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底つき感【後編】

(前編より)

 さて、ここからは方法1よりも少しだけ自由にトランスフォーム(変形)した「どん底」たちを紹介していこう。

1.ノン底 
 底にいることを強く否定したい場合に用いる。

2.ドンゾ湖 
 底にいることを知らばっくれたい場合に用いる。

3.ON 底 
 今まさに「底にいるのだ」と、冷静に受け止めたい場合に用いる。

4.どう? 底
 底にいる気分を確かめたい場合に用いる。

5.どんぞ子
 「我こそがどん底の申し子である」と、開き直りたい場合に用いる。

6.てい! 
 底を勢いだけで抜け出したい場合に用いる。

7.どん底さん
 敬称をつけて、どん底におもねりたい場合に用いる。
 変更も自由。「ちゃん」でも「リン」でも「シャン」でも、好きにしておくれやす(オイラは「野郎」推し)。

 ここで、方法1(前編参照)を考えている最中に気がついた重要な発見について報告したい。
 実は、レベル4「どん底」の上にまだレベル5の「底」があったのだ。それが「ドーン底」である。この底については人命に関する内容ということもあり、お話しすることをパケラッタ・・・あ、ためらったのだが、「うちのヘッポコ文章でも、命を守るための啓蒙をしてみるのだっちゃ!」と考え直し、敢えてお話しすることにした。

 それでは説明しよう。
 「ドーン底」とは、レベル4「どん底」の「ど」と「ん」の間に「-」(音引き《おんびき》)が入ったものである。音引きが入って、響きが何かに激しく衝突したときの「ドーン」と同じになったため、転落者はおそらく致死的な状態だと思われる。つまり、蘇生できる可能性が非常に低い。
 一方、レベル4「どん底」の転落者にはまだ意識がある。したがって、蘇生できる可能性は残っていると考えられる。つまり、君が「どん底にいる」と認識しているならば、君は「まだ終わっていない」ということなのである。
 ・・・だから君には、その底がまだ「ドーン底」ではないということを、どうか忘れないでいてほしい。

 ところで、ここまで主に「どん底」の「底」を細分化し、あらたな名称を与えることで、どん底をどん底と認識せずに済むようになるかもしれない方法を述べてきたわけだが、ここからはまた別の方法を紹介していきたい。

〔 方法2 〕
 曲の歌詞をイジってから歌うことで、どん底感を和らげる。
 
 例)鈴木雅之『違う、そうじゃない』
   違う 違う そうじゃ そうじゃない ♪
 ⇒ 違う 違う そこは 底じゃない ♪
 
 このように歌ってみると、みるみるどん底感が薄れていくのが分かるだろう。もしも効果がイマイチだと感じるなら、ブリッジ(間奏)からの大サビ「♪ 違う 違う 違う 違う そうじゃない」の所で歌ってみよう。『もう涙はいらない』と決心がつくこと請け合いだ。

 この手法はただの説得である。しかし、ただの説得を軽快なリズムとキレのあるメロディーに乗せただけで、「なんかここがそこ(底?)じゃなさそう・・・」な気分を喚起させることに成功している。こういうのをこども騙しと言う。だが、リズムとメロディーが説得力の無さを補うこともあるのだということを示す好例でもある。

〔 方法3 〕
 ギャグのフレーズを部分的にイジることで、どん底感を和らげる。

 例)IKKO『どんだけ~』
   どんだけ~ ♪(人差し指を振りながら)
 ⇒ どんぞこ~ ♪(足元に向けて人差し指を振りながら)

 このようにパフォーマンスしてみると、あれよあれよという間にどん底感が薄れていくのが分かるだろう。もしも効果がイマイチだと感じるなら、いったん落ち着いて別のフレーズ「まぼろし~ ♪」を挟んでやり直そう。イマイチな気分が帳消しになること請け合いだ(じゃあ「ぴょん底」とか要らなかったんじゃ・・・)。

 この手法もただの自虐である。しかし、ただの自虐を単純なリズムと簡潔なメロディー、そして簡単な振付に合わせただけで、「他人にどう思われるかなんてどうでもいい」みたいな気分を喚起させることに成功している。こういうのはこども魂と言う(supported by こども騙し)。そして、こちらもリズムとメロディーと振付が「陰気な自虐」を「陽気な自虐」に反転させることがあるのだということを示す好例である。

 以上で、『ナミオ=マッキンゼー流「どん底」脱出戦略』の紹介を終わる。
 小学生のみなさんも、夏休みの間に一度「どん底からの脱出法」を考えてみないかい? あいにく、おじさんは相談には乗れないけど。・・・どうしてかって? 仕事の合間にこの原稿を一生懸命つくっていたら、夢中になりすぎて大切なお仕事を1個すっ飛ばしちゃったからさ(テヘッ)。
 それはともかく、おじさんは今日お話を聞いてくれたお友だちの誰かが、いつか氷川きよしの『きよしのズンドコ節』を、逆境にいる人たちの心をそっと温めてくれるような『Kiina のドンゾコ節』に底上げしてくれると、心底、信じてるよ(あッ!)。
 シンソコ・・・

 また新しい・・・
 底・・・



内容の一部に、”事故死” や “自死” を連想させる記述がございますが、決して人命を軽視する意図はございません。


Ⓒ2023  Namio Kotori


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