もりもと

未来短歌会夏韻集→ニューアトランティス欄。恣意舞裏威頭。ふらふらしています。

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最近の記事

夢想の海(エッセイ)

 最近、定期的に東京に行きます。バスタ新宿についた高速バスを降りれば、ビル。日が沈みかけた街に、目が痛くなるくらいの光が灯ります。そんな景色を見た時当たり前なのですが、ああ都会だなあ、とぼんやりと思います。辺りにはお店や娯楽が溢れていて、どこかで休もうと思ってもその選択肢の多さに目を回し、結果的に関西でも楽しめるドトールの珈琲で一息をつきます。そういえば逆に、ああ田舎だなあ、という思いがわきおこる機会は少ないかもしれません。生まれ育った環境ゆえでしょうか。  故郷、三重県とは

    • 未来2018年4月

      ハーブティーの茶葉沈みゆく静けさのポットを浅く傾けている 向日葵の造花を掲げる先頭の多分チャイニーズの一団の

      • 未来2018年3月

        まよなかの風は私に語りけり道路にビルに音を預けて ガードレールが歩道に少し突き出してその頂点に影がはりつく あちこちに凍結注意の電子板があり国道をかすかに照らす てのひらの関節という関節が結露しているような静けさ 自転車のチェーンは雪をまきこんで軋む どこまでも平坦な道 アクエリアスを飲みほしてなお揺れやまぬ高速道路にもたれておりぬ マンホールの上から溶けてゆく雪のにごりをひいている車輪かな ふくらはぎの奥に残っている熱をつつんでおりぬ冬のてのひら 明けそうな夜の気配に揺れて

        • 未来2018年2月

          見慣れない麦の名前を呟いて朝の光が入るキッチン グラノーラのごろごろとした韻律に削られていく浅い微睡み 殴れば壊れそうな バス停と予想通りに遅れているバス たっぷりの水で洗えばたっぷりの水に濡れたる梨の断面 香良洲っと口に出すたびぬばたまの梨の木の葉を揺れやまぬ影 泣いているように見られてまひるまを三角座りに俯いている 先輩と呼ばれる日々の時々に指の先から寂しさは来る 初恋の記憶のなかに私は長く伸びたる影を持ちおり 週末の夜の終わりにカルピスを少し薄めて飲みほしている 怒れよ

        夢想の海(エッセイ)

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        • 読む
          2本
        • memorial
          4本
        • 未来2018年
          5本
        • 未来2017年
          12本
        • 未来2016年
          9本

        記事

          関大短歌一号を読む

          揺れている青い紫陽花のピアスは夏へのまばらな拍手であること 丁寧にふくらみすぎた寂しさは部屋のかたちに八つに尖る 渡つぐみ/台風とトマト  夏への準備として風をうけるピアス。紫陽花のピアスを通してのまばらな拍手に、世界からかすかな祝福を受けているような爽やかさがありました。二首目、膨らんだ寂しさもいずれ部屋に形があるように、膨らみきれなくなり抑え付けられます。そこに尖りを見つける視線に、寂しさの中の荒々しさが滲んで好きです。  破調の歌が多い連作でしたが、それが寂しさ、満た

          関大短歌一号を読む

          未来年間賞受賞

          この度は、2017年の未来年間賞をいただきました。ありがとうございます。 卒業、就職、転職に、激動の一年間を過ごしてきましたが、報われた気がします。推薦してくださった方々、歌を通して関わってきた方々に心からお礼を申し上げるとともに、これからもゆるゆると歌と関わっていければと思います。 どうぞよろしくお願いいたします。 写真は飯沼鮎子さんが選んでくださった一年間の歌です。飯沼さんの手によって新しい命を歌たちに吹き込んでいただきました! 本当に、感激です。 少し、見にくい

          未来年間賞受賞

          未来2018年1月

          稲の穂がそよげる横を通りたりバス停までの近道として 県道に金木犀の花びらを溢しつつ発つごみ収集車 蜘蛛が這う 深き緑に塗られたるフェンスの奥の木漏れ日のなか 理科室の人体模型に窪みたる眼窩の縁の骨の薄さよ 友達と仲間の違い教室で飼われる金魚の尾びれの揺らぎ 後夜祭の校庭に火はつけられて影は遥かな場所へと伸びる 肉まんが売り切れているコンビニの蒸し器のなかに滴る水は ははそはの手招きをする母親の手のひらにうすく影が貼りつく 関係が薄まっている夕暮れの満員電車に人は俯く

          未来2018年1月

          未来2017年12月

          ボールペンのインクに浅く窪みたる紙を見ており定時の後に 電車内に微睡む人の歯が見えて長く、長く疲弊している 一つ一つ明るい駅に停まりたる環状線に動く電車は 私の為にすり減るブレーキが擦り切れるまで山を降りぬ 水に触れて柔らかくなる指先の一つ一つが秋の静けさ どこかしら気づついており指先にうすく匂っている草原よ 色を持つ言葉が欲しい内蔵の暗さをもって私は叫ぶ 草原の水の匂いに濡れているリュックサックを抱えて眠る 自転車を捨てたる後の速さかな雨の駅舎を窓より見つめ

          未来2017年12月

          未来2017年11月

          傾いたサンドイッチの内側にたわんでおりぬひとひらのハム 私だけに聞こえただろうプルトップに触れた前歯が音をたてたり 『やさしいJava』第6版に挟まれた補充注文カードの黄色 少しだけ右クリックの反応がかたきマウスをあてがわれたり パソコンの電源ボタンを見ておりぬそれはかそけき光を灯す メキシカンチップの薄き数枚を摘んでおりぬ残暑の夕に 傘用のビーニール袋を捨て忘れただ掌を濡らしてしまう 飴玉を舌でひっくり返しおり鋭く割れるまでの間を シャンデリアが灯るフロアの天井にかそけき影

          未来2017年11月

          未来2017年10月

          小走りに牛丼を運ぶ店員に汗匂いたりすれ違うとき ボールペンを入れっぱなしのジーンズの内側にある黒い模様は 珈琲のグラスを覆う水滴を指で何度も削ぎ落としたり 親指の爪がやたらと伸びている履歴書を書く時に見ており 三つ折りの履歴書が持つ厚さほどの紙おしぼりに指を拭いぬ 指先は燃えやすい色わたくしはライターの火を恐れ続ける タルトの上に犇いているラズベリーの一つが溢れたあとの窪みは 雑居ビル二階の廊下の冷房がきかざるなかを歩いて帰る 地下街の一角に吊るされている風鈴が鳴る夕暮れ時に

          未来2017年10月

          同志社短歌四号の感想

          僕も前号評に参加させていただきました。 人も増えて、短歌、散文ともに充実しており楽しく読みました。 夢ばかり見ている君をジャンプ台みたいに蹴って次へ飛び込む 石勇斎朱吉/ジーンズと桜 現実や私を見ない君を踏みつけて、気持ちは先に進む。飛び込むと目標を定めてある一点めがけて飛んだのでしょう。新しい恋でも、打ち込めることでもなんでもいい。あてもなく飛ぶのではないところに力強さがあって、気持ちよかったです。 今日もまた約束にまず間に合わない時間に涼しいベッドで目が開く 尾崎七

          同志社短歌四号の感想

          瞳に眠る

          (三重県歌人クラブ作品賞受賞作) 俯いた少年の背にかすかなる起伏が生まれているまひるまに 遊戯室壁一面の鳥たちのなかの一羽が影の黒さを 少女・聖ジュヌヴィエーヴの祈りへと薄いピンクの色をこぼした 真っ直ぐに老いていくことモンティセリの女は大樹のたもとに立って アングランのセーヌの川のかたすみが街の緋色をかすかに映す ひまわりのような晩年 肉体の前に朽ちゆく魂がある 夕暮れに積み上げられた大粒の葡萄の一つ一つが濡れる 海岸の岩の間にとどこおる水はいつまでうみなのだろう 収穫の

          未来2017年9月

          まひるまに肩の力を抜くときの手のひらにある浅い窪みは 裕明と爽波のことを話したり卓のパン屑を指に集めて 湖を見晴るかしおり私の対岸に深い影がひろがる だんだんと薄くなるこえ飛行機が陽のただなかを飛ぶのを見れば 海老フライの尻尾をふたひらずつ残しAEON MALLをすぐに立ち去る 水滴を多く纏いぬ夕暮れのシンクに捨てた卵の殻は 綿棒を一本取りだそうとしてもう一本が床に落ちたり 2リットルのペットボトルの水を買い飲みきる頃には微睡んでいる 頬にあるバンドエイドのざらつきの薄い膨ら

          未来2017年9月

          未来2017年8月

          野の花の細長き茎の湾曲を通りすぎたり四月の風は この皮膚は水を含んでいる皮膚と握手を交わすたびに思えり 五月半ばに我はマスクをつけていて好きな形に歪める唇 特急に運ばれてゆく私は乾きはじめる眼球を持つ この人は何かに負けて幾枚も小さなマークシートをこぼす はつなつの土の乾いた畑にいる鴉は何かを啄ばみ続け マグカップの底にとどまる珈琲のシミを何度も拭う夜更けは しんどいと口に出す時こめかみの奥の辺りに熱を持ちおり 親指の腹までうすく濡れている卵の殻をうまく割れずに フライパンの

          未来2017年8月

          未来2017年7月

          ヨーグルトを掬いあげおり明け方のフォークの腹のうすい窪みは 私の目の表面に一匹の羽虫がとまるときの温度は 赤色の三角コーンの先端の一つ一つに触って歩く あちこちに乳白色の傷があるクリアファイルを重ね持ちおり 川縁を飛ぶ羽虫らは順々に日向の方へ消えてゆきたり 唇の奥にすべての暗がりが濡れていること夕暮れにいて ネクタイを引きちぎるように解く夜の肥大している玉ねぎの芯 レトルトのカレーのパックを入れてある電子ケトルが音たてている iPhoneのホームボタンに薄く薄く溜まる私の指紋

          未来2017年7月

          未来2017年6月

          プチトマトの畑を荒らし終えてより土にまみれる犬の鼻先 おびただしき付箋を貼ればゆるやかに波うっている頁の余白 もつ鍋のきれいに並ぶ青にらをまずは崩しぬ夕暮れにいて 変装に憧れている少年は座布団の綿を引き抜いている そら豆はコンソメスープの底にあり三月の風の色をのこして 埃のない場所を求めてしばらくは風呂の小さな椅子に座りこむ 私物みな失われたる一室のシンクがかすかに濡れていること 三月のダンボール箱に転がった時計の針がうっすら光る 蚊柱にとらわれている心地して鍵穴に鍵を差し込

          未来2017年6月