ気分のかわいいお話です。

・多田一臣『万葉樵話』筑摩書房

今、毎週金曜日の朝にらじるらじるの聞き逃し配信で、万葉集講義を聞いています。そうですね、なぜこれほどまで今「万葉集」がアツいのだろうともう一度考えてみると、「令和」という元号があるからですね。令和というのが万葉集を典拠としているところから始まり、丁寧に解説されています。大学の講義で学べなかったこと、忘れていたことをもう一度思い出せた気がしました。

・マイク・カージェス ジョー・ライデン 武者圭子訳『あの瞬間、ぼくらは宇宙に一番近かった』講談社

近しいひとが、障碍児学級に携わっていたことがありました。彼女彼らを教えている先生の熱意がひしひしと伝わってきますし、一緒の教室で何かを学ぶ、という一番難しいことを成し遂げるために必要な努力もわかる気がします。この小説の先生は、そんな生徒たちをNASAの教育プログラム、「スペースキャンプ」に挑戦させるという壮大な物語です。宇宙、には子どもを熱狂させるなにものかがあると思っていて、それを学んでいくことで、何かが生徒たちの中でも、そして先生自身にもよい変化をもたらしていくのではないかと思いました。

・ユーディト・W・タシュラー 浅井晶子訳『国語教師』集英社

ドイツ発の、一風変わった文芸ミステリーです。作家の男と国語教師の女。二人は十年以上一緒に暮らしていましたが、ある日突然男が姿を消し、セレブ女性と結婚。置き去りにされた女は地道に国語教師の道を進み、二人が五十代になった時に、温度差を持って仕事で二人の対談が決まって……。この物語の主軸になるのは、彼らが語りだす物語においてです。以前と同じように一つの部屋で再会した二人が交互に語っていった物語がエキセントリックで、なんとも後味が悪いというか……ただ、国語教師のマティルダの気持ちはよくわかるなと思いました。忘れられた女って、すごく悲しい……。

11月17日

長尾早苗FBページとYouTubeチャンネルpoet Sanae Nagaoをリニューアルしました。ご覧いただければさいわいです。

・岩崎宗治編訳『ペトラルカ恋愛詩選』水声社

イタリア詩に触れる機会って今まであまりなかったのですが、ペトラルカは結構衝撃的でした。彼のルネサンス精神、キリスト教的な精神が軸になった詩句はソネット形式が多く、愛をうたったものが非常に多いです。神さまへの呼びかけとしての詩、そして形式の中でうたわれた愛情とモチーフの数々。時には月桂樹、王冠、そういった古典の中に触れることで、ある種現代に向けてシェイクスピアなどを読み解くにあたって大事な詩集だなと思いました。

・山根知子『わたしの宮沢賢治』ソレイユ出版

恩師の吉田文憲先生のライフワークのような研究が宮沢賢治だったため、先生の授業や御著書で色々学んできました。この本では宮沢賢治と妹「トシ」との関係の読みがなされています。確かに、宮沢賢治の中でトシはかなりの重要人物でした。彼女の逝去により、彼の宗教的なモチーフは特に文学作品の中で強くなっていったように思います。宮沢賢治自身は一つの宗教にとらわれることなく、多数の宗教的な理解がありつつ、最後にたどり着いたのが「宇宙」という観念でした。トシが生きてきた道も、トシが宇宙へ帰っていったことも。そういった宇宙意志を考えながら読んでいました。

・高橋佳子『果てなき荒野を越えて』三宝出版

あきらめても試合終了にならないことってあるような気がします。特に、人が生きるということについてはとてもそう言えるのではないかと思うんです。この写真集・詩集は被災地に東日本大震災直後に向かって救援物資を送りながら編まれた詩集ですが、どの写真を見ても、あの時に失われたものがありつつ、それでも生きていくという強い思いが感じられました。残されたものとして、生きていく。それでも日々が続いていく、それでも生活は続く。特に印象的だったのは、洗濯物をがれきの山の中の木々に干していた写真です。衝撃でした。いつもの日常を送れない中で、洗濯をしている人がいた。こわい、という思いもありながらも、そしてそれを干していた。それはことばとかそういうものではなくて、ことばを生み出す「生活」というものが根っこにあった気がしています。結構わたしの中で色々と衝撃的な写真だったので、ずっと記憶に残ると思います。

・セルジュ・ティスロン 青山勝・中村史子訳『タンタンとエルジェの秘密』人文書院

「タンタンの大冒険」シリーズは、フランスでは三世代にわたって読み継がれてきたものであり、日本でも相当有名じゃないかな、と思います。ひよわなルポライターのタンタン、そして双子のような相棒の愛犬ミルー。その秘密は、実は作者本人の実生活と深く結びついていたんですね。漫画でも小説でも「読み解く」となると「テクスト」と「作者」と「時代」から読んでいく作業が必要になってきますが、このように大胆な読み直しは面白いなあと思いました。エルジェ自身の本質にも迫れたような気がしています。

・原作アンデルセン 文語訳 森鴎外 口語訳 安野光雅『口語訳 即興詩人』山川出版社

森鴎外と安野光雅さんにどんなつながりがあるのかと思ったら津和野出身だったことですね。懐かしいな、わたしも三年ほど前の冬、旅行で津和野を訪れたことがありました。そんなことを思っていたら、ずいぶん前に読んだ森鴎外の即興詩人が、すっと安野光雅さんのことばで体の中に入ってきたのです。文語体と口語体の一致運動と、文語体であったり古典を読み直す、という作業はいわゆる「翻訳」に近いものがありますが、翻訳されたものをまたもう一度翻訳して、新たなことばで同じものに仕上げるって相当大変な作業だなあとつくづく思いました。かなりの長編ですが、週末など時間があるときにじっくり読みたい青春の恋物語です。

・エヴァ・バロンスキー 松永美穂訳『マグノリアの眠り』岩波書店

第二次世界大戦。これは世界の崩壊が、本当に「世界」にあったのだと思います。ドイツとロシア。うーん……なんとも言い難いですね。その爪痕を大いに残した二人の女性。一人は齢を重ねて、今までを悔いている。もう一人はまだ若く、それでも失ったものが大きくて。うーん……名指しがたい感情が後に残るサスペンスです。戦争が遺していったものは、当時の女性達に何をもたらしたのか、息をのんでしまいました。

11月18日

文学フリマが近づくにつれ、なんだか緊張してきました……。それでも執筆は楽しかったです。新作一編。朗読して画像をつけるなど。夕方当選のメールが来て、来週末に伊藤比呂美さんの詩作ワークショップに参加できることになりました。憧れの詩人さんです。夢はことばにしてみるものだなあ。楽しみです!夜に詩人さんたちとスペースで詩についてお話ししました。

11月19日

行きつけの美容院で髪を切って染めました!今日が満月でもあり、二か月ぶりにお会いするいつものスタイリストさんとのおしゃべりが楽しかったです。月食でしたね。『聖者の行進』という讃美歌を教えてくれた恩師と久々にメールをしていました。

11月20日

以前からご招待いただいていた樋口一葉の朗読会へ、都内へ出かけました。

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一葉忌に合わせて開催されるのですが、昨年亡くなった幸田弘子先生ご自身が一葉の朗読をしていたことを思い出します。先生が旅立った日は、一葉忌の次の日。まるで一葉によりそうような日でした。今晩は十六夜、恩師の鈴木千秋先生の「にごりえ」、中里貴子先生の「十三夜」に合わせて鼓と笛、能楽で楽しみました。おんなということ。近くのイタリアンで昼食。

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帰りにちょっと足を伸ばして、気になっていたアンジェ神田店さんへ。

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星々フェアを開催中とのこと、ほしのたねも、寄稿した爆弾低気圧・lotto140、星々も並んでいてうれしかった!ご挨拶できたのもうれしかったです。

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趣味で集めているノートを買いました。詩を書くためのお仕事ノート、アイデアを落書きできる大好きな「トモエリバー」という辞書用の紙のノート。スタッフさんと万年筆トークで盛り上がりました。楽しかったなあ。

お知らせ

来週の詩人の読書記録日記は、文学フリマ東京が火曜日に入っていることと、色々とわたしのプライベートなどの都合によりお休みなのですが、「詩人日録」という新しい企画を一週間のみ限定でさせていただきます。いつも読んでくださっているみなさま、本当に感謝しております。文学フリマ東京ではたくさんの寄稿した詩誌や文芸誌が売られるため、わたしも楽しんで来ようと思います。以前は売り子をしていたくらいでしたが、二年ぶりの文学フリマになります。楽しんできます!

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