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【映画感想93】アメリカン・アニマルズ/バート・レイトン(2018)


色んな意味で心臓痛くなる映画


100本目指して週2で映画の感想をアップしている絵描きです。

今回は2004年にイギリスのトランシルバニア大学の学生が、図書館から1200万ドル相当の本を盗んだ実際の事件を題材にしたクライム映画をみました。
なんと刑期を終えて出所した犯人が本人役として出演しています。

なぜ中流階級の若者達がわざわざ高価な本を盗むという凶行に至ったのか……という謎、
名言はされないもの「偉大なアーティスト達はみんなすごいエピソードを持っているのに何もない自分」に対する燻りと焦りな感じがしました。
何か一発すごいことをすればがらっと自分の人生が変わるんじゃないかという根拠のない期待。

そう、まさに思春期の「もしかしたらすげえやつになれるかも」「俺はまだ本気出してないだけ」とか内心思っちゃってるかつての自分を見ているようで色んな意味でつらくなる映画でした。

個人的に一番面白かったのは犯行シーンで、
これがもう些細なミスや手違いが多すぎで全部うまくいかない。本当に全部うまくいかない。

クライム映画って自分がメンバーに加わったようなハラハラドキドキが体感できるのが見どころだと思うのですが、この映画は「やっちまったどうしようどうしよう」という等身大の焦りで胃がキリキリします。フツーの人間である今の自分が犯罪を犯したらきっとこうなるんだろうなあという生々しいリアル。つらい。

漫画のハンターハンターの蟻編で、「どれだけ計画を練っても実行当日になると必ず予想外の起きて欲しくないことが起きるものさ」みたいなセリフがあったのですがこの事件の敗因に関してはもはやそういうレベルじゃなく、ゾルディック家もびっくりな打ち合わせ不足です。

盗難品の売買でうっかり本当の自分の電話番号を使っちゃうところとか、「ちゃんとホテルの電話番号を伝えたんだろうな?」「エッ…アッ…、俺のケータイ番号……」のくだりは新卒で大きなミスを犯したあの日を思い出して胸がギュンッとなります。つらい。

トドメが犯行時に襲われた司書の女性の本人インタビューで、

「彼らは楽に生きることを望んだんだと思う」
「知識を得て成長する経験を拒んでしまった」
「自分勝手」

というコメント。正論。
もう正論すぎて何も言えない。

そういえば先日見た「世界で一番ゴッホを描いた男」で絵を描くことについて「魂が突き動かされた上の行動かが大事」という内容の会話が出てきたのですが、今回の盗難の理由は割とその真逆だった感じがしました。
例えばオリバー・ツイストに出てくる孤児達が盗みを働くのはやらねば死ぬという明確な理由があるけれど、今回はそれが盗難である理由も、それがダーウィンの本である理由も特にない。
そもそも理由がないので「魂の衝動」もない。

ゴッホみたいに困窮した画家が素晴らしい作品を生み出したエピソードはたくさんあるけど、
彼らの伝記を読むと困窮はただの要因で死ぬほど何かに執着したりデッサンしたりしているので、苦労する環境に身を置けばいい作品がかけるのではないかっていう発想はファッション困窮なのかもしれない…と反省しました。

ところで今回の感想、やたらと犯人達を見下げるような発言が多い自覚があるのですが、たぶん「確かに昔はこういうこと考えてたけど今のわたしはちがうんだ…彼らとは違うんだ……」とわたしは必死に言い聞かせたいのだと思います。
そうでもしないとウワアアアアア!!となってしまうからです。

なんか凄いことをやらなくちゃ、というアーティストがかかえがちな焦りに冷や水をぶっかけるような映画でした。

改めて身の丈に合わない一発逆転は狙わずに、
コツコツ頑張ろうと思います。

この映画、山月記とあわせて義務教育で履修しておきたかったです。最初は意味がわからずとも、たぶん冷酒のごとく後から効く。


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