小説『なならき~七福神と七野家~』

七福神たちが繰り広げる、日常系ショートアニメ「なならき」。 その一方で、人間の家族・七野家に起こっていた物語を公開しています。 最新話は「8」の付く日に投稿されます。 作者:暁唏 哲(あかつき さとる) 「なならき」本編はこちら→https://bit.ly/3JT5uGC

小説『なならき~七福神と七野家~』

七福神たちが繰り広げる、日常系ショートアニメ「なならき」。 その一方で、人間の家族・七野家に起こっていた物語を公開しています。 最新話は「8」の付く日に投稿されます。 作者:暁唏 哲(あかつき さとる) 「なならき」本編はこちら→https://bit.ly/3JT5uGC

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    第10話 神はバズなり

    「こんばんわー…… あたしは今、大衆居酒屋『ヤマタノオロチ』に来ていまーす……」  スマホに顔を近づけ、できる限りの小声で話す。もちろん、アングルには最新の注意を払っておかなければならない。今日は顔がアップになる事を見越して、メイクもいつもよりしっかりめだ。  あれからあたしは何度か配信をしてみたけれど、あのアイス配信ほどの手応えはなく、登録者は徐々に減ってきていた。何故か大食い配信者として有名になってしまったものの、元々のあたしは大食いなんかできないからだ。  そんな

      • 第9話 触らぬ電源に祟りなし

         神はついに僕を見放したか。  机の上のノートの文字は、自分で書いたにも関わらず判読が難しい。というか、先程からノートの文字に上手く目の焦点が合わない。隣に開かれた単語帳の上を、僕の視線はスケート選手のように滑っていく。  僕は単語の書き取りを諦めてペンを放り出し、椅子の背もたれに体重を預けた。体は休まれども、頭が休まることはない。それもこれも、少し前から聞こえ続けている、不快な大声のせいだ。 「食らえ3連バナナあああ!」  嫌に耳に刺さる声が、カーテンを貫通して窓の向

        • 第8話 子の心親知らず

          『ご当地キャラコンテスト、開催中っぴ!』  ひよこを模したキャラクターが、高い声と共にぴょんぴょん跳ねる。  コンテストのコマーシャル動画を見せ終えた私は、向かいに座る母の反応を伺った。想像していた通りだが、あまり芳しくはない。 「この……『っぴ』っていうのは、どういう意味なのかしら?」  どこかピントのずれた彼女の言葉に、私は思わず額を抑えた。 「別に意味があるとかじゃなくって、そういう喋り方なのよ。 『ござる』とか、『なのだ』とかとおんなじよ」 「そうなの?不思

          • 第7話 撮らぬ企画のバズ算用

            「はーい、今日はですね、なんと!トルコアイス専門店 『ドンドゥルマ・シチフクリアン』にやって来ました!」  あたしは、スマホを持った腕を真っ直ぐ伸ばして、背後にあるアイス屋の看板を頭越しにカメラに映そうとした。が、横長の大きな看板は縦持ちのスマホにはまるで収まらない。  まあ、いいか。大事なのは顔だし。  今や日本人の半分が動画サイトを利用していると、ネットニュースが言っていた。にも関わらず、あたしの生放送には全然人が来ない。  チャンネル登録者数も開設した時の3人から増

            第6話 禍い転じて福増える

            「おやおや」  商店街の中を、宝船がすべるように進んでいきます。  先頭で舵を切っている恵比寿さんは、なんだかとても楽しそうなお顔をしていました。  ここは神拗町商店街。神拗町の外れにある、寂れた商店街です。  わたしはこの商店街で、銭湯の番台さんをしています。  近頃は大きなデパートにお客を取られて、商店街の勢いは下火です。テレビで「シャッター街」なんて言葉をきくと、思わず胸に手を当ててしまうくらい。  わたしはもう、40年以上この商店街で暮らしています。繁華街と半

            第5話 能ある神は筋肉を隠さない

            「お〜い、七野〜!カラオケ行こうぜ!お前の奢りな!」  校門を出て20秒。僕は、今日も平穏に帰れない事を悟った。  声をかけてきた那珂島は、返事も待たずに僕の肩を掴んで引き寄せる。バランスを崩し、たたらを踏んだ僕を見て周囲から下卑た笑い声が上がった。何が面白いのだろう。 「今日何時間する?追い出しギリまで?」 「やべ、学生証家かも」 「別になくても顔で分かるべ」 「七野、今日財布持ってきてるよな?」  曖昧な笑みで返せば、那珂島は「分かってんじゃん」と笑って背中

            第4話 女心と琵琶の音

             ああ、どうしてあんな事を言ってしまったのかしら。  昼下がりの公園で、私は1人、空を見上げていた。今日は良い天気だ。大きな空を眺めれば、綿のような白い雲が、右から左へゆっくりと飛んでいく。  子供達は学校に、働き手は職場に、人が出払った後の住宅地は静かだ。  長く閑があると書いて、長閑。のどかな昼下がりとは、こういう時間のことを言うのだろう。一つ違う点があるとすれば、私の心中は全く穏やかではないということだ。 「ニャー」  膝の上で、三毛猫のラッキーが不服そうに鳴き

            第3話 二度ないことも三度目の正直

            『ピッ……ピッ……ピッ……』  機械的な、冷たい音がゆっくりと鳴っている。  果たして、私はこの音を今、自分の耳で聞いているのだろうか。あるいは、記憶に焼き付いたそれが、頭の中で反響しているのか。  金縛りは、起きたまま体が動かなくなるのではない。本人は眠っているのに、起きていると錯覚して、体が動かなくなる夢を見ているのだ。  そう、孫が得意げに話すのを聞いたのはどれほど前だろうか。指先一つ自由にならぬまま、ぼんやりとした視界の中、病室の天井を見上げているこの状況も、

            第2話 小銭も積もれば山となる

             「店長、先輩、注文が溜まってきてますよ!」  厨房に向かって大声を上げながら、俺は空の食器を手際よくトレイに乗せていった。  バイトを始めたての時はビールを注ぐのも一苦労だったが、今ではジョッキを両手に3つずつ持って運ぶことも余裕だ。すっかり一人前の居酒屋店員と言える。 (別に、居酒屋店員のプロになりたいワケじゃないんだけど……)  運んできた食器を流しに並べると、店長の首のうちの1本が伸びてきて、スポンジで皿を洗い始めた。  首が全部で8本あるこの居酒屋の店長は、当

            第1話 人も歩けば鯛に当たる

             不幸は連続するものだ。  泣き面に蜂、弱り目に祟り目など、古来から語られてきたことわざにもその事実は表れている。  もちろん、不幸が意思を持って同じ人間を襲う訳ではない。  不幸に見舞われた人間は注意力が散漫になり、不注意が次の不幸を招く……理屈では分かっているが、しかしこう不幸が続けば、何かのせいにもしたくなる。  事の始まりは、仕事で犯した小さな間違いだった。ちょっとした、スケジュールの記入ミス。良くないことだが、よくあるミスだ。  しかし、今回はそれがとことん裏目