同志社短歌四号の感想

僕も前号評に参加させていただきました。
人も増えて、短歌、散文ともに充実しており楽しく読みました。

夢ばかり見ている君をジャンプ台みたいに蹴って次へ飛び込む
石勇斎朱吉/ジーンズと桜

現実や私を見ない君を踏みつけて、気持ちは先に進む。飛び込むと目標を定めてある一点めがけて飛んだのでしょう。新しい恋でも、打ち込めることでもなんでもいい。あてもなく飛ぶのではないところに力強さがあって、気持ちよかったです。

今日もまた約束にまず間に合わない時間に涼しいベッドで目が開く
尾崎七遊/チョコレートパフェ

涼しいは、ひんやりとしたベッドというだけでなく、心情もうつしだしているのでしょう。約束をした相手に対する安心感。自分のズボラな一面も分かってもらっていることが伝わってきました。

弓であり獣であれば沈黙の中にするどい故意をうずめて
狩猟獣/虎瀬千虎

弓兵、弓を身体一部のように扱い、獣のように目的を屠る。弓を引き絞る集中したひとときのなかに宿る意志を思いました。一連を通して神話や英雄といったもののモチーフが立ち上がってきて、凄くかっこよかったです。

終わりって選択肢になり得たんだね 他人事みたいに流してた船
さやこ/スイートスパイラル

他人事みたいに流す船は、本当に自分にとってどうでもいいものです。笹舟か、おもちゃの船か。波や地形によって、必ず終わりがくる船。終わりが選択肢になり得るなどと言いながらも、もう終わり以外の選択肢がほぼ見えなくなっているのかもしれません。

千年の誇りを勝手に持ちまして胡瓜を齧る乙女を睨む
太子/誇りを勝手に持ちまして

胡瓜を齧る乙女を睨むような私が(しかも勝手に、と断りをいれたうえで)持つ千年の誇りってなんやねん。千年などと思い言葉ではじまりながら、軽い口調で、誇りを持ちきれていないような様が面白かったです。

おおむねはわたしひとりの密会で植物園をゆっくりと行く
田島千捺/夏の園

一人きりでいる植物園の感じが出ていて好きです。明るいのに、影がたくさんあって。少し高めの湿度と草木の香りに満たされて心踊る様。密会という言葉の斡旋が魅力的です。

海からは風 そのまつげの憂いだけは映画のようにしないでね、夏
林美久/夏へ誘われる

海を見晴るかしながら風を受ける。海の光と反して君のまつげは風に揺れながら陰りを帯びる。憂い、映画、夏というワードを見れば、青春(失恋)を想起してしまいます。もしかしたら、君との関係が、そんな結末になりたくはないという季節への祈りなのかもしれません。

南国の風景としてささやかな貝を描き足すための細筆
はたえり/南国の風景

南国の景色として貝が頭に残ったのでしょうか。見晴るかすことが出来る美しい海ではなく、ささやかな小さい貝に心惹かれてしまう。どこにいっても自分はちっぽけな存在だということを感じてしまうゆえかもしれません。だからこそ南国の景色として思い出として貝を描くという行為は、祈りのような、ちっぽけなものを自分の世界に刻みこむようなものなのかもしれません。

ハルジオンが好きと君が言ったからパンジーの次に名前を覚えた
三浦宏章/赤坂上り道

もしかしたらパンジーも、誰かが好きと言ったから名前を覚えたのかもしれません。人との思い出とリンクして鮮やかな花が浮かんできました。

たいせつなことはいっつも標準語なんでしぜんにいわれへんのん
御手洗靖大/未来なんかきらい

韻律のよさ。オフィシャルな場であったり、真面目な話をする時になんとなく求められてしまう「標準語」というものに対する違和。

また、同志社短歌のブースでは会員のはたえりさんの個人誌「mlmnnlnnm」も置かれていました。

当たりくじばかりの暮らしコンビニが潰れたのちに薬局となる
はたえり

コンビニより薬局のほうが嬉しくて、ラッキー大勝利という感じなのかもしれません。しかし、コンビニが潰れた時点ではそこがどう生まれ変わるか分からないわけで、今より不便になることもありえました。くじはいつまでも当たり続けるわけではありません。どこかそのことを予感させるように、かすかな息苦しさが読後にのこりました。

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