マガジンのカバー画像

未来2016年

9
運営しているクリエイター

記事一覧

未来2016年12月

ヨーグルトに沈むベリーをすくいあげ気がつけば今日は始まっている
営みの塊であるトラックがロードバイクを追い抜いていく
二輪車が急なカーブを曲がるとき地軸の角度を思い出せない
回送の列車が過ぎる振動に鉄道橋から影が溢れる
ベゴニアが所々に咲いている肩幅ほどの山道をゆく
蜘蛛の糸一本絡みついてしまう腕の産毛を陽にあてている
置き去りにされ続けおり歩行者の侵入禁止道路を前に
牢獄のように鰯の群がいて見晴

もっとみる

未来2016年11月

駐輪場に入りゆく人それぞれが傾いたまま動きを止める
入道雲を目印として海へ着く国道2号線の湾曲
寂しいかと問われればきっと寂しくて身体は風を受けいれぬかたち
俯いてペダルをまわすこんなにも車輪の影は風切るかたち
飲みほしたペットボトルの底のあわ人を待つ間に揺らし続ける
山道のアスファルトは苔むしていて肺がゆっくり冷まされていく
皆が皆雨ひきずってやって来るすき家の赤き看板のもと
あやまちを繰り返し

もっとみる

未来2016年10月

電波塔に赤い灯がつく人間と仲良くなりたい怪獣みたい
コップから流れ出せない珈琲が三日月形に乾ききっている
透きとおる空間にいて透きとおる壁にもたれて待つエレベータ
アイスティのグラスを持てば六月のなごりのようにある水溜り
まどろめば喫茶ソワレに週末の夜を冷ましてゆくゼリーポンチ
スマートフォン大水槽に向けている人それぞれがひかりを映す
等身大ペンギンの絵と折りたたみ傘の長さを見比べている
パーキン

もっとみる

未来2016年9月

ネクタイを解くのが下手はつなつの風はぶらんこへと吹いている
私を捨てた御社の協力で青々と照る園内植物
噴水の飛沫の延長上にいてアメンボは池の面をとんでいる
ゴリラ舎に野生のゴリラ映されて撮影隊のか細い吐息
ゾウの森と書かれた広場に鉄柱が鎖垂らして幾本も立つ
虎のいる檻に転がる木片は飼育係の指にも見える
こいつらは餌なのだろう濡れているワニらが眠る水槽の魚
御社から遠ざかりきった京阪の特急は地下に動

もっとみる

未来2016年8月

ジャスミン茶のペットボトルが転がって履歴書の端薄く濡らせり
ふとももに犬ぴったりと寄り添った写真のとどく帰省の知らせ
どの写真も犬のしっぽのぶれていて時々全部全部がぶれる
夕暮れに紙次々と吐き出せる大印刷機熱を帯びをり
面接の終わりの四条烏丸にバスを待ちつつ夕暮れている
水瓶の周りに羽虫湧き出れば光の粒子みたいに動く
京都駅はガラスの檻で溜まりゆく夕陽を人が乱して歩く
一人には広い机に音たててもや

もっとみる

未来2016年7月

明け方の東京にある影はどのビルのものかを分からずにいる
人混みを少し離れてブルドッグ真昼の薄い雲のほう見る
傾きの急な石段おりる時二の腕うごく参道の春
境内のしきりの奥に残されてみかんいくつかかすかに揺れる
春風の入る訪問介護所の壁に脚立のかけられている
銭湯はカフェへと作り変えられてタイルの一つ一つに陽差す
空の色うっすら映すガラス張りの花屋にモネのポスター揺れる
夕暮れの門を閉ざした聖域に猫が

もっとみる

未来2016年6月

名も知らぬ四番バッター三振をするたびに春深まってゆく
先輩が減った教室違和感はいつもゆっくり遠くから来る
めでたしで終わる絵本が好きでした内容とかは覚えてなくて
知り合いの姓をいくつもくぐり抜け春の雪ふる高速道路
売り物のボトルシップの帆は風を知らないままに膨らんでいる
光降る大水槽に集い来る幼稚園児のかばんと帽子
勘違いでしたと唐突な別れうっすら白い木漏れ日がある
石鹸から飛べないしゃぼんだまあ

もっとみる

未来2016年5月

青空にサドルを少し近づけて春より早く春休みが来る
舌先にアーモンドチョコ転がしてポトフを煮込む火を見続ける
小さき手は砂利を掴んですぐ零す掴んではすぐ泣いてしまった
真夜中の川の深さを横にいる人へ伝えるための水鳥
空港の窓も一つのそらでありわずかに春の塵に汚れる
地下街は清潔な白あたたかく全てチェーン店が埋め尽くす
恋猫は遠くへと鳴く封筒の端薄く薄く切り落とす
引越しの半ばの人の横にいて本棚の螺子

もっとみる

未来2016年4月

地下鉄の始まりは陽を浴びていて緑の色の切符をしまう
並木道沿いの屋台に木洩日を煮詰めた色の蜜がたっぷり
この足は制限速度40を超えず遠くを見ている真昼
「どんな人」と聞けば形容詞を多く言われスクランブル交差点
人混みの隅での会話ぼんやりとアーケード商店街の夕
最後には夕日の色を混ぜて黒美術部員は水を捨て去る
人の手という熱量を突っ込めば水槽の海老よく跳ね回る
手をつなぐ言い訳としてある暗さ星を数え

もっとみる