関大短歌一号を読む

揺れている青い紫陽花のピアスは夏へのまばらな拍手であること
丁寧にふくらみすぎた寂しさは部屋のかたちに八つに尖る
渡つぐみ/台風とトマト

 夏への準備として風をうけるピアス。紫陽花のピアスを通してのまばらな拍手に、世界からかすかな祝福を受けているような爽やかさがありました。二首目、膨らんだ寂しさもいずれ部屋に形があるように、膨らみきれなくなり抑え付けられます。そこに尖りを見つける視線に、寂しさの中の荒々しさが滲んで好きです。
 破調の歌が多い連作でしたが、それが寂しさ、満たされなさと緩やかに結びついていて面白かったです。

放課後のセピアに染まる思い出も一人じゃ数はたかが知れてる
楠木珀登/従人十色

 上句はよく見るフレーズですが、思い出を美化するのでもなく、冷静に自分を見つめる視線が面白く。青春を隅っこで過ごしてきたような自意識が見えてきました。

かけがえがあるものばかりと暮らしつつイニシャル入りの食器を洗う
おむすびが緩く解けて崩れてく もっとちからをこめればよかった
宇尾みやこ/ペアカトラリー

 無くなってもかまわないものに囲まれた暮らしの中で洗う食器もそうで。イニシャル入り、なにかの記念品かもしれませんが、それも過去のことになっている。あまりものに固執しない簡素で清潔な暮らしがイメージされました。
 また、二首目はおにぎりを強く握っていれば崩れなかったのにという歌の背景に人間関係の崩れも想起させられました。もっとこめたかったちからとは、大切な人の手のひらを握る力かもしれません。

一瞬を描き続けた手のひらの傷が開いて慰められる
石勇斎朱吉/見えない世界

 絵でも、あるいは文学でも。世界を切り取る作業に傷つく私。手のひらの傷が開くという出来事を前にしても、慰められるだけだという淡々とした感じが面白いです。もしかしたら主体は傷つき続けていてずっとどこかしらから血を流すように日々を生きているのかもしれません。

首筋に残されていた紫陽花の香りに気づいていたよ、わたしは
榎本求/温め直す

 紫陽花の香りとは雨の香りのようなものかもしれません。なんとなく紫陽花が土の質で色を変えるように、その首筋の相手への身体的な近さとは裏腹な心理的な遠さを感じました。

他、座談会など企画も充実しており、5人と少人数ながら濃い活動をしていることがうかがえます。これからのますますの活躍に期待が高まりますね!

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