紗世

紗世です。読書好き。11月生まれ。 心の中の言葉をイラストや文章にしていきたい。 日々…

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紗世です。読書好き。11月生まれ。 心の中の言葉をイラストや文章にしていきたい。 日々の記憶、感じた事、忘れたくない思い出。

マガジン

  • ねこの孫

  • 食べもの・おいしい話、エッセイ

    食べ物、アイス、読んだ本など。

  • 小説 ねこ世界

    ねこの世界で家ねこと野良ねこの悲喜こもごも。

  • 鼻のけもの バナナサンデー

  • 地獄

    賽の河原で石積みをするわたし。

最近の記事

ねこの孫9

昼寝しそびれた巌が天井を見つめているとピンポーンと玄関チャイムが鳴った。 (む、誰だろう。押し売りか宗教の勧誘か) そういう手合いだと相手するのが死ぬほど面倒臭いので居留守を使うか、と巌は息を殺して思った。 起きると腹の上の杏を起こしてしまうかもしれない。せっかくぐっすり寝ている仔猫を起こすのは忍びない。 巌がそう考えているのとまたピンポンピンポンが立て続けに鳴る。しつこい。根比べだな。と巌が心を無にしていると、「いわおさーん。いるんでしょうー」と聞き覚えのある女の声がする。

    • ねこの孫8

      テーブルに勢いよくビールの缶を置いて、響子は巌を見た。すでに目が据わっていた。 「三嗣さん、女がいたんだって」 巌は響子の目をじっと見た。白目が血走っていた。昼間の沙絵の赤い目を思い出した。響子は妹のために怒っているのだ。 「それは…」 巌は言葉を探したが、おっかぶせるように響子は続けた。 「女がいたのは前からわかってたんだって。でも沙絵ちゃんは我慢してたのよ。そのうち別れてくれるだろうって」 「はあ…」 「そしたらとんでもない。向こうに子供ができちゃったんですって」 響子は

      • ねこの孫7

        しばらくして、紀子が手ぶらで書斎に戻ってきた。憮然とした顔をしている。 「どうした?」 タマが見つからなかったのかと巌は思った。 「タマ、おばちゃんの膝の上で寝てた。お母さんが起こすのがかわいそうだからタマ寝せときなさいって」 不満を表すように紀子はドスンと座った。 「おばちゃんは猫好きだったのかな」 「知らない」 「タマは俺の膝には乗ってこないのに」 「タマは男が嫌いなんだよ」 紀子は不器用に少女漫画雑誌のビニールの包装を破って、気がなさそうにページをめくる。俺が子供の頃は

        • ねこの孫6

          仔猫の杏はお腹がいっぱいになったせいか眠そうだった。 巌は和室の畳の上で一緒に昼寝をする事にした。杏は巌の腹の上で丸くなり喉を鳴らしている。 ちっぽけな軽さ、ちっぽけな温かさ。 こんな小さな生き物に触れるのは久しぶりだった。 娘の紀子が小学生の頃、捨て猫を拾ってきた事があった。 ちょうど今の杏と同じくらいの仔猫で、紀子は三毛猫をタマと名付けた。 その頃、妻の響子の妹の沙絵が打ちひしがれた様子で訪ねてきた。 「姉さん」 沙絵は姉の顔をみると泣き崩れた。 ただならぬ様子に巌は席

        ねこの孫9

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          9本
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        • 小説 ねこ世界
          38本
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          22本
        • 地獄
          13本
        • あなたの好き嫌いはなんですか?
          28本

        記事

          白雪姫と七匹のねこたち

          白雪姫と七匹のねこたち

          ねこの孫5

          「じゃあね。杏おじいちゃんをあんまりいじめないでね」 玄関で紀子 はしゃがんで杏の頭を撫でる。 「ママ、いつ来る?」と杏は紀子に言った。 いつ来る?というのは、いつ迎えに来るの?という意味だ。 「そうね…。一週間くらいかな…」 紀子は暗い顔をして言った。その顔を見て巌は娘が気の毒になった。 妻から猫が産まれたという現実を受け入れられない夫の洋一を紀子は説得したいのだと言った。だが、紀子の話を聴くに洋一は杏を自分の子だと思えていない。もう、ほっとけと巌は思ったが黙っていた。 洋

          ねこの孫5

          敵を愛することについて

          私が、ルカの福音書の「敵を愛することについて」を読んだ時、真っ先に浮かんだのが親の存在だった。 親は私がこの世に生まれて初めて出会った敵だった。 父は死んだが、父のことを考えると父もかわいそうだったんだな、という考えにたどり着いてしまい、憎めればよいが、そうもできない。それが私はつらくてかなわない。 死してなお、私の心を引き裂くのである。 問題は母である。この人は生きているが、私の心の中に石のように居座っている。 忘れた頃に電話をしてくる。 そして私がギョエーと内心叫ぶような

          敵を愛することについて

          ねこの孫4

          「お父さん、覚悟しといてね。杏の遊び相手は大変よー。加減ができないから本気で蹴り蹴りしてくるし、爪が細いから痛いのよ」 杏はもうすぐ生後3ヶ月になる。 歯も生えて、猫用のごはんももりもり食べる。動くものにじゃれつくし、紀子の手足は傷だらけだ。 「はあ、お前のそれは名誉の負傷だな」 「めいよのふしょうってなにー?」 紀子の膝の上でふたりの会話を聞いていた杏が言った。 「あら、名誉の負傷は杏には難しくてわかんないわよ。簡単に言うと杏と遊ぶとママ、痛い痛いになるの。でも杏が可愛いい

          ねこの孫4

          ねこの孫3

          紀子は夫の洋一とふたりで「キッチンこやま」という洋食屋を営んでいる。 結婚して九年経つが、その間、紀子は二回流産を経験し、子供はいなかった。 夫婦は子供を持つことを諦めかけていた。 紀子と洋一は35歳になる。 とにかく夫婦は仕事を頑張ろうと、店の定休日にはあちこちのレストランを食べ歩き、それなり充実した日々を過していた。 ある日紀子は自分の身体の異変に気づいた。生理が来ない。何だかだるい。 でも生理はもともと不順気味だったし、連日の仕事で疲れたんだろうと気に留めなかった。しか

          ねこの孫3

          ねこの孫2

          「ママ、泣いてる」 耳を伏せて巌の足にぴったりくっいて杏が言った。 「うん。ママ泣いてるね。ママ頑張り過ぎて疲れちゃったのかな?」 泣き出した娘にどう接していいのかわからず、厳は仔猫の杏に話しかけた。 杏は首をかしげると、 「ママ疲れちゃって泣いてるの?どっか痛い痛いなんじゃないの」 と言った。 「痛い痛い?杏はそんな言葉知ってるのか」 「ママが言ったよ。痛い痛いだと涙が出るんだよって」 「そうか。紀子。どっか痛い痛いなのか」 厳が紀子に向かって言うと、ズルズル鼻水を啜りあげ

          ねこの孫2

          ねこの孫1

          「おじいちゃーん!きたよー」 小さな肉球が廊下をとててて、と走る音が近づいてくる。 老眼鏡をかけ新聞を読んでいた巌は顔をあげ相好を崩した。 「来たか」 「おじいちゃーん。開けてー」 居間へ続くドアを爪でカリカリ引っ掻いている音がする。摺りガラス越しに白い仔猫が見えている。 「おお、いま開けてやるから」 巌が立って行ってドアを開けると白い仔猫は飛び込んできた。 「おじいちゃーん」 こねこは巌の足にすり寄ってくる。巌はしゃがんで、孫の仔猫の頭を撫でた。 「元気だったか。杏」 杏は

          ねこの孫1

          父の好物

          昨日、父の日だったのでなんとなく自分の死んだ父の事を思い出し、「もうちょっと優しくすればよかったかな?」などと思ったのですが、当時の事を細やかに思い出すと、実家は阿鼻叫喚地獄のようで、毎日のように怒号が飛び交っていたので、とてもじゃないけど優しさを発露させれない状況の方が多かったのでした。 今は、自分がひとりで暮らして精神的に安定しつつあるから「もっと優しくすればよかったかな?」などという気持ちが湧いたのでした。 それから、私は実家にいる頃は父のごはんを何度も作ったなあと

          父の好物

          今日は父の日(イラストつき)

          日曜日の今日は父の日ですね。 父の日…。だというので父の事を考えました。 数年前に父は亡くなっているのですが、今日思った事は「もっと優しくしてやればよかったかな?」という事でした。 2、3年前はそんな事思わなかったのに、私も年を取ったのだろうか…。 悔いというほどではないにしても。 色々父に対する思いを噛み締めながら絵を描きました。 ねこ家族の父子はほのぼの幸せそう…。 私の頭の中にはねこ世界が広がっていて、そこではいろんなねこの家族達が悲喜こもごもある日々を暮らしています。

          今日は父の日(イラストつき)

          ねこと姉さん(イラスト)

          ねこと姉さん(イラスト)

          イラストねこ世界

          商店街のおにぎり専門店「おにぎりの岩松」 おすすめはまぐろ味噌漬けのおにぎり。 まぐろのブツを特製味噌に漬けて、こうばしく焼いたのを具にしました。 味噌がごはんにベストマッチ! 他にしゃけ、たらこ、おかかなどもあるよ!

          イラストねこ世界

          小説 ねこ世界 最終回

          広い母子寮の台所で、ミケとシマは鍋の支度を始めた。そこへおずおずと入寮しているニキが顔を出した。 「あの、私もお手伝いします。こねこ達はタマさんがみてくれてるので、私にも何かさせて下さい」 ミケはニキの顔色をみた。 (よかった。昨日はゲッソリしてたけど、元気が出たみたいね) ミケは嬉しくなった。 「良かった。手伝ってもらうと助かるわあ。じゃ野菜を切ってもらおうかな」 ミケが言うとニキはにっこり笑った。 危なっかしい手つきで白菜を切っていたシマもほっとした。 「私、お料理全然ダ

          小説 ねこ世界 最終回