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うろ覚えで書いたフランス文学人名辞典 


十九世紀以前


フランソワ・ヴィヨン

犯罪者にして偉大なる抒情詩人ヴィヨンがその堕落の半生の悔恨を綴った詩はフランス抒情詩の始まりを告げるものであった。太宰治に彼を題材にした『ヴィヨンの妻』がある。

フランソワ・ラブレー

ルネッサンス時代の人文学者・作家。小説『ガルガンチュワとパンタグリュエル』で当時の世相を風刺した。本国フランスよりもむしろ海外で研究されている。ミハイル・バフチンやマイケル・スクリーチの優れた研究書がある。

ピエール・ド・ロンサール


ルネッサンス時代の詩人。詩王と讃えられる。その古典的で優雅な詩はフランス詩の一つのモデルになった。代表作『オード四部作』『恋歌集』等

モリエール

古典主義時代の劇作家。ラシーヌ、コルネイユと並んで三大劇作家と呼ばれている。喜劇に多くの代表作を残しフランス古典喜劇を完成させた。俳優江守徹の芸名は彼の名から付けられている。代表作『女房学校』『守銭奴』『タルチュフ』『町人貴族』等多数。

ジャン・ラシーヌ

古典主義時代の劇作家。悲劇を得意とする。その厳格で端正な文体で綴られた古典的な戯曲はフランス語の至宝とも呼ばれ、アメリカの文芸評論家ジョージ・スタイナーなどにシェイクスピアより上と評されている。三島由紀夫の戯曲に影響を与えた。代表作『アンドロマック』『ブリタニキュス』『フェードル』等多数。

ピエール・コルネイユ

古典主義時代の劇作家。代表作『ル・シッド』は非喜劇と呼ばれるが、当時古典主義の原則に従っていないと批判を浴びた。

ラファイエット夫人

フランス貴族・政治家のラファイエット侯爵の妻。フランス心理小説の傑作『クレーブの奥方』を書いた。ラファイエット夫人のこの小説は二十世紀のモーリヤックやラディゲにも影響を与えている。ラディゲの代表作『ドルジェル伯の舞踏会』は彼女の小説へのオマージュでもある。

ピエール・ショデルロ・ド・ラクロ

バリの社交界を震撼させたと言われる暴露小説『危険な関係』を書いた。この書簡体小説は暴露小説でありながら鋭い心理描写と端正な文体でフランス心理小説の古典として今も読まれている。

マルキ・ド・サド

フランス革命期の小説家・貴族。サドは若い頃から犯罪行為を繰り返し、とうとう監獄に収監されるがその牢獄で小説を書き続けた。サドの小説は己の加虐性を全面に描いたもので、その小説と彼自身の性向は後に作家の名をとってサディズムと呼ばれるようになった。サドのは芸術の分野だけでなく、医学の分野に至るまで広く論じられている。三島由紀夫の戯曲にサドを題材にした『サド侯爵夫人』がある。代表作『美徳の不幸』『悪徳の栄え』『ソドムの百二十日』等多数。

バンジャマン・コンスタン

フランス革命期を代表する政治家であるが文学にも傑作を残している。若い頃からスタール夫人のサロンに通いそこで文学の教養を身につける。代表作『アドルフ』はフランス心理小説の最高峰と評されている。

フランソワ=ルネ・ド・シャトーブリアン

フランス革命期の政治家・小説家。フランスロマン主義の代表的作家。代表作『アタラ・ルネ』はフランスロマン主義の傑作。

十九世紀

ヴィクトル・ユゴー

フランスロマン主義の詩人・劇作家・小説家。フランスロマン主義最大の文学者である。ユゴーはまず詩人として華々しく登場し、それから戯曲や小説にも名作を書いた。その壮大なロマン主義の詩は同時代だけでなく、後の象徴派にも影響を与える。戯曲の『エルナニ』の初演のスキャンダルはロマン主義演劇の始まりを告げるものであった。小説の代表作『レ・ミゼラブル』はユゴーのロマン主義とヒューマニズムが最大限に表現された名作で当時大ベストセラーになり、今も読み継がれている名作である。晩年ユゴーはナポレオン三世を批判した事でイギリスに亡命しそこで客死した。代表作詩『懲罰詩集』『静観詩集』戯曲『エルナニ』小説『レ・ミゼラブル』『ノートルダム・ド・パリ』『死刑囚最後の日』等多数。

オノレ・ド・バルザック

ロマン主義と写実主義の橋渡しをした小説家。バルザックは初期はロマン主義的な小説を書いていたが、『ゴリオ爺さん』以降フランスそのものを描くような小説を書くようになる。彼のライフワークとなった連作長編シリーズ『人間喜劇』の構想とそこに収められた各小説で採用された人物再登場方式は後のゾラやフォークナーの連作長編シリーズのモデルになった。代表作『ゴリオ爺さん』『従姉妹ベッド』『従兄弟ポンス』『谷間の百合』『ラブイユーズ』『幻滅』等多数。

スタンダール

バルザックと同様ロマン主義と写実主義の橋渡しをした小説家だが、スタンダールのナポレオン法典のようだと評されるその文体は、バルザックの悪文と評されるほど複雑で入りくねった文体と見事に対照的である。またスタンダールの小説をバルザックと比較して、バルザックが長編連作『人間喜劇』でやろうとした事を『赤と黒』のたった一作で成し遂げてしまったという評言もある。代表作『赤と黒』『パルムの僧院』『アルマンス』等多数。

ギュスターブ・フローベール

写実主義の傑作『ボヴァリー夫人』の作者フローベールは写実主義文学の代表的な作家とされるが、彼の生涯の文業は小説をいかに書くかの根源的な問いであった。彼は作者を介在せずにいかに小説を成立させるかに苦心し、その結果それまでの小説の書き方を全て変えた。そのフローベールの小説を当時の人々は写実主義と呼び、現代の我々は彼を現代文学の祖と呼ぶわけである。フローベールは小説をいかに書くかという問題は小説を重ねる事に大きくなり、遺作『ブヴァールとペキュシェ』でついに物語の構造を破壊するまでにいたり、もはや同時代を突き抜けて二十世紀文学の領域に入ってしまった。代表作『ボヴァリー夫人』『サラムボー』『感情教育』『ブヴァールとペキュシェ』等。

ゴンクール兄弟

写実主義、および自然主義を代表する作家。エドモンドとジュールの兄弟で執筆活動をしていた。フローベールと同時代に属する。代表作『ジェルミニー・ラセルトゥー』はゾラなどにも影響を与えている。ゴングール兄弟は日本の浮世絵の収集者で浮世絵に関する本を出版している。

エミール・ゾラ

自然主義の代表作家でその運動の主導者。ゾラはフローベールに影響を受けて写実主義の小説を書いていたが、やがてよりも深く現実を書かねばならないと考え自らの文学を自然主義と表しその道を進んだ。ゾラが自然主義文学を世に問うたのは運動に参加している作家を集めた短編集『メダンの夕べ』においてだが、その作家の名にはモーパッサンやユイスマンスもいる。ゾラは当時流行った学説である遺伝理論に影響を受け、その学説を小説に応用しバルザックの『人間喜劇』に着想を得た長編連作シリーズ『ルーゴン=マッカール叢書』を書き始める。その連作の中には『居酒屋』や『ナナ』等代表作が収められているが、バルザックの人間喜劇に比べてそれぞれの作品の関連性は薄く、作品の独立性は高い。画家セザンヌの友人でもあった。代表作『居酒屋』『ナナ』『ジェルミナール』『制作』など多数。

ギィ・ド・モーパッサン

自然主義に影響を受けた数々の短編で名高い作家。本国よりも外国での評価が高い。短編作家として知られるモーパッサンだが、長編小説でも傑作を残している。またモーパッサンはフローベールの弟子であり、師の最大の理解者でもあった。同時代の文学者や評論家が失敗作と断じたフローベールの遺作『ブヴァールとペキュシェ』を正しく評価し最高傑作と絶賛したのもモーパッサンである。代表作『脂肪の塊』『女の一生』『ベラミ』など多数

ジョリス=カルル・ユイスマンス

自然主義から象徴主義へと変貌を遂げた小説家。はじめは自然主義に属していたが、自然主義に反感を抱くようになり、象徴主義へと転向する。代表作『さかしま』は象徴主義、またはデカダン文学の聖典と呼ばれオスカー・ワイルドや三島由紀夫にも愛された。代表作『さかしま』『彼方』『大伽藍』など多数。

シャルル・ボードレール

フローベールが『ボヴァリー夫人』で写実主義で小説を変えたようにボードレールもまた『悪の華』で詩を変えた。ボードレールは最初のうちは同時代の詩人のようにユゴーの影響を受けていたが、やがて象徴派と呼ばれる詩風を築き上げる。ボードレールの詩は近代化してゆくパリの表象とも呼ばれている。彼の影響は後の象徴派は勿論、現代詩にさえ及んでいる。代表作『悪の華』『巴里の憂愁』『人工楽園』等。

始めは自然主義者であったが、象徴主義へと転向した。代表作『さかしま』は象徴主義、デカダン主義の聖典とされ後の世代のワイルドやヴァレリー等に大きな影響を与えた。代表作『さましま』『彼方』『大聖堂』等多数。

ステファヌ・マラルメ

象徴派を代表する詩人。ボードレールの象徴主義をさらに発展させた。初期はボードレールを継いだ美しい抒情詩を書いていたが、後期は難解を極め解読が不可能とまで言われるような作風に変化している。象徴派はマラルメが終わらせたとの評言もある。作曲家ドビュッシーの『半獣神の午後』はマラルメの同名の詩に着想を得たものだが、後にこの曲はニジンスキーのバレーとなった。代表作『半獣神の午後』『海の微風』『エロディヤード』『骰子一滴』等

ポール・マリー・ヴェルレーヌ

象徴派を代表する詩人。ランボーの発見者としても知られる。ヴェルレーヌの詩は象徴派ともデカダン派とも呼ばれているが、彼は詩は一貫して己の全てを赤裸々に晒したものである。代表作『言葉なき恋歌』『叡智』『優しき歌』等多数。

アルチュール・ランボー

象徴派に突然現れて瞬く間に消えた早熟の天才詩人。はじめはボードレールやユゴーの影響を受けた詩を書くが、間もなくして影響下から脱し独自の詩を書き始める。ランボーの詩は当時に置いて非常に破壊的なもので同時代よりも、後のシュールレアリズム等の芸術運動に大きな影響を与えた。ランボーの存在は現代では反逆的な若者のアイコンになっている。代表作『酔いどれ船』『渇きの喜劇』『愛の砂漠』『地獄の季節』『イリナミション』等。

ロマン・ロラン

トルストイの影響受けて大河小説の傑作を書いている。ロランはトルストイ主義者で第一次世界大戦の際はその思想に従って反戦を貫いた。代表作『ジャン・クリストフ』『魅せられたる魂』等多数。

二十世紀

アンドレ・ジッド

始めは象徴主義の影響を受けていたが、やがてその影響下から脱し、自らの内面を書いた作風へと移行する。ジッドはプロテスタント信仰の苦悩を描いた『狭き門』や自分の内面を赤裸々に綴った『背徳者』で名高いが、ヌーヴォーロマンを予告する『贋金づくり』のような作品も書いている。代表作『アンドレ・ワルテルの手記』『狭き門』『背徳者』『田園交響楽』等多数。

マルセル・プルースト

小説家。二十世紀最高の小説と評される『失われた時を求めて』を書いた。この小説は記憶がテーマになっているが、ベルクソン等の哲学の影響を受け、それまでの小説のような起承転結でなくより自由に話が展開される構造になっている。有名なマドレーヌで喚起される記憶の挿話はその最もわかりやすい例である。

ポール・ヴァレリー

フランスの象徴派詩人。マラルメの弟子であった。ヴァレリーの詩は師のマラルメよりはるかに古典的なものである。ヴァレリーは詩の他に数々の著作を書いており、その内容は文学や美術などの芸術に留まらず、文明論や物理学まで非常に多岐にわたる。代表作『若きパルク』『海辺の墓地』『テスト氏』『レオナルド。ダ・ヴィンチ序説』『現代世界の考察等』等多数。

ジャン・コクトー

二十世紀初頭から戦後にかけて活躍した文学者。二十世紀前半のあらゆる芸術運動にかかわった多芸多才の人であった。彼は詩人としてデビューしたが、その後小説から始まって絵画や、さらに誕生したての映画まで制作した。このコクトーの多芸ぶりは軽佻浮薄だとシュールレアリスト等に徹底的に叩かれ、彼の芸術の評価を遅らせる原因にもなった。天才小説家ラディゲを見出し彼と交際していたことでも有名である。代表作『アラジンのランプ』『喜望港』『恐るべき子供たち』『阿片』『詩人の血』など多数。

レイモン・ラディゲ

早熟の天才作家と呼ばれている。ラディゲの小説はその年齢からすると驚くほど成熟した端正な文体で書かれている。彼は二十歳を前にして病に倒れたが、生前に書いた小説はいずれも名作として評価されている。代表作『肉体の悪魔』『ドルジェル拍の舞踏会』

アンドレ・ブルトン

シュールレアリズムの創始者で生涯この運動を主導した。ブルトンはまずダダイストとして活動を始めたが、この運動に飽き足らないものを感じ、賛同者と共に『シュールレアリズム宣言』を出版しシュールレアリズムを立ち上げる。このシュールレアリズムは文学だけに留まらず、美術にまで普及し数々の名作を生んだ。ブルトン自らもシュールレアリストとして自動筆記を駆使した『ナジャ』を書いた。しかしブルトンは自ら立ち上げたシュールレアリズムの教義にこだわるあまり、仲間たちと度々諍いを起こしその度に除名したため最終的にはシュールレアリズム殆ど彼一人になってしまった。代表作『シュールレアリズム宣言』(共著)『ナジャ』『秘法十七番』『通底器』『狂気の愛』等多数。

ジョルジュ・バタイユ

フランス思想界で最も異端の思想家・作家。一時期シュールレアリストとして活動していたが、ブルトンと仲間割れしてシュールレアリズムを離れ、特異な思想家・文学者としての活動を始める。そのエロティシズムを思想化し体系化した著作や小説は三島由紀夫など後世の文学者に多大な影響を与えている。代表作『マダム・エドワルダ』『眼球譚』『青空』『悪の文学』『エロティシズム』など多数。

ルイ・フェルディナン・セリーヌ

小説『夜の果ての旅』でフランス文壇に衝撃を与えるも、その後反ユダヤ主義のパンフレット本を出し、ナチスに協力的な態度を取ったため、戦後は対独協力者として長らく文壇から抹殺されていた。セリーヌの小説は俗語卑語が頻繁に使われており、それまでのフランス文学からは著しく逸脱している。だが彼の小説はそれゆえに新しく今なお読者に衝撃を与えている。彼をプルーストと並らぶ偉大な小説家とアメリカの詩人エズラ・パウンドはこれからのアメリカ文学はセリーヌから生まれると予言したが、それはビートニクの登場で見事に当たった。現在ではフランスも含めた世界各国で再評価されている。代表作『夜の果ての旅』『なしくずしの死』『ギニュルズバンド』『城から城』『北』『リゴトン』など多数。

レーモン ・クノー

前衛的な小説でフランス文学に独自の地位を占める作家。『地下鉄のザジ』はよく知られている。クノーの作品は前衛的な小説ばかりだが、フランスのエスプリを効かせたもので意外に親しみやすい。シャンソン歌手ボリス・ヴィアンの小説にも影響を与えたが、後にその彼の小説を絶賛した。代表作『地下鉄のザジ』『文体練習』『はまむぎ』等多数。

ジャン・ポール・サルトル

戦前戦後通して活躍した哲学者・小説家。サルトルはハイデッカーの影響などを受けながら自らの哲学を築きあげそれを実存主義と称した。彼は哲学だけでなく小説や戯曲も執筆し文学でも業績を残す。代表作『存在と無』『実存主義とは何か』『自由への道』『嘔吐』『水入らず』『悪魔と神』など多数。

アルベール・カミュ

サルトルと共に実存主義を代表する小説家・哲学者。出世作『異邦人』はその乾いた文体と理由なき殺人を描いた内容は戦後のフランス文学に衝撃を与えた。代表作『ペスト』は近年コロナが蔓延した時に注目された。サルトルと共に行動をしていたが後に仲違いする。ノーベル文学賞を受賞し栄誉に包まれたが、突然の事故死で亡くなった。代表作『異邦人』『ペスト』『シューシュポスの神話』等。

ボリス・ヴィアン

ヴィアンはシャンソン歌手として活動していたが、知り合いに唆されたのがきっかけでアメリカ作家のハードボイルド小説と称した偽作を手掛ける。しかしこの小説のあまりに暴力的な描写が問題となり裁判沙汰になってしまう。結局この裁判で作者がヴィアン本人だとバレてしまう。しかしヴィアンはその一方でクノーの影響を受けたシリアスな文学作品を手がけており、今ではそちらもよく知られている。一時実存主義に属していたが間もなくして離れた。傑作『うたかたの日々』の登場人物の一人はサルトルがモデルになっている。代表作『うたかたの日々』『北京の秋』『心臓抜き』ヴァーノン・リード名義『墓に唾をかけろ』等多数。

サミュエル・ベケット

小説家・劇作家。同じ移住者であるナタリー・サロートとともにヌーヴォー・ロマンの先駆者として知られる。ジェイムス・ジョイスの弟子であり、師から多大なる影響を受けているが、彼の文学は師の豊饒な言葉が駆使される小説とは真逆の徹底して言葉を削いだものである。はじめは母語である英語で小説を書いていたが、間もなくしてフランス語で書き始める。代表作は殆どがフランス語で書かれたものである。戯曲『ゴトーを待ちながら』は彼の作品でも特に知られているもので、二十世紀戯曲の最高傑作の一つと呼ばれている。ノーベル文学賞受賞作家でもある。代表作『マーフィ』『モロイ』『ワット』『名付けえぬもの』等多数。

ナタリー・サロート

ベケットと共にヌーヴォー・ロマンの先駆的な作家である。人物の心理の微細な動きを徹底的に描くことで小説に革新をもたらした。彼女のデビュー作『トロピズム』はサルトルによってアンチ・ロマンと名付けられた。

アラン・ロブ=グリエ

ヌーヴォー・ロマンの代表的作家・映画監督。小説を根本的に変革した作家。『去年マリエンバートで』で映画脚本を担当したことがきっかけで映画にも進出する。代表作『消しゴム』『嫉妬』『反復』等多数。

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