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芸術と手仕事の交差点

栃木県 益子の街を歩いた。

益子では、9月の新月の日から満月の日まで、「土祭(ひじさい)」というお祭りが3年に一度ある。今年が4回目の開催だ。

広い益子の街とその周辺で、要所にアート作品が置かれ、また益子の根源ともいえる「土」をテーマにしたイベントが断続的に開催されている。

アートで街おこし、はよくある話だけど、この地にはきちんとした素地があり、単なる突発的なイベントではないということをひしひしと感じる。

たとえば、昨日見つけた藍染の工房。

大通りを歩いていたら、いきなり現れた大きな茅葺き屋根の民家。
「日下田邸」という石碑を過ぎて、中に入るとこんなふうになっていた。

ここは益子に唯一残る紺屋さんで、始まってから200年以上にわたり、手法も変えずに藍染をしている、とのこと。

あまりに整然としていて、明るくて、自然で、思わず「わぁ」という声を上げてしまった。
上がりに掘られた甕のようなところで、染料に漬けるのだろうと推察。

その景色はただあるだけでなく、ずっと前からここで働いてきた人たちの、似たような背中の数々を思い起こさせた。 

きっとその幻影は永遠ではなく、いつかは藍染もこの立派な建物もなくなるかもしれない。
でもこの時代でも残っている、無理をしない自然体な空間が、益子の人々のメンタリティを表しているような気がしてならない。
だから私は、あの空気を味わうことができてよかった。


写真をもう一枚。
こちらは、夜に泊まったリノベーションホテルの一角を撮ったもの。
廃校になった小学校を、支配人の男性がところどころ手を加えて旅行者が泊まれるようにしている。
小学校の教室部分はそのまま残されており、宿泊者は自由に見て回れる。泊まれるのは、校長室かなにかを改修した別棟の部屋だ。

支配人さんの話はインパクトがあった。
プール付きの小学校を手に入れて、宿泊者を楽しませられる施設を作るって、ただものじゃない。(校庭で、キャンプやグランピングもできる)
聞いたところでは建築の専門家だったそう。
ああ、大学の授業って、そういう人にとっては本当に実になるのだなあと、思った。


ここ、益子では、古くからの伝統が残され、継承されると同時に、新しいものがものすごく自然に入り込んでいる、そんな印象を受けた。

伝統はしばしばイノベーションの阻害要因になるけれど、こと文化においてはこのような融和、共存もできるのだ。
新しいものも、決して伝統をごりごりと削って入り込むのではなく、あくまで伝統には伝統の形をキープさせたまま、一つの意見として存在している。

それは、昔から益子が様々な陶芸家を引き寄せつつ「益子焼き」というブランドを損なうことなく現代まで生きてきたという、土地の性質もあるのかもしれない。

「土」がテーマだからか、土祭の展示も、旧い建物を残して作られているものや かつて使われていた(?)陶器の破片を利用したものもあった。

無理をして、新しいものや人を寄せ付けない芸術によって町おこしをするのではなく、益子の人たちが育ててきた寛容をそのまま具現化したような作品を発生させる。この試みが今後も続いてほしいと思う。


ただ、土祭がなくても、この土地は十分に魅力的だ。
今度は、紅葉の季節に来てもいいなあと、思う。

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漆畑美佳
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