紗世

紗世です。読書好き。11月生まれ。 心の中の言葉をイラストや文章にしていきたい。 日々…

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紗世です。読書好き。11月生まれ。 心の中の言葉をイラストや文章にしていきたい。 日々の記憶、感じた事、忘れたくない思い出。

マガジン

  • 小説 ねこ世界

    ねこの世界で家ねこと野良ねこの悲喜こもごも。

  • 食べもの・おいしい話、エッセイ

    食べ物、アイス、読んだ本など。

  • 鼻のけもの バナナサンデー

  • 地獄

    賽の河原で石積みをするわたし。

  • あなたの好き嫌いはなんですか?

    泉の物語。

最近の記事

小説 ねこ世界37

「ごめんなさい…あたし本当に母親失格ですよね…ミケさん本当にごめんなさい…」 アヤメはさめざめと泣いた。 ミケはアヤメの背中を擦りながら5年前のアヤメを思い浮かべていた。 ミケが出産して一月後、こねこを養子に欲しいという若夫婦と 会った。 その一組目がアヤメ夫婦だった。 アヤメは流行りのラメ入りメイクをして小綺麗にしていた。旦那の方もこねこを見るとニコニコしてこねこ好きそうだった。 アヤメ夫婦はメスの子を抱いて微笑んでいた。その子がスミレだ。 ミケは自分で生んだ子を養子に出す

    • 小説 ねこ世界36

      ミケは小鍋に牛乳を注ぎコーンスープの素をかき混ぜる。クツクツと火にかけ、木べらでまぜる。スープはだんだんなめらかになめらかになっていく。 「食べられるといいわね」 泣いていた彼女を思い浮かべる。 全身の毛がボソボソになっていたので落ち着いたらお風呂に入ってもらおう。 ミケはスープカップにコーンスープをついでお盆にのせた。 水もあったほうがいいか、と水のコップも盆にのせた。 「じゃ彼女のとこに行ってきます」 ミケは世間話に花を咲かせている所長達に声をかけた。 「お話しできるよう

      • 小説 ねこ世界35

        ミケが部屋を整えて布団を敷くと所長とおじさんがやってきた。 おじさんは背におぶっていた彼女を布団に寝かせてやる。 「本当は母子寮は男子禁制で私達は立ち入れないことになってるんですが、今日は緊急事態ですからな。本当にご協力ありがとうございます」 所長がおじさんに言った。 「いやいや、役に立ててよかったよ」 「食堂でお茶を飲んで行って下さい」 所長がおじさんに言う。 ミケはやつれた彼女に話しかけた。 「大丈夫よ。布団ふかふかであったかいでしょ。何か食べる?」 いたわるように声をか

        • 小説 ねこ世界34

          「いいですなぁ。わたしのとこはオスばかりでしたから、メスの子がいると可愛いでしょうなぁ」 所長がおじさんに相槌を打つ。 「ああ、可愛いし、メスの方がしっかりしているよ。性格かなぁ。昨日なんかチキンカツ作ってくれたんだけど、食べるときに中濃ソースをぶっかけたら怒るんだ。お父さん!これはキエフスキカツレツだから中濃ソースはなしだよ!ってさ」 「カツにはソースでしょうに」 「それが、カツの中にバターソースが入ってるんだって。お父さんそんなハイカラな料理知らないからソースかけちゃった

        小説 ねこ世界37

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        • 小説 ねこ世界
          35本
        • 食べもの・おいしい話、エッセイ
          89本
        • 鼻のけもの バナナサンデー
          22本
        • 地獄
          13本
        • あなたの好き嫌いはなんですか?
          28本
        • 一週間
          7本

        記事

          小説 ねこ世界33

          ミケはぐったり目を閉じているねこの耳元に「聞こえますかー」 と声をかけた。 彼女の手に触れるとすっかり冷たくなっている。 「一晩ここで明かしたの。寒かったでしょう」 小さな声で話しかけると彼女は目を開けた。 「もう大丈夫だからね。心配しないで」 彼女はミケを見た。 「 あ…病院には、行きたくないです…」 「うん、うん。身体は大丈夫ですか。痛いとことない?」 ミケは彼女の全身を見回した。 やつれて毛がパサパサになっているが怪我などはないようだ。 「寒い…」 か細い声で彼女は言

          小説 ねこ世界33

          小説 ねこ世界32

          「今、ちょうどオスの職員がみんな出払っているんです。ブチさんもトラさんも今日は炊き出しの日なんですよ。どうしましょう」 シマはオロオロとミケに言った。 「行き倒れの方はどんな状態なの?」 ミケはシマの目をしっかり見て訊いた。 「えっと、倒れてたのは成猫のメスの方です。意識はあるそうです。でも身体が衰弱してて、力がないみたい。散歩中の方が見つけて電話してきました」 「病院に運んだ方が良さそうな感じかしら」 「それが病院には絶対行きたくないそうです。その行き倒れのねこがそう言って

          小説 ねこ世界32

          小説 ねこ世界31

          ミケは職場に着くと所長室へ行った。 ノックもなしにドアを開けると、部屋には加齢臭がこもっていた。所長の体臭だ。 さては昨夜はここに泊まったのだな、とミケは思った。 加齢臭の元をたどると所長がソファーでひっくり返っていた。 よく寝ている。 ミケはあああ、もう始業時間だというのに、とイライラした。 「所長!!」 ゴミ箱を蹴っ飛ばしてでかい声をかけた。 所長はビクッとして寝ぼけた目をぱっちり開けた。 しばらく、ここがどこだかわかんないという表情でキョロキョロしたが、ミケを認めると「

          小説 ねこ世界31

          小説 ねこ世界30

          朝の食卓で、スミレはうつむいている。 「ママどこいった?」とミケとダンに訊ねたきり黙ってしまった。 目の前にはご飯とあさりのみそ汁と卵焼きがほかほか湯気を立てていたが、スミレは食べようとしなかった。 隣の椅子に腰掛けたウリはむしゃむしゃご飯を食べている。 ウリとスミレを見比べてミケはため息をついた。 「やっぱりママが恋しいよね…」 ミケの声が沈む。 「うん…。ねぇスミレちゃんのママの名前はなんていうの?」 ダンがスミレに訊いた。スミレはダンをじっと見つめた。 「ママ…ママはア

          小説 ねこ世界30

          小説 ねこ世界29

          ミケはハッと目覚めた。 子供の頃の夢を見ていた。 大人ねこと幕の内弁当を食べる夢だ。 卵焼きは甘く、ごま塩をまぶしたご飯は塩気が効いておいしい。 味までリアルに思い出せる。 カーテンを陽の光が明るくしていた。 時計を見ると7時過ぎ。 あああ、朝になってしまった。 隣の布団ではすぴーすぴーと寝息がしている。こねこ達が眠っているのだ。 ミケはその布団のふくらみをじっとみた。 こねこが二匹その下で眠っている。 夢じゃなかった。ウリとスミレ。 昨日の夜、家に帰ってくるとスミレがいた。

          小説 ねこ世界29

          小説 ねこ世界28

          おじさんねこにお弁当を手渡すと、おじさんはミケに「ありがとう」と言った。 ミケは心の中がぽっと温かくなる。 おばさんねこも「えらいわねぇ」とにっこり笑いかけてきた。 ミケは自分の存在が他ねこに認められているという確かな感覚を持った。 こんな事は初めてだった。 暗闇の世界に小さな光が射し込んだ。 ミケは今までにない感動にうち震えながらチラシを受け取り、お弁当を渡し続けた。 さて、ミケの横でお弁当を配るはずのお兄さんと黒ねこは仕事そっちのけで話しこんでいる。 ミケが一匹で全部のお

          小説 ねこ世界28

          小説 ねこ世界27

          さて、お弁当無料配布テントに野良ねこ達が集まってきた。 どのねこも薄汚れていた。 野良ねこ達はどの顔も元気がなかった。 黒ねことミケは役割りを分担してお弁当配りにあたった。 ミケがチラシを受け取り、黒ねこがお弁当を渡す。 お弁当を受け取る野良ねこ達はどこか後ろ暗い気持ちを持っているのか、ササッとお弁当を受け取ると足早に立ち去っていく。 野良ねこであることを恥だと考えているのだろうか。 ミケは同じ野良ねことして、何だかつらくなる。中にはこねこを連れた母親もチラシを握りしめている

          小説 ねこ世界27

          小説 ねこ世界26

          お祭り会場の混雑をかき分けて主催者テントに近づくと長テーブルにお弁当が積み上げられているのが見えた。 黒ねこはミケに「お弁当だ!」と笑いかけた。ミケもつられて黒ねこに笑いかえした。笑顔というのは心をほどく。 見ず知らずの黒ねこだったがミケは親しみを感じた。 普段、ミケの親は怒った時くらいしかミケに話しかけてこない。 誰かと言葉を交わすことがこんなに心を楽しくさせるのだと、ミケは思う。 無視しないで。私に気づいて。私の声を聴いて。こねこの小さな願い。 それは誠に小さくか細く、こ

          小説 ねこ世界26

          小説 ねこ世界25

          野良ねこ保護団体のお兄さんが熱心に誘ってくれたというのもあるが、ミケは秋祭りに行ってみることにした。 何より焼きそばの屋台を見たら、兄を身近に感じることができるような気がした。 何もしないよりマシだった。 一人ぼっちでいると言葉を忘れてしまいそうだ。 誰かと話したい。誰か。もしも、友達がいたら…ミケは空想した。そうしたら今、自分はこれほど一人ぼっちの辛さを味わわずに済んだものを。 秋晴れの澄んだ空の高い日。 ミケは秋祭り会場の公園まで、ドキドキしながら歩いて行った。 野良ねこ

          小説 ねこ世界25

          小説 ねこ世界24

          ミケとお兄さんは並んで川を眺めた。 「野良ねこ保護所って何するところ?」 ミケはお兄さんに訊いた。 「それはね、野良ねこさん達が生きやすいようにお助けする所だよ。例えば食べ物を無償で提供したり、相談に乗ったりして、野良ねこさんが楽しく生きれるお手伝いをするんだよ」 お兄さんはよどみなく答えた。 「ふぅん」 ミケは生返事をした。 無償で提供ってなんだろ? 言葉が難しくってよくわからない。 それに楽しく生きれるだって。 生きるのが楽しいわけないじゃない。 毎日、親に邪魔にされて、

          小説 ねこ世界24

          小説 ねこ世界23

          兄が死んでしまってからのミケは抜け殻のようだった。 この世の希望という希望が失われてしまった。世界が灰色に見えた。 今までだって兄が会いにこない時間は灰色だった。だが兄が来さえすれば、風景に色がついたのに。 悲しみは痛みだった。 泣いても泣いても拭い去れない痛みだった。 両親に「お兄ちゃんが死んだ」と告げても父や母は「あーそう」という感じだった。 父と母はまったく悲しみもせず、さも当然だという態度だった。 ミケはそれにもショックを受けた。 お母さん!自分が生んだねこが死んだん

          小説 ねこ世界23

          小説 ねこ世界22

          ミケが兄の死を知ったのは、夏の終わりだった。ひぐらしの鳴く夕暮れ。 ヤブ蚊を手で叩き潰しながら、ミケは川をぼんやり眺めていた。 すると、知らないおじさんがミケに声をかけてきた。 「ミケちゃんかい?」 くたびれたおじさんからはかすかにソースの匂いがした。  ミケがまん丸い目をしてうなづくと、おじさんは深いため息をついた。 「ミケちゃん。ミケちゃんのお兄さんが死んだよ」 おじさんは吐き出すように言った。 ミケは一瞬おじさんの言ったことがわからず、お兄さんが死んだ、という言葉を頭の

          小説 ねこ世界22