上野修嗣

うえのなおつぐ 1980.6.16  石川県生まれ  バンタン映画映像学院卒業

上野修嗣

うえのなおつぐ 1980.6.16  石川県生まれ  バンタン映画映像学院卒業

マガジン

  • 創刊サンデージャーナル

    【創作大賞応募作品】紙の出版物が低迷する中、無謀にも新たな日曜紙が誕生した。その名も【サンデージャーナル】。日常に潜むとんでもない話を読者から募集、独自に編纂した夕刊紙である。創刊に向けて、全4話をお送りする。トップを飾るのは、ある村で起きた不可解な事故。隠された真相とは? 抱腹絶倒、令和の新文学。

  • 上野キネマ館

    おすすめ映画レビュー、映画エッセイ、あるいはシナリオ向上に対しての考察。無料上映中。全席指定なし。

  • 今日も運転しなかった

    映画脚本を郵送するまでの自伝的エッセイです。

最近の記事

  • 固定された記事

昨年書いた詩に曲を乗せてみた

実はこの詩にはメロディが最初から存在していました。そこで、鍵盤アプリを開いて曲を乗せてみた結果がこちらの動画です。 音色はグロッケンシュピール。駅のBGMっぽいかもしれない。 当初のイメージでは、女性ボーカルと男リズム隊の編成で、テンポの速い曲でしたが、まずは一人でメロディのみを書き出してみようと思い立ったわけです。 私はコード進行なるものをよく知らず、元々はクラシックピアノを少しの間やっていましたので、音階から音符を捉えることは得意な方です。 詞に課したテーマは、「さよな

    • 脚本公開 3

      〇劇場外観    一台の車が停止。    ハンドルを握る真一、窓から外を覗く。    満員御礼の看板。一人、また一人客が館内に入る。    真一、アクセルを踏み込む。    陽の光を浴びて走る車。     〇劇場・舞台(夕)    公演中の拓馬。黒いマントを翻し、棺桶に入る。    暗闇にチカチカ光る雷のような照明。     棺桶から離れた位置に立つ沙紀。    左手薬指のダイヤを外し、床に捨てる。 真一の声「……ドラキュラはご存じ十字架とニンニクが苦手です。今日まで  様々

      • 脚本公開 2

        〇黒画面 T「その一 長岡沙紀の場合」 〇シネマヴェーラ渋谷入口    館内から出る沙紀と真一。    壁に名作映画のポスターが数枚並ぶ。 真一「僕の番組に?」 沙紀「別にまずくないでしょ」 真一「それはディレクターが決める。映画だって同じ。例えばブロンドの髪    でも、スクリーンの中じゃ白黒なんだよ」    沙紀、真一の前に立ち塞がる。 沙紀「父さんのため」 真一「駄目だ」 沙紀「あなたの番組で知らせたっていいじゃない」 真一「司会者は公平じゃなきゃいけない。君だけ特

        • 脚本公開 1 

          〇真一のマンション・キッチン(夜)    死体のような皿が沈むシンク。    バシャ! 蛇口から水が噴き出す。    電話から、長岡千亜紀(29)の声。     千亜紀の声「帰りに美味しい餃子でも食べに行かない? 真一さんの奢り  で」    携帯電話を持つ浅村沙紀(36)。 沙紀「餃子どころじゃないの、今」 千亜紀の声「なんで?」    沙紀、シンク横に置いた台本を一瞥。 沙紀「……台詞。ニンニクより入れなきゃいけないものあるの」 千亜紀の声「パパの舞台」 沙紀「そう。ア

        • 固定された記事

        昨年書いた詩に曲を乗せてみた

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        • 創刊サンデージャーナル
          10本
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          15本
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          12本

        記事

          ショートフィルム備忘録

          「パイロットフィルム・フェスティバル」からお祈りメールが届いた時、その他多くのコンテストと同様に複雑な感情を抱いた。このフェスティバルは映画館の本編前に上映する作品を募集し、厳選して公開するコンセプトである。新人監督にとっては貴重な上映権利を無料で持つことができる上、次作への弾みとなる。作品を見た観客が「この監督の次が楽しみ!」と期待を抱く。それが作り手にとって励みとなるはずであった。 インディーズ映画祭から丁重な連絡を受ける度、「一体何が良くなかったのだろう」と、しばしの

          ショートフィルム備忘録

          再生

          【楽曲】明けない夜に僕は誓った

          オリジナル楽曲「暗闇のEDEN」デモ音源

          【楽曲】明けない夜に僕は誓った

          再生

          【2023版】小説全記録

          ホラー短編  SFショートショート 純文学中編 純文学短編 童話

          【2023版】小説全記録

          【掌編】リラックス・タイム

           火星人に肩を揉まれた話をする。  断っておくけど、これ本当の話。決して誰にも話してはいけないとか、そういう類の話ではないよ。つい昨日、実際に起きた話なんだ。  最初は〈1000円〉の文字を見て、そんなに安くていいのかと驚いた。殺風景な店内に立つ主人の顔は温和な人柄にしか見えなかった。きっと僕を含め、どの客も分け隔てなく笑顔で接する。入った瞬間、「ようこそ」と声を聞いて、もしかして長居するかもと察したのさ。 「千円って本当ですか」 「ええ。他の代金は頂きません」  思

          【掌編】リラックス・タイム

          木曜日の追憶  

          小学4年生の頃、フジテレビで『世にも奇妙な物語』が始まった。 文字通り奇妙で恐怖に満ちた内容に夢中だった。 この番組の他にも、UFOやオカルト現象、ビッグ・フット他の未確認生物を扱った本が好きだった。 「世界って広いんだ!」  と素直に思った。片田舎に住む10歳の自分には、「木曜8時」を含めてどれもこれも好奇心をそそる物ばかりだった。 あれから30年以上経過した今、とあるドラマの酷評レビューを読んで妙に共感している。普段、日本のテレビドラマは見ない。だが異様な持ち上げ記事に

          木曜日の追憶  

          美味美醜 4

           今、こうして拘置所内で綴る理由は単純だ。覚えている限りのことが書ける。それに例のテーマパークについて、もう一度確認しておきたかった。  あの扉〈楽園〉と書いた砂漠でも、食欲を満たしたのだ。  医師と助手の女性、それから受付の女性。三人、胃の中に収めてしまった。その後、綱島のアパートで梨奈と会っている。 「失礼ですけど、そのような停留所はないですね。こちらでは運行しておりません」  信号待ちの運転手は言った。 「九時十六分発、十時の開園に間に合うよう運行してるはずです」 「…

          美味美醜 4

          美味美醜 3

           寝ぼけた女の顔が横目に映った。  トレーナーの下にむき出した白い脚が飛び込んでくる。  鶴見川の近く、綱島東五丁目の学生向けアパート。駅から離れた閑静な住宅街だった。木造の二階で熱がこもりやすく、夜は隣室の声が絶えないらしい。  梨奈とは十二歳差だった。「女の子一人暮らしでありえない」と注意すると、「夜間はちゃんと閉めている」と反論した。「じゃあ、いつ鍵開けておくんだ?」と聞くと、今度は「あなたより早く起きる」と答えた。  どれだけ空腹でもバナナ一本のみで済ませた、と聞いて

          美味美醜 3

          美味美醜 2

           何曜日かの真昼だった。通りを歩く人の足音や、スーパーから出てくる主婦、トラックの音も聞こえてこない。暑かった。陽の光が脳天を叩きつけて、使い古した言葉を消そうとする。これまで口にしてきた言い訳めいた説明も、どこかに消えた。  扉を開けると、「どうぞ」と声がした。私は言われるがまま足を踏み入れた。  順番まで三十分ほど待った気がする。待合室は明るく、中高年の男女が陣を取っていた。誰もが六十五歳くらいだと思う。あとから入った私は一番若かった。空いた席が見えても、決してそこに座る

          美味美醜 2

          美味美醜 1

           女性ディレクターの由紀美は、ある村で手に入れた原稿に目を通した。  濃い鉛筆で四百字詰め用紙に綴っている。マス目から一字たりともはみ出ることなく、乱れた文字もない。驚くほど丁寧に書いてある。  「作者のNさんについてですけど」  ADを務めた鈴木は言う。 「これを机に残して、家を出ているらしいです。もう三年近く」 「Nさんのこと、聞いたのね」 「はい。この原稿を受け取ってすぐに。でも男性は……」 「やめて」 「……僕だって、人間があんな形になるなんて信じてません。そんな一瞬

          美味美醜 1

          【SF掌編】プルトニウム・レース

          「あれがゲートか」  背中から、しゃがれ声が飛んだ。こいつは俺の右手の文庫には関心を持っていない。 「そうみたいだな。思ったより近いじゃないか」  俺たちの向かう先、狐色の砂漠にぽつんと建つ、あの竜宮城みたいな塊しか目に入っていないようだった。  ひび割れた土を踏み続けて数分ほど経過している。乾いた地に二人の足音が響いた。  汗を含んだ文庫は、こぼれ落ちる心配がない。道すがら拾った輪ゴムでしっかり束ねてある。指先に力が入ったのか、本の題名が滲んでいる。  俺は振り向かずに言っ

          【SF掌編】プルトニウム・レース

          【体験】いろんなバイトをしてきた

          これまで身に起きた出来事をメモした。 と言っても、それほど大きな怪我もなく今日を迎えている。ひょっとして、人がなかなか経験できないこともあった……かもしれない。 17歳で金沢高校を辞めたあと、私は学習机に向かう毎日を送った。とあるエッセイコンテストで佳作入選し、図書カード2000円をもらった。早々と一応の結果は出たのだった。しかし、人生は部屋の中で過ごす時間だけではなかった。 ここでは、18才からの数々のバイト経験を綴ってみる。どれも実話である。 人に歴史あり、という

          【体験】いろんなバイトをしてきた

          【解説】創刊サンデージャーナル  

          はじめに 創作大賞には、正直なところ、意欲的ではなかった。 応募が殺到する中で、自分の作品が選出する可能性は低いと思っていたからである。ただ今回は複数の出版社が参加すると知り、とりあえず応募しようと、少し前の原稿を開いてみることにした。 こちらはいつだって足の速い人間と競争できる。そのための原稿を取り出すことに決めた。前回の応募作『虹色の塔』より、きっと読みやすく、ポップ(の定義は別として)であると思った。 少しだけ、私の読書遍歴を紹介しよう。 18才の夏に『トレインス

          【解説】創刊サンデージャーナル