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旅と自由と選択と〜バックパッカーアジア旅行記〜
20年以上前の話になる。
働き始めて4年目。
忙しい職場。
不規則でストレスの多い仕事。
先輩達の職場に対する愚痴。
私は漠然とした不満を感じていて、仕事に慣れるにつれ、新しい環境を求めていた。
部署を移動したいと思ったが、私が求めるものはそこにはなく転職を決意した。
それと同時に、あることに気がついた。
「旅に出るなら今しかない。」
次の職場を決めてしまえば、長期休みはとれなくなる。
でも、転職前なら自由だ!
そう思うとワクワクした。
当時、半同棲状態の彼(今の夫)がいたが、離れることへの心配はなく迷うことはなかった。
旅に出る話をすると、周りに驚かれたり呆れられたりもしたけど、私は気にしない。
そんな長期休暇が取れる友達がいるわけもなく、私は一人旅を決めた。
特に不安や心配がなかったのは、若さゆえだろう。
しかし、両親にその話をすると心配して反対され、「誰かと一緒なら」という言葉を受け、旅仲間を探すことに。
今思えば、成人した自分が旅をするのに親の許可は必要ないと思うが、その時は親の気持ちを理解し、尊重した。
今のようにネットでの交流が盛んではない時代だが、旅仲間を募集するサイトを見つけることができた。
そしてそこで偶然にも、同じ時期にアジアに旅したいという同じ年の女の子を見つけたのだ。
私達は旅の前に一度だけ会って話し、行き先はタイ、ラオス、インドネシアに決定。
自由な安い旅で、初日の宿さえ取らずに出発した。
帰国日も分からない。
最低限の荷物を持ち、気分に合わせて町から町へ移動する。
いわゆるバックパッカーだ。
3ヶ月半の旅の間、異国の食べ物、文化、観光地、お寺、海、川、交通機関、全てが興味深く、新しい経験を重ねた。
一緒に旅をした子は予想以上に無口で私とは全く違うタイプだったけれど、毎日生活を共にする中で仲良くなっていった。
ゲストハウスで知り合った日本人の旅人はみんな自由で、好きなように旅している。
情報交換をしたり、旅について話し合ったりして、新たな価値観に触れるのが楽しい。
知り合った中国人と2週間くらい旅を共にしたりもした。
現地の人々との交流は特に楽しいものだ。
もちろん、お金を騙し取ろうとするような人達にもたくさん会ったけれど、その都度うまく乗り越えていった。
町の両替所で換金をしたとき、私達の目の前で1、2、3、と数えながらお札をめくっていくスタッフ。
10まで数えたはずなのに、私がその場で数え直してみると、9枚しかない。
足りないと主張して戻したけれど、次も、その次も同じ。
このマジシャンスタッフは、私が注意深く数え直す様子を見て、とうとう諦めて10枚渡してくれた。
そして一気に緊張がほどけた満面の笑顔で、「You win! (君の勝ちだ!)」と言ったのだ。
私は「I win! Thank you! (私の勝ちだね!ありがとう!)」と勝ちを噛みしめて笑った。
確認をしないお客さん達のお札を、日々ポケットマネーにしているんだなと思ったが、怒りよりもむしろ生き抜く力強さを感じた。
国が違えば常識も違うのだ。
私は、目の前でプロのマジックを見れたことに少し興奮し、楽しんでいた。
最後の3週間は友達と別れて、別々に一人旅を楽しんだ。
一人の方がより現地の人と知り合ったり、話したりする機会が増えて、それがまた楽しかった。
海辺のカフェで働く子と仲良くなり、カフェ前の海で一緒にシュノーケリングをした。
他に観光客もいない静かな場所で、誰もいない海を独占したようだった。
美しく、青く透き通った海の中で、色とりどりの魚達が泳ぐ。
私もその真ん中で一緒に泳ぐ。
自然と一体化したような、不思議な幸福感に包まれながら見たその光景を、私は一生忘れないだろう。
他にも、親しくなった現地の人達と一緒にご飯を食べに行ったり、家に泊まらせてもらったり、お葬式という名のお祭りに参加させてもらったりした。
民族衣装を着て楽しそうに踊ったり、ご馳走を食べたりする盛大なお祭りが、明るく死者を見送るお葬式だと知った時は驚いた。
そして旅の終わりには、夏休みをとった彼氏が合流することになった。
スマホのなかった時代。
町にあるインターネットカフェでパソコンを借りて連絡をとる。
待ち合わせ当日、トラブルにより彼を4時間も待たせてしまったことは、今でも思い出すたびに愚痴をこぼされる。
あの旅は、若かったからこそできた。
人生の中であんなに長い時間自由に旅ができる時は限られている。
あのとき、旅に出る選択をしたのは正解だったと思う。
旅を通して得られたこと、日本ではできなかった経験、出会わなかった人々、見られない景色、味わえない食べ物、それらの全てが自分の心の中に残り、今も根付いている。
私の人生の大切な思い出。
あの経験があるからこそ、今を楽しんでいる。
あの経験があるからこそ、前に進んでいけるのだ。
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