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小説《魂の織りなす旅路》

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光たちからのメッセージ小説。魂とは?時間とは?自分とは?人生におけるタイミングや波、脳と魂の差異。少年は己の時間を止めた。目覚めた胎児が生まれ出づる。不毛の地に現れた僕は何者なの…
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#差異

連載小説 魂の織りなす旅路#20/差異⑴

連載小説 魂の織りなす旅路#20/差異⑴

【差異⑴】

 誰もが差異を抱えて生きている。差異を抱えたまま人と繋がり、差異を抱えたまま己の人生を選択する。
 私にとって、そうした差異から距離を置く時間はとても大切で、いつも穏やかで静かな場所を探している気がする。たとえば、この喫茶店のこの片隅の席。店内には穏やかな曲調のクラシックが抑えた音量で流れていて、空いているときは自分だけの時間に身を浸すことができる。

 カランコロン。喫茶店のドアが

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連載小説 魂の織りなす旅路#21/差異⑵

連載小説 魂の織りなす旅路#21/差異⑵

【差異⑵】

 商店街から人気のないひっそりとした横道に入ると、ブルブルブルッとバッグの中のスマホが震えた。スマホを開くと画面上部に「今から会えないかな?」の文字。彩夏(あやか)だ。

 私  いいよ

 彩夏 相談にのってもらいたいことがあって

 彩夏 ゆっくりうちで話したいの

 私  了解!

 彩夏 大学の正門に着いたらLINEして

 私  はーい

 彩夏は大学近くのアパートで、一人

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連載小説 魂の織りなす旅路#27/魂⑵

連載小説 魂の織りなす旅路#27/魂⑵

【魂⑵】

 清々しい空気を身に纏った妻は、いつも朗らかでおおらかだった。そんな妻が、なぜ陰鬱な性格の自分を選んだのか。老人は、妻と交わしたあの日の会話に沈潜した。

 「あなたは差異がとても小さいから、一緒にいて心地がいいの。」

 「差異が小さい?」

 「うん。言葉にするとしたら、脳と魂の差異ってところかな。魂だなんて変に思うでしょ。でもね、何かの宗教とかいうんじゃなくて、私はそう感じている

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連載小説 魂の織りなす旅路#49/暗闇⑶

連載小説 魂の織りなす旅路#49/暗闇⑶

【暗闇⑶】

 「はははっ、そうかぁ。不思議だよなぁ。お母さんは朗らかで清々しくて、とても魅力的な人だった。けれど、お父さんは寡黙というか、根暗というか・・・なぁ?」

 娘のクックックッと肩を震わせるような笑い声が聞こえてくる。

 「根暗ではないんじゃない? まぁ、寡黙かもしれないけれどねぇ。お母さんは差異が小さいお父さんと一緒にいるのが心地よかったのよ。」

 僕は言葉を失った。確かに妻は僕

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