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【指切りフレンド/エンド】
部屋の中に一歩踏み出すと、人形を踏んづけだ。
おっと失礼と謝罪の言葉が出る前に、足元の人形は胴体だけで首が外れていることに気づく。視線を上げて白亜の病室の中を見回すと、床一面が首のもげた人形で埋め尽くされている。
「なるほど、筋金入りだねこれは」
黒い背広を着た若い男はそう呟くと、人形だったものの残骸をずかずかと踏みつけて、ベッドのそばの椅子に腰掛ける。
真っ白のシーツと寝間着とは対照
夢の復元者、ソウルダイバー
「ありがとうございます、本当に、本当にありがとうございます!」
「いいんだよ仕事でやってるんだし。そんじゃま、お疲れさん。また何か入り用でしたら当事務所にご一報を。探偵に探せないものだって探してみせますよ」
御大層に写真を抱きしめて泣きじゃくる老女をやんわりと押し返すようにドアの外に追いやる。
築数十年のコンクリートビルの一室に間借りした事務所に静寂が戻る。机の上の空き缶にはリラクゼーション
名探偵はまだ足りない【逆噴射プラクティス】
犯人の爆発的な増加に伴い、速やかなる探偵の拡充が求められた。
世はまさに、名探偵時代。
◆
「なぜだ佐藤! 親友だったお前が、なぜ連続殺人事件の犯人に!」
「俺の恋人はあいつらに殺されたも同然……こうするしかなかったんだ……ああ、これでアケミにようやく会える……」
「おい、目を開けろ! 佐藤! 佐藤ォォォ!!」
事切れた親友の亡骸を胸に抱いて、高校生探偵は慟哭する。惨劇の館を清浄な夜明
死にたがりマキアスの英雄譚
マキアスは英雄で、不死身で、死にたがっていた。
幼少期に野生の大熊を一人で殴り殺したその日からマキアスの運命は決まった。全身に傷を受けながらもすぐ治り、奇跡だと称賛された。
「お前は英雄になるかもしれんぞ」
父と母、友人や人々の期待を受けながらマキアスは逞しい青年へと成長した。不撓不屈の冒険者として目まぐるしい成果を挙げ、ついには国中の迷宮を一人で全て踏破する大偉業を成し遂げた。
伝
集合的無意識=イドの茶碗
重酸性雨の降りしきる錆だらけの街の一角に、古物商『捨神有拾神有』が暖簾を下ろしている。街の大半を占めるスクラップ場には大戦以前の大量の物資が今もなお埋もれている。
薄暗く狭い店内。店主は泥と付着物に塗れた真っ黒な茶碗を両手で持ち上げ、拝むように掲げて感嘆の声を上げる。茶碗を持ち込んだ『集め屋』は眉をひそめる。
「おいお前、これはイドの茶碗じゃないか! よく無傷で掘り出せたな! この碗で茶を
【逆噴射プラクティス】ヤクザの親父殺人事件
「誰が親父を殺しやがったんだオラァァーッ!!」
ヤクザの小さな事務所に若頭の怒号が響く。蛍光灯がチカチカと数回瞬いて小汚いリノリウムの床を照らす。扉の真反対にある一番見晴らしの良い席には壮年の恰幅のいい男が、同心円状に血の海が広がる机の上に突っ伏して絶命している。殺人事件だ!
「黙っていても埒が明かねえぞコラァー!!」
若頭の眼の前には三名の男たちが並んでいる。服装や背丈、体格や年齢はま
シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタム殺人事件 #同じテーマで小説を書こう
その珍妙なメッセージは、密室の中で死体と共にあった。
被害者である大富豪エフ氏は、自宅である屋敷の地下に建造したセーフルームの中で頭から血を流して絶命していた。
死因は頭部外傷による失血死、火傷と銃創から9ミリ口径の拳銃だと推測されているが、凶器は発見されていない。セーフルームは核爆発防御すらも想定した設計になっており外部から破壊は不可能だ。遺言も残されていないから莫大な遺産相続を巡る遺族
星系シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタムの休日 #同じテーマで小説を書こう
星系シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタムは楽園として全宇宙に有名であった。
とある銀河系ではその星を巡っての星間戦争が数百年にも渡って繰り広げられただとか、とある星はその星へ宇宙生物を送り込んで侵略しようとしただとか、どれが真実か嘘か、伝説か逸話か区別がないほどにその星は魅惑的であった。
このまま略奪や争奪を繰り広げては、シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタムそのものだけでな