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黄昏学園/瑞木瑠衣

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記事一覧

【瑞木瑠衣SS-10】感情の名前

【瑞木瑠衣SS-10】感情の名前

「すきだよ、白石」

───その言葉を残して、彼は屋上へと来なくった。

白石玲央は彼のいない屋上で彼の残した言葉を反芻する。
その言葉の意味を求めるように。

彼は何で好きと言ったのだろう。
何を好きと言ったのだろう。
どうして、屋上に来てくれないのだろう。

そもそも、好きとはなんだろう。
名前としてなら勿論知っている。

好き、それは何かを好ましく思うこと。

演技が好きだとか、好きな食べ物

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【瑞木瑠衣SS-9】 日常との決別

【瑞木瑠衣SS-9】 日常との決別

修学旅行が終わった。
それは即ち、旅行という非日常から日常へと戻ることを意味する。

オレはいつものように屋上で筆をとる。
スカイツリーに浅草寺、ディズニーのパレードにシンデレラ城。
鮮明に、詳細に思い出される光景を1枚1枚紙に描いていく。
記憶を整理するように。
考えなくてはいけないことから目を逸らすように。
しかし、考えないようにとすればするほど考え込んでしまうのは仕方の無いことだろう。
筆を

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【瑞木瑠衣SS-8】 未来の選択

【瑞木瑠衣SS-8】 未来の選択

「勿論、学歴も大事かもしれない。」
「けれども、私はそれが全てだとは思わない。
君の絵を一目見て思ったんだ。君は類稀な才を持っている人だと。」

「そういった人は得てして社会に馴染み辛さを感じるものだ。」
「現に、今の状況を聞いてより一層そう思った。
無理に学校に通う必要はないんだ。」

「良ければ、東京に来ないか?」
「君の才能を社会への適応の為に燻らせてしまうのは勿体ない。
一日でも早く、その

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【瑞木瑠衣SS-7】 お花見大会にて

【瑞木瑠衣SS-7】 お花見大会にて

暖かな日差しに包まれ、ふぁ、と欠伸をひとつする。
オレはパイプ椅子の背もたれにもたれかかり、大きく伸びをした。

今日は箱猫市老人会主催のお花見大会の日。
老人会と言いながらも、地域のイベントらしく地元の子供達もいて幅広い年代の人達が訪れている印象がある。
幸運なことに天気にも恵まれ、桜は満開に咲き誇っている。
周囲には様々な出店が並んでいる。
りんご飴にベビーカステラ、チョコバナナ。
甘い香りが

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【瑞木瑠衣SS-6】 春の足音

【瑞木瑠衣SS-6】 春の足音

ピンポーン、とチャイムの音が鳴る。

「今日の担当はアタシだぜ」

ドアを開けると軽く欠伸をして織田が玄関前に立っていた。

「おう、わざわざサンキュ」

珍しく朝ちゃんと起きて準備していたオレはそのまま家を出る。
いや、最近ではそう珍しくないのかもしれない。
連日解決部や生徒会のメンバーが来てくれるお陰で朝少し起きれるようになってきた。
常に、ということは無いがこうして朝迎えに来る前に準備を終わ

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【瑞木瑠衣SS-5】 春の嵐

【瑞木瑠衣SS-5】 春の嵐

無機質なインターホンの音で目が覚める。
階段を駆け下り、モニター横のボタンを押す。

「おはよう、瑠衣くん!今日の担当は僕だよ」

モニターに映るのは白石の姿。
朝早いというのに眠気を感じさせない、いつも通りの爽やかな笑顔。

「おはよ、準備するから5分待ってくれ」
「ふふ、いくらでも待つとも!」

白石の返事を聞き、インターホンの接続を切る。

オレは冷たい水で顔を洗い、食卓の食パンを口に詰め込

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【瑞木瑠衣SS-4.5】 #6'迷宮 side瑠衣

【瑞木瑠衣SS-4.5】 #6'迷宮 side瑠衣

【依頼】
依頼人:一ノ瀬 濫觴
 
 耳が早い人なら既に聞いていることだろう。再開発地区の集団失踪事件は迷宮の仕業だ。
 これまでにない巨大な迷宮だ。入り口など気にする必要がないほどにね。再開発地区を歩いていれば、迷い込めるだろう。
 このまま拡大すれば私たちの世界は迷宮と取って代わられる。それだけはなんとかして避けなくてはならない。
 
 迷宮内では『幸せな日々が繰り返している』。1日がループし

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【瑞木瑠衣SS-4】 “普通”の仮面

【瑞木瑠衣SS-4】 “普通”の仮面

瑞木瑠衣は天才だった。

生まれた時から見聞きした全てを記憶する能力を持っていた。
故に、周囲の人とは見ている世界はまるで異なっていた。

「僕は、みんながなんで分からないのか分からない」

本当に、心底理解出来ないと。
何故皆は1度見たことをすぐ忘れてしまうのだろう。
授業での質問に間違えた子に「わざと?」と聞き、その子に泣かれてしまったこともあった。

それでも、瑠衣には何故その子が泣いたのか

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【瑞木瑠衣SS-3】 How to date

【瑞木瑠衣SS-3】 How to date

待ち合わせの時間は午前10時
朝日が上り始めた時間、オレは待ち合わせ場所に立っていた。

───先日の話。
オレは成り行きで白石と2人で映画に行くことになった。
その当初はダチと2人で出かけることに対する不安を持っていた。
オレは自分でも浮いてるんじゃないかって自覚があるし、人付き合いはあんま上手い方じゃねぇから。
帰って風呂に入って考えて……ふと、気付いてしまった。

これっていわゆるデートなん

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【瑞木瑠衣SS-2】 クリスマスパーティーのその後で

【瑞木瑠衣SS-2】 クリスマスパーティーのその後で

「───これ、どうすっかな……」

屋上の寒空の下、オレは手元の封筒に目を落とした。

先日、有栖川のお嬢様の家でクリスマスパーティーに参加した。
オレのプレゼントが有栖川んとこに回ったのを知った時はめちゃくちゃヒヤヒヤしたけど、お気に召したようで何よりだ。
卜部にプレゼントを渡してから、もっと無難なの選んだ方が良かったんじゃねぇかって思ったけど、有栖川に当たるんならちょっと奇を衒った方が丁度いい

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【瑞木瑠衣SS-1】 瑞木瑠衣の日常

【瑞木瑠衣SS-1】 瑞木瑠衣の日常

昏い、昏い部屋の中で重たい瞼を上げる。

枕元の時計の針は丁度11時を指している。

「……行くか」

怠い身体に鞭打つように布団を蹴飛ばし起き上がる。
無造作にはねた髪を軽く撫で、散らかった部屋から鞄を引っ張り出し、スケッチブックと鉛筆だけを放り込み、部屋を出る。

扉を開けた先、窓から痛いくらいに光が差し込んできた。
眩しい、眩しすぎる。
光を避けるようにパーカーのフードを目深に被る。
前もマ

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