綾瀬なな

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【瑞木瑠衣SS-10】感情の名前

「すきだよ、白石」 ───その言葉を残して、彼は屋上へと来なくった。 白石玲央は彼のいない屋上で彼の残した言葉を反芻する。 その言葉の意味を求めるように。 彼は何で好きと言ったのだろう。 何を好きと言ったのだろう。 どうして、屋上に来てくれないのだろう。 そもそも、好きとはなんだろう。 名前としてなら勿論知っている。 好き、それは何かを好ましく思うこと。 演技が好きだとか、好きな食べ物や音楽だとか、そういう好きは理解出来る。 でも、これはきっと、それとは違う。

    • 【有栖川櫻子SS-8】 桜を守るは黒の番犬

      『所詮犬ですね 有栖川さんに犬は似合いません でも私の目にはなれる あなたは盲導犬です』 鷹臣はスマホに届いたメッセージを見る。 最後まで読んだ所で間を置かず、そのメッセージを消去した。 「誰に何と言われようが、俺のやるべきことは曲げるつもりはない」 スマホをポケットに仕舞い込み、陰に身を潜め目前の彼女を見る。 鷹臣が守るべき相手、命を賭す価値のある存在。 生涯を捧げるに値する主。 世界で唯一のただひとり。 その主、有栖川櫻子は長い金の御髪を靡かせ優雅に歩いている。

      • 【間宮ひまりSS-9】 揺蕩う思考

        「お疲れ様でしたー!」 アタシはカバンを肩に掛けて大きく手を振って店を後にする。 今の時刻は夕方4時を少し超えた頃。 今日は休日で、アタシは朝から喫茶店のバイトに入ってた。 個人経営で気のいいマスターがやってるお店。 休日ってだけあって割と忙しかったけど、賄いのサンドイッチがめちゃくちゃ美味しいから差し引きプラス。 シフトの融通もきくし客層もめちゃくちゃ良くて最高。 試作したから食べてみて、とお土産にクッキーまで持たせてくれた。 アタシはクッキーをつまみながらブラブラと商

        • 【間宮ひまりSS-8】 月の誘惑

          休日の黄昏時。 いつか見たあの影を追うように平田はあの日と同じ道を歩く。 あの時から、あの女性の姿が頭から離れない。 ひまりによく似た美人の女性。 ひまりに聞いても他人の空似じゃない?と言われ、あまりにしつこく聞きすぎたのか「余計な詮索はナンセンス!そんな男はモテないぞ!」とまで言われてしまった。 そんな平田だが、気になるものは気になる。 美人にまた会えるなら会いたいと思うのは、男としてそうおかしいことでもないだろう。 そんなこんなで平田は昼間からずっと同じ道を行ったり来た

        【瑞木瑠衣SS-10】感情の名前

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        • 黄昏学園/瑞木瑠衣
          11本
        • 黄昏学園/有栖川櫻子
          9本
        • 黄昏学園/間宮ひまり
          10本

        記事

          【瑞木瑠衣SS-9】 日常との決別

          修学旅行が終わった。 それは即ち、旅行という非日常から日常へと戻ることを意味する。 オレはいつものように屋上で筆をとる。 スカイツリーに浅草寺、ディズニーのパレードにシンデレラ城。 鮮明に、詳細に思い出される光景を1枚1枚紙に描いていく。 記憶を整理するように。 考えなくてはいけないことから目を逸らすように。 しかし、考えないようにとすればするほど考え込んでしまうのは仕方の無いことだろう。 筆を走らせる手をぴたりと止めて視線を落とす。 「それ、修学旅行の時のかい?」 白

          【瑞木瑠衣SS-9】 日常との決別

          【間宮ひまりSS-7.5】 #8'迷宮 sideひまり

          【探索開始】 From:間宮 ひまり なるほどな〜!これが迷宮ってワケね! 掲示板読みながらオカ研のとこ行ってみたんだけどこれって迷宮入ってんのかなー!? 体感なんも分かんないな〜! 迷宮がどうのとか?消すとか増やすとか?なんかよく分からん人とかなーんにも分からんけどま、いっか! とりまその辺歩いてみよ〜! ​─────── 【退避】 From:間宮 ひまり うわやば、鳥肌立ったんだけど あのクソ教師、ほら、生徒指導のアイツ!! バッタリ遭遇してげっ、って思ったらさ、

          【間宮ひまりSS-7.5】 #8'迷宮 sideひまり

          【間宮ひまりSS-7】 バナナフラペチーノ

          授業の終わりのチャイムが鳴る。 チャイムが鳴るや否や部活へ走って向かう人、バイトへ向かう人、しばらく席から立つ様子もなくただ無意味に駄弁っている人、思い思いに放課後を過ごしている。 今日は特に依頼も受けていない。 そのまま帰ろうと私は席を立つ。 「エーウち!あーそーぼー!」 「うわ」 目前にまるで通せんぼするかのように仁王立ちしているのは同じクラスの間宮ひまり。 私は彼女を見て顔を歪めた。 「わー!うわとか言った!アタシ傷付きました〜!」 そう言い彼女は大袈裟によよ

          【間宮ひまりSS-7】 バナナフラペチーノ

          【間宮ひまりSS-6】 放課後のひととき

          「じーーー」 平田は目の前の少女を穴があくくらいじっと見つめる。 「ん?どうしたのー?そんなにジロジロ見て」 「まさか変なコト考えてる!?きゃー!エッチ〜!」 見つめられた少女──間宮ひまりは胸の前で手を組んで、わざとらしくそっぽを向いた。 ここは解決部の待合室。 厳密には解決部でない平田とあまり解決部に熱心というわけでもないひまりの2人が揃うのは珍しいことだった。 「あはは!ゴメンゴメン、やっぱ似てんなー!って思ってさ」 平田は全く謝意の無さそうな顔で笑う。 そ

          【間宮ひまりSS-6】 放課後のひととき

          【瑞木瑠衣SS-8】 未来の選択

          「勿論、学歴も大事かもしれない。」 「けれども、私はそれが全てだとは思わない。 君の絵を一目見て思ったんだ。君は類稀な才を持っている人だと。」 「そういった人は得てして社会に馴染み辛さを感じるものだ。」 「現に、今の状況を聞いてより一層そう思った。 無理に学校に通う必要はないんだ。」 「良ければ、東京に来ないか?」 「君の才能を社会への適応の為に燻らせてしまうのは勿体ない。 一日でも早く、その才を磨いてみないか?」 ​─────── お花見大会で我龍院先生に声を掛けら

          【瑞木瑠衣SS-8】 未来の選択

          【間宮ひまりSS-5】 恋焦がれ、夢覚める

          「おはよう、誕生日おめでとうひまり」 最高の目覚めでアタシは誕生日の朝を迎える。 大好きなお姉ちゃんに、1番に祝ってもらえた。 「おはよう!ありがとうお姉ちゃん!」 アタシは向かいのベッドに座るお姉ちゃんにがばっと抱きつきにいく。 「ふふ、ひまりは朝から元気だね」 「アタシは元気が取り柄だからね!」 微笑むお姉ちゃんにつられてアタシも笑みが零れる。 お姉ちゃんが楽しいとアタシも楽しい。 お姉ちゃんが嬉しいとアタシも嬉しい。 今日は最高の一日になりそう! ​───

          【間宮ひまりSS-5】 恋焦がれ、夢覚める

          【間宮ひまりSS-4】 休息のひととき

          ちょきちょき、ちょきちょき 新聞とにらめっこして、切ってはノートに貼り付けて、蛍光マーカーで線を引いてを繰り返してく。 一人暮らしした先で新聞を取りたい、と言ったらひまりがそんな事を言う日が来るなんて……!とパパは感激して、二つ返事でオーケーしてくれた。 アタシもまさか自分で新聞を取ろうと思う日が来るとは思わなかった。 実家でも最近までは全く見向きもしなかったし、習字の授業か文化祭の時に使った記憶くらいしかない。 「んん……さすがに頭痛くなってきた」 しばらくスクラップブ

          【間宮ひまりSS-4】 休息のひととき

          【有栖川櫻子SS-7】 とある新聞部の航行

          飛行機の機内においても私は新聞部として活動する。 新聞部たるもの、学内の出来事には常にアンテナを張っておくべき、というのは私の持論だ。 だから今注目の的となっている解決部の掲示板にも目を通す。 その最中、後輩……恐らく、後輩の卜部の投稿を見て私は手を止めた。 そして隣の席に座っている志帆の顔をじっと見る。 彼女は手元の有栖川櫻子の写真を整理していた手を止めて顔に疑問符を浮かべたような顔をした。 「アンタ、卜部のこと焚き付けたでしょ」 「何の事でしょうか?」 とても白々しい

          【有栖川櫻子SS-7】 とある新聞部の航行

          【間宮ひまりSS-3】 向日葵の面影

          とある日の休日。 平田は「暇だなー」とふらりと家を出た。 コンビニに寄ってコーラとポテチを買い、女の子に連絡してカラオケでも行こうかと思いついてスマホを手に持ちLIMEでメッセージを送りながら歩く。 ふと前を見ると、長髪の赤毛を靡かせて歓楽街の方へと歩いていく女性の後ろ姿を見つけた。 あの赤毛には見覚えがある。 平田はそれを見るや否や、その女性の近くまで駆けた。 「ひーまーりーちゃん!」 顔を覗き込むように笑顔で声を掛ける。 「奇遇じゃん!これから遊びに行くとこ?」

          【間宮ひまりSS-3】 向日葵の面影

          【瑞木瑠衣SS-7】 お花見大会にて

          暖かな日差しに包まれ、ふぁ、と欠伸をひとつする。 オレはパイプ椅子の背もたれにもたれかかり、大きく伸びをした。 今日は箱猫市老人会主催のお花見大会の日。 老人会と言いながらも、地域のイベントらしく地元の子供達もいて幅広い年代の人達が訪れている印象がある。 幸運なことに天気にも恵まれ、桜は満開に咲き誇っている。 周囲には様々な出店が並んでいる。 りんご飴にベビーカステラ、チョコバナナ。 甘い香りが鼻腔をくすぐる。 後で頃合を見て買いに行くか、と思った矢先に「すみません」と声を

          【瑞木瑠衣SS-7】 お花見大会にて

          【間宮ひまりSS-2】 タカラモノ

          「本当にありがとうございましたっと、送信!」 掲示板にぽん、と今打ったメッセージが出る。 「えへ、良かった」 アタシはペンダントを軽く撫でた。 あのクソ教師に雑に扱われたけど、チェーンは切れてないし傷も付いてない。 箱猫に来て早々無くしちゃうなんてサイアクって思ったけど、優しい先輩達のおかげで戻ってきてくれて良かった。 かなめっち先輩の言う通り、ジャージに突っ込んだせいで無くしちゃったなら持ち歩かない方がいいのかも。 それでも、手元に置いときたい。 そう思うのは、別に

          【間宮ひまりSS-2】 タカラモノ

          【有栖川櫻子SS-6】 とある新聞部の日常

          「満開の 桜に勝る 櫻子様」 「ん〜微妙じゃない?」 「ショックです!でも確かに櫻子様の美を表現し切れてないのも事実……!」 ここは新聞部の部室。 新聞部では定期的に黄昏新聞と称して校内新聞を発行している。 その内容は学内のイベント事だとか、生徒や教師のゴシップだとかが主となる。 のだが、最近……いやここ数年の黄昏新聞の様相は変わっている。 「ねぇ、前々から言おうと思ってたんだけど」 「ん?なんですか?」 「黄昏新聞というより有栖川櫻子新聞じゃない?」 「元々そのつも

          【有栖川櫻子SS-6】 とある新聞部の日常