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未来2017年

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記事一覧

未来2017年12月

ボールペンのインクに浅く窪みたる紙を見ており定時の後に
電車内に微睡む人の歯が見えて長く、長く疲弊している
一つ一つ明るい駅に停まりたる環状線に動く電車は
私の為にすり減るブレーキが擦り切れるまで山を降りぬ
水に触れて柔らかくなる指先の一つ一つが秋の静けさ
どこかしら気づついており指先にうすく匂っている草原よ
色を持つ言葉が欲しい内蔵の暗さをもって私は叫ぶ
草原の水の匂いに濡れているリュックサック

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未来2017年11月

傾いたサンドイッチの内側にたわんでおりぬひとひらのハム
私だけに聞こえただろうプルトップに触れた前歯が音をたてたり
『やさしいJava』第6版に挟まれた補充注文カードの黄色
少しだけ右クリックの反応がかたきマウスをあてがわれたり
パソコンの電源ボタンを見ておりぬそれはかそけき光を灯す
メキシカンチップの薄き数枚を摘んでおりぬ残暑の夕に
傘用のビーニール袋を捨て忘れただ掌を濡らしてしまう
飴玉を舌で

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未来2017年10月

小走りに牛丼を運ぶ店員に汗匂いたりすれ違うとき
ボールペンを入れっぱなしのジーンズの内側にある黒い模様は
珈琲のグラスを覆う水滴を指で何度も削ぎ落としたり
親指の爪がやたらと伸びている履歴書を書く時に見ており
三つ折りの履歴書が持つ厚さほどの紙おしぼりに指を拭いぬ
指先は燃えやすい色わたくしはライターの火を恐れ続ける
タルトの上に犇いているラズベリーの一つが溢れたあとの窪みは
雑居ビル二階の廊下の

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未来2017年9月

まひるまに肩の力を抜くときの手のひらにある浅い窪みは
裕明と爽波のことを話したり卓のパン屑を指に集めて
湖を見晴るかしおり私の対岸に深い影がひろがる
だんだんと薄くなるこえ飛行機が陽のただなかを飛ぶのを見れば
海老フライの尻尾をふたひらずつ残しAEON MALLをすぐに立ち去る
水滴を多く纏いぬ夕暮れのシンクに捨てた卵の殻は
綿棒を一本取りだそうとしてもう一本が床に落ちたり
2リットルのペットボト

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未来2017年8月

野の花の細長き茎の湾曲を通りすぎたり四月の風は
この皮膚は水を含んでいる皮膚と握手を交わすたびに思えり
五月半ばに我はマスクをつけていて好きな形に歪める唇
特急に運ばれてゆく私は乾きはじめる眼球を持つ
この人は何かに負けて幾枚も小さなマークシートをこぼす
はつなつの土の乾いた畑にいる鴉は何かを啄ばみ続け
マグカップの底にとどまる珈琲のシミを何度も拭う夜更けは
しんどいと口に出す時こめかみの奥の辺り

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未来2017年6月

プチトマトの畑を荒らし終えてより土にまみれる犬の鼻先
おびただしき付箋を貼ればゆるやかに波うっている頁の余白
もつ鍋のきれいに並ぶ青にらをまずは崩しぬ夕暮れにいて
変装に憧れている少年は座布団の綿を引き抜いている
そら豆はコンソメスープの底にあり三月の風の色をのこして
埃のない場所を求めてしばらくは風呂の小さな椅子に座りこむ
私物みな失われたる一室のシンクがかすかに濡れていること
三月のダンボール

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未来2017年7月

ヨーグルトを掬いあげおり明け方のフォークの腹のうすい窪みは
私の目の表面に一匹の羽虫がとまるときの温度は
赤色の三角コーンの先端の一つ一つに触って歩く
あちこちに乳白色の傷があるクリアファイルを重ね持ちおり
川縁を飛ぶ羽虫らは順々に日向の方へ消えてゆきたり
唇の奥にすべての暗がりが濡れていること夕暮れにいて
ネクタイを引きちぎるように解く夜の肥大している玉ねぎの芯
レトルトのカレーのパックを入れて

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未来2017年5月

行き違う人の靴底濡れている朝の市場のさざめきにいて
ポストイットを机の上に散らばらせ珈琲が届くまでを待ちおり
彫刻の蔦植物の表面に背骨のようなざらつきがある
スプーンにのせられている角砂糖のふちがかすかに欠けていること
読み終えてハードカバーの本の帯のゆるいたわみをなぞる指先
ポストイットの最後の方の数枚をうまく剥がせず折り曲げている
男子トイレの個室の壁から削れゆく座る姿勢の青い人型
Take

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未来2017年4月

初雪を待ち望みおり卒論の誤植に線を引いてゆきつつ
何かしらが次々終わる踏みしめて溶けた雪から見えるアスファルト
嫌そうな顔で入店した客が椅子を濡らしてゆく雪の朝
NoGuest(ノーゲス)が続く店舗にもたれかかり雪がやむまでを見続けている
眠る時に思い出すこと初雪に触れた瞼の濡れていたこと
ラーメン屋に枯葉が紛れ込んでいてときどき踏みつけられては欠ける
おまえの淋しさをしってから淋しさの意味を問い

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未来2017年3月

まひるまの紅葉の道を踏んできてかすかに濡れている靴の底
歩くたびひそやかに鳴る各々がひっさげているビニール袋
保津峡をだらだら歩く白滝の気配に濡れる道をたどって
切手を貼るためにしめった指先はひだまりのなか気づけば乾く
ぼんやりと退社理由の空白にでかでかと書く卒業の文字
検尿の提出チェック欄の隅に引退と書く夜勤のさなか
新人指導したくないなあ最後までのんびりシフトし続けたいな
洗剤をぶちまけて床磨

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未来2017年2月

植木鉢並ぶパン屋の入り口に傾いている折りたたみ傘
カフェ?ラッテの鳥の図柄を沈め終え小さな傷の重なるスプーン
秋雨の匂う駅舎の片隅にしばし無言で佇んでいる
スクールバスのエンジンレバーにかけてある袋に透けるMEVIUSの青
図書館の地下の本棚を目で追って肩幅ほどの通路を進む
立ち読みを長く続けて栞紐の形に窪むページを開く
机もっときれいにしてと叫ぶ客が汚す余白をうみだしてやる
夜行バスに目を覚ます

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未来2017年1月

秋の蝶が私の方へやって来てこわさぬように休めるペダル
唐突なエンドロールの文字列に人は輪郭を取り戻しゆく
分けあえるケーキの写真を撮る人の指先をフレームにおさめる
工事中のフェンスに終わる川沿いを笑い話にして引き返す
夏の日の陸上競技トラックの風が恋しく堤防へ行く
繋がりといえば何だか曖昧で車輪の泥をあらく拭った
いらっしゃいませ席に座っている客にお好きなお席どうぞと囁く
冷凍され店舗に届くものた

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