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【間宮ひまりSS-11】 太陽の裏

『───月海はね、アタシのお姉ちゃん』

ずっと気になっていた女性についてひまりに聞いて1週間が経った。

「こちらが、月海さんの調査結果です」

平田は四月一日探偵事務所に行っていた。

「(ダメって言われれば言われる程気になっちゃうってもんだもんね!)」

壮年の男性の探偵から差し出される資料を受け取る。

先輩から聞いた月海は死んでいるという事実。
それと相反するように存在するガルバ店員の月海。
陽キャ故か、平田故か、その場の並外れた行動力で平田はその話のすぐ後に探偵事務所へと向かい調査を依頼した。

「では、内容をご説明しますね」
「間宮 月海さん、昨年まで箱猫大学に在学していた女性です」

「去年の夏、ここ箱猫で強姦殺人事件に遭い亡くなられています」
「……殺人」
「はい、犯人は不明で捜査は難渋しているそうです」

殺された、ただ亡くなった訳でなく。
ひまりの心情を想い、胸が締め付けられるような心地になる。

「その後、ガールズバーKitty Palaceに今年の3月に月海という名の女性が入店」
「資料の間宮 月海と見目はほぼ一致していますが、状況から見るに別人と言って差し支えないでしょう」

「この短期間で調べられたのはこれで以上となります」

これ以上の調査には追加料金が掛かると、言外に言う。
流石に海の家バイト前で財布の中身が潤っていると言えない平田はここまでの調査料金を払い、事務所を後にした。

手に持った調査資料にじっと目線を落とす。
軽い気持ちで踏み込んだ事情。
けれども、知ってしまった以上そのままにしておく訳にはいかない。

「(イケてる男なら気の利いた言葉の1つや2つ、言ってやるっきゃないっしょ!)」

平田は紙の束を強く握って駆け出した。

​───────

体育館内にバッシュの擦れる音とボールの跳ねる音が響く。
赤い髪を靡かせて少女は真っ直ぐバスケットゴールへと向かう。
ドリブルをして、相手方の間をするするとすり抜ける。
ゴールの前で軽く跳躍し、ボールは吸い込まれるようにゴールへと入っていった。

「ナイスひまりー!!」
「いぇーい!」

仲間達とハイタッチしているひまり。

「お疲れひまりちゃん!」

平田はひまりの傍へと歩いていく。
ひまりはその顔を見るといつも通りの笑顔で手を振り言葉を返した。

「おっ、パイセンじゃーんお疲れ!どしたの?」
「ちょっとさ、話したいことあるんだよね!」

ひまりは少し顔を歪めるが、すぐになんてことのないように「いいよー!着替えてくるね!」と答えた。

───空き教室にて。

平田はスマホを触りながらひまりを待つ。
ガラリと扉が開く音がし、平田はそちらを向いた。

「お待たせパイセンー!わざわざこんなとこに呼び出すなんて大事な用?」
「そそ!ちょっとさ、月海ちゃんのことあれから他の人に聞いたんだ」
「なっ…………!?」
「大変だったんだね、若くして殺されて……ひまりちゃんも、お姉ちゃんも辛かっただろうね……」

平田は肩に手を置こうと手を伸ばす。

「──にが、」

「え?」

ひまりの声色から温度が消える。
伸ばした手はぱしんと叩き落とされる。

「アンタに、何が分かるの!?」

ひまりの両腕が平田の首へと伸ばされ、そのままその首を締め付ける。

「分かったような口きかないでよ!ていうかアタシ、もう追求すんなって言ったよねぇ!?何勝手に調べてんの!?」
「まっ、て、俺は」

ぎりぎりと細指が指を締め付けて食い込む。

「お姉ちゃんの気持ちなんて、アタシにも分かんないのに、想像することしか出来ないのに!」
「きっと、凄く痛かったし、苦しかっただろうな」
「アンタみたいな、女を食い散らかすのに何とも思わないような奴のせいで!!」

「お姉ちゃんから未来を奪った奴を、尊厳を踏みにじった奴を、アタシは許さない……!!たとえ、道連れになってでもアタシはそいつを……!!」

「ひま、りちゃん……」

平田の名を呼ぶ声に、ひまりははっとしたように目を見開く。

言うべきでないことを言ってしまった、誤って怒りで我を忘れてしまったというように。

首を締めていた指をぱっと離す。

平田の気道に空気が入り込み、息が出来るようになる。
平田は軽くゴホゴホと咳をして息を整えた。

「ごめん、忘れて」

今の今まで首を絞められていた相手。
先の怒りはどこか、泣いているようにも見えて、平田は彼女に笑いかけた。

「うんうん、辛かったね」
「俺に当たって楽になれるならいつでも当たっていいよ〜」

そう言い、手を差し出す。

「……は?頭おかしいんじゃないの?」

ひまりはその手を払い除ける。

「今言ったこと全部忘れて。
誰かに言いふらしでもしたら、殺すから」

そう言い捨てるや否や、ひまりはその場を足早に立ち去っていった。

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