ーーーート、ト、ト、ト、トンッ。

……アヒャッ!!

ーーーート、ト、ト、ト、トンッ。

……アヒャッ!!

ーーーート、ト、ト、ト、トンッ。

……アヒャッ!!



先程から繰り返して聞こえる。

玄関から廊下を通って、リビングに来る。

そして、俺の隣で笑うのだ。


ーーーート、ト、ト、ト、トンッ。

……アヒャッ!!

ーーーート、ト、ト、ト、トンッ。

……アヒャッ!!

ーーーート、ト、ト、ト、トンッ。

……アヒャッ!!



突然消えたかと思うと、玄関から足音を立てて、またリビングへ来る。

ソイツは多分、1歳くらいの男の子だ。

まだ髪の毛は薄っすらで成長中のよう。

きめ細かい柔らかな肌にキレイな目、歯が生えていない口を横に伸ばしてニコッと笑う。

白い肌着を着てその上に淡青のよだれかけをしている。

紙オムツもバッチリだ。


だが、両腕がない。

肩と腕の境から腕2本がない。

もう、この時点でソイツは生きている赤子ではない。

目を合わさず、無視を決め込む。


ーーーート、ト、ト、ト、トンッ。

……アヒャッ!!

ーーーート、ト、ト、ト、トンッ。

……アヒャッ!!

ーーーート、ト、ト、ト、トンッ。

……アヒャッ!!


なぜかって?

ソイツに目を合わせて、話しかけようものなら一生付いてくる。

宿主の生気をすすりながら自分の中へ取り込むのだ。

もう何人もの住民を取り込んでいる。

赤子の姿をしたバケモノだ。


ーーーート、ト、ト、ト、トンッ。

……アヒャッ!!

ーーーート、ト、ト、ト、トンッ。

……アヒャッ!!

ーーーート、ト、ト、ト、トンッ。

……ア…………………。


背後で音がした。


あああああああああああーーーーーー!!!


凄まじい、泣き声だ。

途中でコケたのだろう。

頭の中で痛みと耳鳴りのような音がする。


あああああああああああーーーーーー!!!


あああああああああああーーーーーー!!!


あああああああああああーーーーーー!!!


両手で耳を塞いで、体育座りのように丸くなりそこに顔を埋めた。


目をしっっかり潰れ!耐えろ!!



ふっ、といつもの日常の静けさが戻ってきた。

家電製品の音、アパート住民の生活音、外の電車の音。

なぜだかこのときは、とてもその音たちを聞けて嬉しかった。

もう安心だ、顔を上げてリラックスする。

ハァ〜、と大きく息を吸い、テーブルにあったビールとつまみに手を伸ばしたーーーー。




ーーーート、ト、ト、ト、トンッ。


……アヒャッ!!

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