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人工衛星データを活用したビジネスの先進事例 業界別に解説

近年、民間企業による人工衛星の打ち上げが急増していますが、それに伴い人工衛星から得られたデータを活用したさまざまなビジネスも展開されるようになりました。
身近な例では、天気予報アプリや位置情報を使ったサービス、さらには衛星の観測写真をもとにスーパーマーケットの駐車場の空き状況から投資先を判断するなど画期的な事例も増えています。

社会における人工衛星の利用事例(IISE作成)

一般的に「衛星データ」とは観測衛星から得られた地球上のデータを指しますが、本記事では測位衛星や通信衛星も併せて、市場に広がりつつある人工衛星を利用した地上ビジネスの事例を各業界別に幅広く紹介します。


ビジネスで活用される、人工衛星の種類 


人工衛星を利用した先進事例をご紹介する前に、そもそも人工衛星にはどのような種類があるのかおさらいします。大きく分けると以下の3つが挙げられます。

1.観測衛星

光学センサーやレーダーなどのセンサーを搭載し、宇宙から地球上の自然現象や社会活動を観測する人工衛星です。

もっともわかりやすい例は天気予報での活用で、台風や低気圧、前線といった気象現象を連続して観測することができます。ほかにも大気・海洋汚染の状況把握、高速道路やダムなどのインフラ監視、台風や地震など自然災害による被害状況の分析など、幅広い領域で用いられます。

代表的なものには、日本の静止気象衛星「ひまわり」、海洋観測衛星「もも1号」、アメリカの「Landsat(ランドサット)」、EUとESA(ヨーロッパ宇宙機関)が開発・運用している「Sentinel(センチネル)」などがあります。

静止気象衛星「ひまわり」受信画像(JAXA)

2.測位衛星

複数の衛星を使って地球上の位置情報や時刻を取得する人工衛星です。衛星の測位には通常3~4つ以上の人工衛星が必要であり、それぞれから地上の受信機に電波を発信し、到達した時間を元に位置と正確な時刻を計算します。なお、こうした計測システムを衛星測位システムや衛星航法システム(NSS =navigation satellite system)と呼びます。

代表的なものとしては、アメリカが開発した「GPS(Global Positioning System)」や日本の準天頂衛星「みちびき」、 EUの「Galileo」、ロシアの「GLONASS」などが挙げられます。

「みちびき」初号機後継機のCG画像 出典:みちびきウェブサイト

3.通信衛星

地上の送信局からデータが送信(アップリンク)され、それを衛星がキャッチしたのち周波数を変換して、再び地上の受信機に配信(ダウンリンク)することで、広範囲にわたって通信回線を提供する人工衛星です。

通常、携帯電話やパソコンは建物の屋上や鉄塔など地上に設置されている基地局に接続することで、通話やデータ送受信が可能となります。しかし、災害などでケーブルや伝送路が遮断されたり基地局や交換局が損壊したりすると復旧まで通信できなくなるほか、離島は基地局が少なかったりそもそも建設されていなかったりするため、安定かつ質の高い通信が難しいです。

通信衛星は地上と宇宙で接続しているため、地上基地局の設置が難しい離島や山間部に通信サービスを提供できるほか、災害や紛争など有事の際の通信手段としても有用です。2022年のロシアによるウクライナ侵攻時、イーロン・マースク氏率いるスペースXがウクライナに通信衛星「スターリンク(Starlink)」で通信回線を無償提供したことは記憶に新しいでしょう。

日本の代表的な通信衛星には、スカパーJSATが運営する「JCSAT(ジェイシーサット)」があり、基本的に衛星放送や衛星通信に使われています。

4.その他

近年は民間企業による宇宙開発が進み、いま挙げた3つには当てはまらない、さまざまな人工衛星も登場してきました。

日本の宇宙ベンチャー・ALEが取り組む流れ星衛星もその1つです。これは、流れ星の素となる約直径1cmの粒を人工衛星に搭載し、大気圏に向けて放出して人工流れ星を作るプロジェクトです。2024年後半に3号機を打ち上げ、2025年に世界初の人工流れ星を実現させることを目標としています。

ALEの人工流れ星の流星源放出イメージ図(ALE プレスリリースより)

 ほかにもソニーが開発した宇宙空間から静止画や動画を撮影できる人工衛星「EYE」や、アストロスケールホールディングスによる軌道上のスペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去を目的とした技術実証衛星「ELSA-d(エルサディー)」など、さまざまな用途の人工衛星が増えてきています。

民間企業における人工衛星のビジネス活用事例(業界別)


従来、人工衛星ビジネスといえば衛星の製造開発や打ち上げがメインであり、主に政府やJAXAなどの国立研究機関が主導してきました。しかし、近年宇宙ビジネスは官需から民需への移行が進み、民間で人工衛星を開発して打ち上げるだけではなく、衛星データや測位データを使って一般社会に向けたサービスを提供する、新たな"宇宙を活用した地上ビジネス”の事例が増えつつあります。

ここでは、分野ごとに人工衛星の活用事例をご紹介します。

1.農業分野

農業分野ではここ数年、無人農機やドローン、IoTを活用したスマート農業への取り組みが増えていますが、その手段の1つとして人工衛星が活用され始めています。衛星では広範囲の農地を観測できるため、人手を要する定期的な監視が不要に。遠隔で作物の生育状況や収穫時期を分析したり、適切な栽培地を探索したり、災害や獣害による被害状況を確認したりできるようになります。

例えばJAXA発のスタートアップの天地人は、国内大手の米卸業企業の神明、スマート水田サービス「paditch(パディッチ)」を提供する農業ITスタートアップである笑農和と、2021年5月から「宇宙ビッグデータ米」の栽培・収穫を開始しました。

天地人が開発した土地評価サービス「天地人コンパス」を活用し、神明が保有する農地からより収穫量が高い栽培適地を選定。さらに「paditch」によってスマホで田んぼの水管理を自動化し、夜間に冷たい水を取り入れて水温を低温に保つことで、2023年は酷暑にもかかわらず例年同様、1等米の高品質なお米を生産・販売できたといいます。

天地人による「宇宙ビッグデータ米」(天地人 プレスリリースより)

また、スマート農業では深刻な労働力不足の解決策として農機の自動運転が注目されており、日本でも「RTK-GNSS」と呼ばれる誤差2cm程度の高精度な測位衛星システムを用いて、田植え機やトラクターの自動操舵を導入する事例が徐々に増えつつあります。

2.漁業分野

漁業分野でも人工衛星の活用が進んでいます。日本は排他的経済水域(EEZ)と領海を合わせると、世界6位と広大な海域を有しています。漁業にとって重要なのは好漁場の予測ですが、人力では観測できる範囲に限りがあります。

衛星画像データの撮影や解析を行うアクセルスペース、海洋に関するデータの解析を行うオーシャンアイズ、京セラの3社は、2020年より高精度漁場予測サービスに関する共同研究を開始しました。まだ、実証実験の段階ですが、実用化すれば漁獲の効率化や漁獲量の管理などが行えます。

水産養殖にIoTやAI、機械学習など最新テクノロジーを用いた支援サービスを展開するウミトロンは、2020年より衛星データを活用したサービス「UMITRON PULSE」を提供開始。観測衛星で捉えた世界中の海洋データを高解像度でスマホから日次確認することができ、広範囲の海洋環境の変化を定期的に把握することで、水産養殖でより効率的な生育や、プランクトンの発生といったリスクの管理が可能になります。

ウミトロンの「UMITRON PULSE」の高解像度海洋データ画面(ウミトロン ニュースより)

中国企業の「寧波漁遥科技」では、海洋環境を立体的に観測して高精度の魚群探知を支援する漁業サービス「漁遥漁鷹」をリリース。衛星のリモートセンシングデータやAI、ビッグデータ解析を漁場予測のプロセスなどに取り込み、漁場予測のための質の高いデータを提供するものです。同サービスのイカとマグロの漁場予測は正確度が約76%に達していると報じられています。

3.畜産業

畜産業ではユニークな事例として鹿児島大学の後藤研究室を発起人に、慶應義塾大学や北海道大学のほか、JAXAなどが研究協力している「宇宙牛プロジェクト」があります。

肉牛の首に人工衛星からの電波を受信する装置を着けて放牧し、牛の測位情報を畜産農家のスマートフォンに送る実証実験です。分散している耕作放棄地を1つ1つ見回らなくても放牧牛の位置を把握できるだけでなく、牛の傾きを感知することで発情や病気・怪我を検知したり、観測写真によって放牧地における草量も管理できます。

牛を放牧する耕作放棄地が広く、かつ傾斜地であるほど、人力による監視・管理は難しいのが現状です。人工衛星をうまく活用できれば、畜産業における労働力不足の課題解消や、耕作放棄地の活用などが期待できます。

4.林業

違法な森林伐採は世界中で深刻な問題となっています。しかしながら、現地に足を運んで森林の状況把握・分析をするのには多大なる時間と労力を要します。そこで、各企業が人工衛星データを活用した監視システムを開発しています。

例えば、住友林業は2020年12月にインドネシアのカリマンタン島の大規模な産業植林事業において、人工衛星やドローンを用いた現地調査の効率化に取り組んでいます。2023年6月には、これら衛星データを用いて熱帯泥炭地管理の初期AIモデルを構築したことを発表。植林企業が管理する泥炭地にどのような水路やダムを配置すれば適正な地下水位を保てるのかといった、経験豊富な技術者のみができた地下水位予測を、AIで7日後まで行うことが可能になったと報告しています。

住友林業が発表した地下水位予測システムのイメージ図(住友林業 ニュースリリースより)

また、2021年12月にはAIやディープラーニングを活用したサービスを展開する企業・Ridge-iが、衛星データで全世界の森林伐採の進行状況を可視化できるアプリケーション「GRASP EARTH Forest」の提供を開始しました。
森林伐採のエリアだけでなく時期なども特定できます。森林保護地域での違法伐採や、伐採許可量を超えた過剰伐採を自動検出するほか、荒廃化が進行したエリアを検出し、植林候補地の調査・探索などに活用可能です。

5.防災

人工衛星は従来、被災状況の観測・分析にたびたび利用されてきました。東日本大震災では、JAXAが陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」で緊急観測を行い、津波や地震による被害状況を撮影したことで、大規模震災の全貌が初めて明らかにされました。2021年7月に発生した熱海の土石流災害でも、人工衛星による画像分析で迅速に被害状況を分析しています。

現在は、防災の観点から民間企業でも人工衛星の活用が進みつつあります。2020年10月、スカパーJSATとゼンリン、日本工営は「衛星防災情報サービス」の開発・提供に向けた業務提携を行いました。同サービスでは、平常時は堤防や道路、斜面などをモニタリングして災害リスクを可視化することが可能。災害時には、迅速な被災状況の確認を行うことで、二次災害の防止や、早期復旧につなげることができます。

スカパーJSAT・ゼンリン・日本工営による水害等を予測・減災する
『衛星防災情報サービス』イメージ(スカパーJSATニュースリリースより)

6.気象予報

気象予報における人工衛星の歴史は長く1977年にまで遡ります。日本で初めての静止気象衛星は「ひまわり」で、米航空宇宙局(NASA)によって打ち上げられました。

近年は民間で気象衛星を打ち上げ・運用する事例が増えつつあり、日本では天気予報アプリ「ウェザーニュース」を運営するウェザーニューズが、アクセルスペースと共同で超小型独自衛星「WNISAT-1」を開発。2013年11月に打ち上げに成功し、2014年には民間気象衛星として世界で初めて画像の撮影に成功しました。現在は「WNISAT-1R」が後継機として2017年7月から定常運用されており、観測データが少ない海上の波や風、海氷の新たな観測に挑戦しています。

またユーザー向けには、2023年にアプリのレーダー機能に「衛星」モードを追加。世界各国の静止気象衛星5つと、極軌道気象衛星2つの観測データを用いることで、72時間分の雲画像(赤外画像)を世界中どこでもマップ上で確認できるようにしました(無料版は24時間分)。衛星による雲の画像で台風の位置が確認できるほか、梅雨前線やゲリラ雷雨に関係する積乱雲の発達の様子なども確認できるといいます。

ウェザーニュースのレーダー「衛星」モードの画面
(ウェザーニュース公式サイト「ニュース」より)

7.放送、報道

民間事業における衛星放送の代表格といえば、「スカパー!」を展開するスカパーJSATでしょう。1989年に日本の民間企業で初めて通信衛星の「JCSAT-1号」を打ち上げた衛星通信事業者です。現在アジア最大となる16機の衛星を保有し、従来の衛星放送事業のほか、船舶や航空機といった移動体に回線を提供するモバイルビジネス、全国の自治体や電力・ガスなどライフラインを担う企業向けに災害対策に適した衛星ビジネスを展開しています。

SNSに投稿される災害・事故・事件などの危機情報を収集・解析し、報道機関向けに配信しているSpectee(スペクティー)では、災害監視システムに衛星画像を活用。SNSではユーザーの投稿数が少なくなってしまう山間部や夜間の場所の情報を人工衛星で取得し、常に俯瞰した画像データをSNSデータに掛け合わせることで、水害の浸水状況を推定・予測するなど、より正確性・網羅性の高いシステムの開発に取り組んでいます。危機情報を即座にユーザーへ通知するサービス「Spectee Pro」は大手テレビ局や新聞社など報道機関約100社が導入しており、ニュースの現場に衛星が活用されている事例といえるでしょう。

8.不動産

衛星写真で広範囲にわたって、駐車場や事業用地を探したり建設中の新築物件を把握したりするなど、不動産分野での衛星データの活用も進められています。

国内では、衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」を運営するさくらインターネット株式会社、駐車場シェアリングサービスを展開するakippa株式会社、人工衛星データAI分析サービスの提供を行う株式会社Ridge-iの3社が合同で、衛星画像から駐車場用スペースを自動検出するツール「TellusVPL」を開発しました。

新しく駐車場用スペースを開拓するには、地図で探し出した候補地に担当者が赴き営業活動を行うケースも多いのですが、衛星から候補地の見当がつけられるようになるとそうしたコストの削減が期待できるといいます。2021年8月よりTellusの公式ツールとしてα版が無料提供されています。

駐車場検知ツール「TellusVPL」の新規駐車場用スペース解析結果イメージ画像
Tellus ニュースリリースより)

また、不動産分野での活用事例として興味深いのは「カーボンクレジット」の観点での土地評価に衛星データが使われているケースです。

カーボンクレジットとは、企業が「温室効果ガスをどれだけ吸収できたか」「温室効果ガスの排出をどれだけ減らせたか」、その量をクレジット(排出権)として発行して他社間と売買できる仕組み。そのクレジットの透明性を証明する取り組みに、広大な土地を衛星データでモニタリングするなど衛星が活用され始めています。

9.保険・金融

金融業界では、企業への投資の判断材料として衛星データを提供する事例も登場しています。例えば米Orbital Insight社は、米Planet社が運用する観測衛星を用いて、世界中の石油タンクを撮像。衛星画像から石油備蓄量を推計し、エネルギー関連企業や投資家に迅速に知らせるサービスを提供しました。

Orbital Insight社が公開している、石油タンクの衛星写真。
蓋の浮き具合から石油備蓄量を推計している(Orbital Insight Media Kitより)

国内でも、2023年11月に株式会社スペースシフトが、Amazon Web Serviceが展開する「 AWS Marketplace 」において、SAR衛星画像から新規に建造された建物を検知するサービスを公開。都市開発のモニタリングや建設進捗の追跡、人口動態研究など、さまざまな分野での活用が期待できます。

保険業界でも衛星の活用は進みつつあります。ここ10年で保険金の支払額は、自然災害の激甚化によって増加傾向にあり、2018年・2019年は2年連続で1兆円を突破。しかしながら、損害調査には時間がかかり、迅速に被災者へ保険金を支払えない課題がありました。

あいおいニッセイ同和損害保険は、広島大学と共同研究しているリモートセンシング技術と建物被害AI自動判読技術を掛け合わせ、地域別に建物損害額を最短3日で可視化する取り組みを2023年度に実用化すると発表しました。これにより、人工衛星画像や航空写真が取得できた台風被災地域では、事故受付から損害調査開始までの平均日数を7日短縮できるといいます。さらに養生・修理着工の早期化、罹災証明書の手続きの迅速化支援にも活用される予定です。

10.地図サービス

地図サービスときくと、アメリカが運用している「GPS」を思い浮かべる方も多いでしょう。近年は、衛星データを応用して3次元の地図の開発を行う事例もあります。

そのうちの1つが、高精度3次元地図データを開発するダイナミックマッププラットフォーム株式会社です。高精度3次元地図データとは、3次元空間情報を取得する測量システムMMS(モービルマッピングシステム)を使って測定し、膨大な容量の高精度3次元点群データを用いて生成される地図のこと。同社は衛星測位システムを組み合わせることで、日本全国の高速道路と自動車専用道路の形状、センターラインや標識の位置などをほぼ誤差なく測量することを実現しました。

道路交通上のさまざまな課題解決をはじめ、インフラの保守管理、さらには完全自動運転の実現にも活用できる技術として注目されています。

ダイナミックマッププラットフォームによる高精度3次元地図データのイメージ画像
ダイナミックマッププラットフォーム NEWSより)

11.自動車、物流

英大手消費財メーカーのUnilever社は、2020年に米Orbital Insight社と業務提携を行い、同社が展開する地理空間分析ツール「Orbital Insight GO」の活用を開始。

今まで、商品を原材料の調達から生産、そして消費または廃棄までを追跡可能な状態にする「トレーサビリティ」は技術的に困難でした。しかし「Orbital Insight GO」を導入したことによって、Unilever社が提携するインドネシアやブラジルの大規模なパーム油農園のサプライチェーンの可視化ができ、リードタイムの短縮、CO2排出量の管理など、より精緻な解析が実現できています。

12.人流解析

人流解析とは、POSデータやGPS、監視カメラ、Wi-Fiなどを使って、人々がどのような経路を辿って移動し、いつどこに滞在・移動しているかを解析する手法のことを指します。近年は衛星データが加わり、さらに精密な解析が可能となりました。

2020年11月、三井住友銀行はOrbital Insight社と戦略的パートナシップを締結し、衛星画像などを活用したデータ分析サービス「ジオミエール」の提供を開始しました。

観測対象エリアは国内を含む全世界(一部除く)で、人流はもちろん、車両の混雑状況や土地・建物の状況も分析できます。これにより、情報分析が効率化され、出店候補地となるエリアの選定や、観光地におけるオーバーツーリズムの是正などを行うことが可能となります。

データ分析サービス「ジオミエール」で、人の分布をヒートマップで分析した画像
三井住友銀行ニュースリリースより)

13.教育

2022年度から、高校では「地理総合」が選択科目から必修科目へと変更されました。背景としては、グローバル化の流れはもちろん、先の東日本大震災や西日本豪雨といった度重なる災害への意識の高まりや、地球環境保全への動きなどが挙げられます。

地理総合の授業では、観測衛星データを教材として採用する動きが進んでいます。JAXA宇宙教育センターは、先立って2021年に「Google Earth Engine Apps」を活用した宇宙教育教材を開発。実際に学校の授業で使われる事例も公開されています。

14.エンタメ

衛星データをファッションや雑貨へ転用させるユニークな事例もいくつか存在します。その1つが「WEAR YOU ARE」。dot by dot inc.とフューチュレック、一般財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)、GMOペパボが2017年6月に共同で立ち上げたファッションブランドで、お気に入りの衛星画像を自由にカスタマイズし、Tシャツやスマホケースに全面プリントすることができます。なお、衛星画像は日本全国どこでも指定可能です。

2024年現在、WEAR YOU AREのサービスは閉鎖されていますが、GMOペパボが運営するグッズ制作サービス「SUZURI」にて、WEAR YOU AREでデザインされたTシャツやスマホケースの一部を購入できます。

「WEAR YOU ARE」イメージ画像(GMOペパボ ニュースリリースより)

また、スカパーJSATはSatellite Crayon Project企画第一弾として、2022年1月に「海のクレヨン」を一般発売。これは、衛星が撮影した世界中の海の色を再現したもので、売上の一部は海面上昇の危機に瀕しているキリバス共和国へ寄付しています。また、2023年3月には第二弾「山のクレヨン」を発売。こちらも売上の一部は火山噴火で甚大な被害を受けたトンガ王国への復興支援金として寄付されます。

まとめ


衛星データ活用といえば、気象予報や放送といった領域でした。しかし、取得データの幅が広がり、今や防災、一次産業(農業・林業・水産業)、保険・金融、エンタメなど、あらゆる業界での活用が進んでいます。

まだ実用化に至っていない事例も多いものの、人工衛星やデータ分析の技術は日進月歩で進化しています。ここに各業界のアイデアが掛け合わされることで、革新的なユーザー向けサービスが次々と登場していくーーそんな宇宙ビジネスの転換期の真っ只中にいることに心を躍らせつつ、どのような事業が展開されるのか引き続き注目したいところです。

 

企画・制作:IISEソートリーダシップ「宇宙」担当チーム
文:俵谷龍佑 編集:黒木貴啓(ノオト)
図版:藤田倫央

 

参考文献

・Lucy Handley.”Unilever is using geolocation data and satellite imagery to check for deforestation in its supply chain”.CNBC.2020年10月01日
・”東日本大震災-JAXA地球観測の記録”.Earth-graphy.2021年3月8日
・”人工衛星とは?打ち上げの目的や役割を解説!よくある質問も”.JAMステ.2022年6月10日
・猪俣康太郎.”鹿児島1次産業DX 宇宙牛プロジェクトで変わる畜産”. NHK.2022年6月24日
・記者:杨逍、翻訳:山下にか.”中国、AIやビッグデータ活用した漁場予測技術 漁獲高4割増もコスト低下”.36Kr Japan.2023年5月16日
・農林水産省農産局技術普及課.”農業新技術活用事例”.2023年10月
・神武直彦、恩田靖、片岡義明(2022)『いちばんやさしい衛星データビジネスの教本 人気講師が教えるデータを駆使した宇宙ビジネス最前線』.インプレスブックス
・準天頂衛星初号機みちびき特設サイト.”今いる場所・時間がわかる測位とは
・内閣府公式サイト.“海の未来

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