小説『なならき~七福神と七野家~』

七福神たちが繰り広げる、日常系ショートアニメ「なならき」。 その一方で、人間の家族・七…

小説『なならき~七福神と七野家~』

七福神たちが繰り広げる、日常系ショートアニメ「なならき」。 その一方で、人間の家族・七野家に起こっていた物語を公開しています。 最新話は「8」の付く日に投稿されます。 作者:暁唏 哲(あかつき さとる) 「なならき」本編はこちら→https://bit.ly/3JT5uGC

記事一覧

第12話 笑う家族に福来る

「な、何だって?!取り壊しは今日?!」  バンク神の作品の発見を受けて、私達家族は浮き足立っていた。  芸術的価値もさる事ながら、描かれた壁の持ち主に富と知名度…

第11話 渡りに宝船

 幸運は長くは続かないものだ。  禍福は糾える縄の如く、月に叢雲花に風。古来から語られてきたように、幸運は儚く、すぐに不幸に取って代わる。  もちろん、幸運が意…

第10話 神はバズなり

「こんばんわー…… あたしは今、大衆居酒屋『ヤマタノオロチ』に来ていまーす……」  スマホに顔を近づけ、できる限りの小声で話す。もちろん、アングルには最新の注意…

第9話 触らぬ電源に祟りなし

 神はついに僕を見放したか。  机の上のノートの文字は、自分で書いたにも関わらず判読が難しい。というか、先程からノートの文字に上手く目の焦点が合わない。隣に開か…

第8話 子の心親知らず

『ご当地キャラコンテスト、開催中っぴ!』  ひよこを模したキャラクターが、高い声と共にぴょんぴょん跳ねる。  コンテストのコマーシャル動画を見せ終えた私は、向か…

第7話 撮らぬ企画のバズ算用

「はーい、今日はですね、なんと!トルコアイス専門店 『ドンドゥルマ・シチフクリアン』にやって来ました!」  あたしは、スマホを持った腕を真っ直ぐ伸ばして、背後に…

第6話 禍い転じて福増える

「おやおや」  商店街の中を、宝船がすべるように進んでいきます。  先頭で舵を切っている恵比寿さんは、なんだかとても楽しそうなお顔をしていました。  ここは神拗…

第5話 能ある神は筋肉を隠さない

「お〜い、七野〜!カラオケ行こうぜ!お前の奢りな!」  校門を出て20秒。僕は、今日も平穏に帰れない事を悟った。  声をかけてきた那珂島は、返事も待たずに僕の肩を…

第4話 女心と琵琶の音

 ああ、どうしてあんな事を言ってしまったのかしら。  昼下がりの公園で、私は1人、空を見上げていた。今日は良い天気だ。大きな空を眺めれば、綿のような白い雲が、右…

第3話 二度ないことも三度目の正直

『ピッ……ピッ……ピッ……』  機械的な、冷たい音がゆっくりと鳴っている。  果たして、私はこの音を今、自分の耳で聞いているのだろうか。あるいは、記憶に焼き付い…

第2話 小銭も積もれば山となる

 「店長、先輩、注文が溜まってきてますよ!」  厨房に向かって大声を上げながら、俺は空の食器を手際よくトレイに乗せていった。  バイトを始めたての時はビールを注…

第1話 人も歩けば鯛に当たる

 不幸は連続するものだ。  泣き面に蜂、弱り目に祟り目など、古来から語られてきたことわざにもその事実は表れている。  もちろん、不幸が意思を持って同じ人間を襲う…

第12話 笑う家族に福来る

第12話 笑う家族に福来る


「な、何だって?!取り壊しは今日?!」

 バンク神の作品の発見を受けて、私達家族は浮き足立っていた。
 芸術的価値もさる事ながら、描かれた壁の持ち主に富と知名度をもたらすバンク神の絵画。それが、家族の運営する銭湯に描かれたというのだから。

 少し前のかみすねくんの大ヒットを受けて、神拗町では再開発計画が持ち上がっていた。観光客によってもたらされた収益を使って、古くなりガタが来ている神拗町の建

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第11話 渡りに宝船

第11話 渡りに宝船

 幸運は長くは続かないものだ。

 禍福は糾える縄の如く、月に叢雲花に風。古来から語られてきたように、幸運は儚く、すぐに不幸に取って代わる。
 もちろん、幸運が意思を持って人から逃げ出す訳ではない。
 幸運というのは、通常よりも良いから幸運なのであって、絶頂の後には普通に戻るだけ……理屈では分かっているが、しかし惜しむ気持ちが拭えないのが人間だ。

 ひょんなことから社長の座に着き、給料も待遇も改

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第10話 神はバズなり

第10話 神はバズなり

「こんばんわー……
あたしは今、大衆居酒屋『ヤマタノオロチ』に来ていまーす……」

 スマホに顔を近づけ、できる限りの小声で話す。もちろん、アングルには最新の注意を払っておかなければならない。今日は顔がアップになる事を見越して、メイクもいつもよりしっかりめだ。

 あれからあたしは何度か配信をしてみたけれど、あのアイス配信ほどの手応えはなく、登録者は徐々に減ってきていた。何故か大食い配信者として有

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第9話 触らぬ電源に祟りなし

第9話 触らぬ電源に祟りなし

 神はついに僕を見放したか。

 机の上のノートの文字は、自分で書いたにも関わらず判読が難しい。というか、先程からノートの文字に上手く目の焦点が合わない。隣に開かれた単語帳の上を、僕の視線はスケート選手のように滑っていく。
 僕は単語の書き取りを諦めてペンを放り出し、椅子の背もたれに体重を預けた。体は休まれども、頭が休まることはない。それもこれも、少し前から聞こえ続けている、不快な大声のせいだ。

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第8話 子の心親知らず

第8話 子の心親知らず

『ご当地キャラコンテスト、開催中っぴ!』

 ひよこを模したキャラクターが、高い声と共にぴょんぴょん跳ねる。
 コンテストのコマーシャル動画を見せ終えた私は、向かいに座る母の反応を伺った。想像していた通りだが、あまり芳しくはない。

「この……『っぴ』っていうのは、どういう意味なのかしら?」

 どこかピントのずれた彼女の言葉に、私は思わず額を抑えた。

「別に意味があるとかじゃなくって、そういう

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第7話 撮らぬ企画のバズ算用

第7話 撮らぬ企画のバズ算用

「はーい、今日はですね、なんと!トルコアイス専門店
『ドンドゥルマ・シチフクリアン』にやって来ました!」

 あたしは、スマホを持った腕を真っ直ぐ伸ばして、背後にあるアイス屋の看板を頭越しにカメラに映そうとした。が、横長の大きな看板は縦持ちのスマホにはまるで収まらない。
 まあ、いいか。大事なのは顔だし。

 今や日本人の半分が動画サイトを利用していると、ネットニュースが言っていた。にも関わらず、

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第6話 禍い転じて福増える

第6話 禍い転じて福増える

「おやおや」

 商店街の中を、宝船がすべるように進んでいきます。
 先頭で舵を切っている恵比寿さんは、なんだかとても楽しそうなお顔をしていました。

 ここは神拗町商店街。神拗町の外れにある、寂れた商店街です。
 わたしはこの商店街で、銭湯の番台さんをしています。

 近頃は大きなデパートにお客を取られて、商店街の勢いは下火です。テレビで「シャッター街」なんて言葉をきくと、思わず胸に手を当ててし

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第5話 能ある神は筋肉を隠さない

第5話 能ある神は筋肉を隠さない

「お〜い、七野〜!カラオケ行こうぜ!お前の奢りな!」

 校門を出て20秒。僕は、今日も平穏に帰れない事を悟った。

 声をかけてきた那珂島は、返事も待たずに僕の肩を掴んで引き寄せる。バランスを崩し、たたらを踏んだ僕を見て周囲から下卑た笑い声が上がった。何が面白いのだろう。

「今日何時間する?追い出しギリまで?」

「やべ、学生証家かも」

「別になくても顔で分かるべ」

「七野、今日財布持って

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第4話 女心と琵琶の音

第4話 女心と琵琶の音

 ああ、どうしてあんな事を言ってしまったのかしら。

 昼下がりの公園で、私は1人、空を見上げていた。今日は良い天気だ。大きな空を眺めれば、綿のような白い雲が、右から左へゆっくりと飛んでいく。
 子供達は学校に、働き手は職場に、人が出払った後の住宅地は静かだ。

 長く閑があると書いて、長閑。のどかな昼下がりとは、こういう時間のことを言うのだろう。一つ違う点があるとすれば、私の心中は全く穏やかでは

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第3話 二度ないことも三度目の正直

第3話 二度ないことも三度目の正直

『ピッ……ピッ……ピッ……』

 機械的な、冷たい音がゆっくりと鳴っている。

 果たして、私はこの音を今、自分の耳で聞いているのだろうか。あるいは、記憶に焼き付いたそれが、頭の中で反響しているのか。

 金縛りは、起きたまま体が動かなくなるのではない。本人は眠っているのに、起きていると錯覚して、体が動かなくなる夢を見ているのだ。

 そう、孫が得意げに話すのを聞いたのはどれほど前だろうか。指先一

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第2話 小銭も積もれば山となる

第2話 小銭も積もれば山となる

 「店長、先輩、注文が溜まってきてますよ!」

 厨房に向かって大声を上げながら、俺は空の食器を手際よくトレイに乗せていった。
 バイトを始めたての時はビールを注ぐのも一苦労だったが、今ではジョッキを両手に3つずつ持って運ぶことも余裕だ。すっかり一人前の居酒屋店員と言える。

(別に、居酒屋店員のプロになりたいワケじゃないんだけど……)

 運んできた食器を流しに並べると、店長の首のうちの1本が伸

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第1話 人も歩けば鯛に当たる

第1話 人も歩けば鯛に当たる

 不幸は連続するものだ。

 泣き面に蜂、弱り目に祟り目など、古来から語られてきたことわざにもその事実は表れている。
 もちろん、不幸が意思を持って同じ人間を襲う訳ではない。
 不幸に見舞われた人間は注意力が散漫になり、不注意が次の不幸を招く……理屈では分かっているが、しかしこう不幸が続けば、何かのせいにもしたくなる。

 事の始まりは、仕事で犯した小さな間違いだった。ちょっとした、スケジュールの

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