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エッセイ

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#旅と写真と文章と

会わないことが、会いたい人を守る。

会わないことが、会いたい人を守る。

今日の夜も、緊急記者会見があった。新たな感染者数が発表された。状況は日々、刻々と変化していく。悪いほうに。

少し前までは、春になったら落ち着くかなあ、なんて。インフルエンザみたいなもんかなあ、なんて。

わたしは、わたしたちは、甘かったんだな。

ワーホリ中の友だちは、仕事がなくなって帰国せざるを得なくなった。セブ留学中の友だちも、最後のチャーター便で全員帰国した。ロックダウンになった都市に住む

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遺影を撮らせてほしい

遺影を撮らせてほしい

ツイッターのタイムラインが「100日後に死ぬワニ」でもちきりになっている。

わたしは、何年前かの春に、後輩が原因不明の死を遂げたことを思い出していた。

当時わたしは大学生で、サークルの新歓の準備に追われていた。新歓メンバーのある女の子とずっと連絡がとれず困っていたところ、彼女の両親から不報があった。

原因不明、と言ったけれど、それはわたしたちが彼女の両親に死の理由を聞くタイミングがなく、葬儀

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空色の花

空色の花

朝起きて、枕元においていた花瓶の花と目が合う。白い薔薇と青いカーネーション。買ったときは少し寂しい色かもしれないと思ったけれど、うん、朝に似合う色だ。

身支度の合間に、水を替えて、枝の部分を切って、窓際に置く。空気は冷たいけれど、太陽の光は眩しいくらい。

光の中に花を置くと、まるでわたしの部屋の窓辺に小さな空ができたみたいで。雲の色の薔薇と、空色のカーネーションと、眩しい朝の日差し。小さくて愛

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だってここは、わたしたちが生きてる世界。3.11

だってここは、わたしたちが生きてる世界。3.11

スマホの画面が光る。セブ留学のときに一番仲が良かった先生、リアからのラインだった。

「久しぶり。元気?」

たった一行の短いラインだったけど、優しいリアのこと、きっと新型ウイルスのことで心配してくれているのだろうとすぐに察しがついた。
わたしは元気だよ。そう伝えたくて、すぐに返信をした。なるべく心配をかけないよう、語尾に😂の絵文字をつけて、深刻な雰囲気を出さないように。

「本当?良かった」

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変わらないあなたへ

変わらないあなたへ

変わらないことは
あなたが不変であるということです

50年後にわたしが死んで
いつかわたしを知る人もみんないなくなっても
あなたはここに立ち続けるでしょう
きっと50年前もそうしていたのだから
あるいは100年前からそうだったのかもしれません
そして100年後も在り続けるのかもしれません

北の大地の果て
この海を見続けて何を思いましたか
愛しいひとはいましたか
かけがえのないものはありまし

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シャッターを切ることを許された日のこと

シャッターを切ることを許された日のこと

青森の先っぽ。下北半島にある尻屋崎灯台に行ったのはもう5年近く前のことだと言うのに、いまでもその記憶は鮮明だ。

バスを乗り継いで、ついたはいいけど帰りのバスは3時間後くらいで。周囲にはお店も何もなく、ただ海が広がっているだけ。
他にすることもないので、ひたすら灯台や海の写真を撮っていた。ああでもない、こうでもないなんて思いながら、アングルや構図を変えて、その日だけで何枚撮ったのかなあ。

時間が

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