連載小説 魂の織りなす旅路#20/差異⑴
【差異⑴】
誰もが差異を抱えて生きている。差異を抱えたまま人と繋がり、差異を抱えたまま己の人生を選択する。
私にとって、そうした差異から距離を置く時間はとても大切で、いつも穏やかで静かな場所を探している気がする。たとえば、この喫茶店のこの片隅の席。店内には穏やかな曲調のクラシックが抑えた音量で流れていて、空いているときは自分だけの時間に身を浸すことができる。
カランコロン。喫茶店のドアが開き、絨毯を敷き詰めた店内に、鐘の音がすうっと吸い込まれていく。黒髪を無造作に束ねた女性が、こちらに向かって歩いてきた。今は誰の差異も感じたくはない。こんなに空いているのだから、離れたブースへ行けばいいのに、あろうことか、その女性は隣の席にどさっと腰を下ろした。
私は小さくため息をつくと、ぬるくなったコーヒーをひと口すする。この女性の差異は一際大きい。このまま隣にいたのでは、ひどく疲れてしまうだろう。諦めて店を出るしかなさそうだ。
自らの差異に気づき、その差異を小さくしていける人は思いのほか少ない。ほとんどの人は歳を重ねるごとに、その差異を大きくしていく。
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