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素敵なコンテンツの集い

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素敵な記事を勝手ながら集めさせていただきます! いつも心が揺れるような投稿をありがとうございます(´∀`*) 迷惑でしたらお手数ですがお声がけいただけると幸いです🙇‍♂️
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#ショートショート

わさび

「またぁ? 何人めよ、もう」

 いい加減うざい、という顔で、晴菜がこちらを見た。ちらりと横目で確認しつつ、今日二つ目の玉子をレーンから取る。

「でも、合わなかったんだもん」

 醤油にわさびをたっぷりと溶かして(さっきも溶かしていたのに辛くないのだろうか)、玉子に巻かれた海苔を丁寧に箸で剥がす。まず海苔を醤油に浸す。それから玉子の内側も。またやってるよ、とじろじろ見ながら、あたしは言う。

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青いキャンバス

青いキャンバス

 砂利道には、薄いスニーカーで歩くとときどき足裏が痛い程度に石ころが転がっていた。行く手の地平線の先に眩しい太陽が光っていて、帽子を目深に被り直す。走って横を追い越していくひと、同じ速さで歩いていくひと、しゃがんで沿道の小さな花を見つめているひと。そこまで見て初めて、沿道に花が咲いていることに気がつく。

 世の中、見えていないことばっかりだなあ。

 わたしはのんびりと歩く。風が気持ちいい。どこ

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深夜の独り言 23

深夜の独り言 23

大学で、対面授業が始まりました。初めて会うひとたちと肩を並べて授業を受けることはとても新鮮で、でもそうだ、学校ってこういうところだったなと思い出します。一緒に勉強する仲間がいて、教えあって。毎日のように、他人とご飯を食べる。朝起きたら支度をして、今日一日頑張るぞ、と思いながら家を出る。帰ってきたら、こんなことがあった、あれが楽しかったと思い出す。

夜眠る前に、今日を振り返ると、ああ疲れた、でも楽

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月夜の口紅 エピローグ

月夜の口紅 エピローグ

月夜の口紅 1/4

 冬場は日が暮れるのが早い。住野くんが小さなあくびをして、もう外真っ暗じゃん、と呟いた。交換ノートを閉じて立ち上がる。

「そろそろ昇降口閉まるから早く帰りなよ」

 嫌がる住野くんを急かす。ボールペンを、かち、かち、かち。

「わかったよ、帰ればいいんでしょ。帰るから怒らないでくださいよ」

 住野くんは出していた筆箱と裏紙の束を鞄に詰め込んで、きいと音を立てながら椅子を引

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【短編小説】塩を入れる。そして砂糖をぶち撒ける。

【短編小説】塩を入れる。そして砂糖をぶち撒ける。

 
 カタン。

 紅音は塩を煮物に入れ、それを元の場所に戻す。
 それが運悪く、隣に置いてあった砂糖に指が当たった。
 その拍子に、塩と砂糖の入れ物がガシャンと床へ落ちる。

 キッチンに敷かれたカーペットが真白くなり、私は慌てて腰をおろした。
 紅音はしゃがみこんだまま、「えっとえっと」と戸惑うように呟く。

 口はあわあわと忙しなく動くが、目はじっとその白くなった床をじっと見つめている。
 

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色々

色々

青と黄色を混ぜると緑になるだなんて
誰が思いついたんだろう
そのひとはきっと気張った日々に疲れて
癒やしを求めていたんだろう

僕が見ている世界の色と
君が見ている世界の色は
同じようで きっと違って
名前を与えた 不確かな言葉で

世界は色にあふれていて
愛するひとは光を放って
つまらない日々が色付いて
緑の中で微笑んだ優しいひとよ

すべての色を混ぜると黒になるだなんて
誰が思いついたんだろう

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水溜まり

水溜まり

楽しいことから始めよう
でも楽しいってなんだっけ
話題の本もアニメも音楽も
好きも嫌いもない ただそこにあるだけ

例えば光のない瞳が
意地悪く笑う眉が
小刻みに動く頬の筋肉が
僕に何をするっていうんだろう
好きも嫌いもない ただそこにあるだけ

みんな当たり前のように歌っている
妄想 夢 喜怒哀楽
わからないよ 知らないよ
寝て起きて食べて寝る僕に
それ以外 何か必要なのかい

悲しいことは止め

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どきどきクエスチョン

どきどきクエスチョン

Q:男の子が、会ったこともない女の子との毎日のラインを一ヶ月も続けているのはなぜ?

A:暇だから。

「もう!勇人のいじわる!」

「なんだよ、正直に言っただけだろ?」

「そういうのが聞きたいんじゃなかったのに」

 勇人はにやっと笑ってずれてしまったマスクを直す。だだっぴろい河原に腰掛けて、あたしは大きなため息をついた。

「だいたいさ、会ったことないのにどうしてそんなに気になるんだよ」

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