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どきどきクエスチョン

Q:男の子が、会ったこともない女の子との毎日のラインを一ヶ月も続けているのはなぜ?

A:暇だから。



「もう!勇人ゆうとのいじわる!」

「なんだよ、正直に言っただけだろ?」

「そういうのが聞きたいんじゃなかったのに」

 勇人はにやっと笑ってずれてしまったマスクを直す。だだっぴろい河原に腰掛けて、あたしは大きなため息をついた。

「だいたいさ、会ったことないのにどうしてそんなに気になるんだよ」

「オンラインでなら喋ったことあるもん」

「実物は顔も声も全然違うかもよ」

「そんなのお互いさまだし」

「背だって超低いかも」

「身長なんて別にいいもん」

「めっちゃ頭悪いかも」

「それは勇人じゃん」

 売り言葉に買い言葉。何を言われてもあたしが言い返すから、勇人はむくれてそっぽを向いてしまった。アンサーの文字が書かれた棒をぐっと押し付けてくる。これはあたしが保管しているけど、本当は勇人のものだ。小さいころお祭りのビンゴ大会で当たったけれど、勇人は要らないと言ってあたしにくれた。以来、あたしたちはよくこれで遊ぶ。

 Aの棒を押し返して、もう一度クエスチョンの棒を挙げる。



Q:勇人が、顔は割とかっこいいのに女の子にもてないのはなぜ?

A:うるせえ。



「あはは」

「うるせえって言ってんだろ、笑うな」

「そういうとこ、いちいち突っかかったり嫌味ばっかり言うからだよ」

 それよりさ、と勇人が言う。声のトーンが急に低くなったから、思わず横を見た。そうしたら、勇人はあたしの目をじっと見つめた。

「なに」

 勇人のくりっとした二重の目があたしを見つめる。口角をおろして、形のいい唇の山がつんと上を向いている。高い鼻と尖った顎が華やかな輪郭を縁取る。勇人は真面目な顔のまんま、言った。

「俺ってかっこいい?」

 ふはっと思わず吹き出してしまう。ほんと、馬鹿なんだから。

「顔はね」

「その、ラインの男とどっちがかっこいい?」

「わかんないよ、会ったことないんだから」

「絶対俺のほうがかっこいいだろ」

「なんなの、その自信は」

 勇人は立ち上がる。ほんの少し風が吹いて、髪がなびく。勇人の背中はいつの間にか大きくなっていて、中身はいつまでもこんなに馬鹿なのになあ、なんてしみじみと思う。

「俺は一ヶ月なんてもんじゃないじゃん」

と、勇人が言う。

由紀ゆきと、小さいころからずっと一緒じゃん。スマホ持つようになってからは毎日ラインだってしてるじゃん」

「ん?うん」

 くるっと振り向くと、さっきまでの真面目そうな顔はもうなかった。くしゃっと笑って、あたしの目の前にしゃがむ。

 あたしの持っていたQの棒を取り上げる。QとAと、片手ずつ持って、また笑う。それから、ふたつの棒を挙げて、あたしの目を見て言った。




Q:俺が、割とかっこよくて優しくていい男なのに、彼女がいなくて由紀とばっかりラインしてるのは、なぜ?

A:好き、だから。

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