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【間宮ひまりSS-9】 揺蕩う思考

「お疲れ様でしたー!」

アタシはカバンを肩に掛けて大きく手を振って店を後にする。

今の時刻は夕方4時を少し超えた頃。
今日は休日で、アタシは朝から喫茶店のバイトに入ってた。
個人経営で気のいいマスターがやってるお店。
休日ってだけあって割と忙しかったけど、賄いのサンドイッチがめちゃくちゃ美味しいから差し引きプラス。
シフトの融通もきくし客層もめちゃくちゃ良くて最高。
試作したから食べてみて、とお土産にクッキーまで持たせてくれた。
アタシはクッキーをつまみながらブラブラと商店街の中を歩く。

ふと、通りにあるペットショップに目に止まった。
いつもはさしてアタシは興味の無い場所。
だけども今日は何故か入ってみようかな、と気が乗り扉を潜る。

入ってすぐの手前の方には人気どころの猫ちゃんやワンちゃんがケージの中におさまって思い思いに過ごしていた。
ケージの中の子達を軽く見て、ふと奥の方に目をやる。
水槽が所狭しと並んでいる場所。
アタシはまるで吸い寄せられるように水槽コーナーへと向かった。

「あ!金魚!」

アタシは金魚の水槽の前まで来るとぴたりと足を止めた。
金魚。今それを見て思い出されるのはやっぱりれんぴょんの依頼のこと。

「ピンク、なんとかって言ってたよね〜あ、これかな?」

ピンポンパールと書かれた札の付いた水槽を覗き込む。
白い金魚が何匹もゆらゆら、ゆらゆらと泳いでいる。

アタシがバカやりながら未解決を増やしていく中、えのもっちはなんか賢そうな感じに推理して真相を突き止めてた。

えのもっちが真犯人を突きつけた後、れんぴょんが語った真実。この依頼の顛末、れんぴょんの本当の目的を思い出す。
あえて未解決を作り出し、迷宮を作り出す。
そしてその中にいるかもしれない探し人を探すという。

なるほど、そういうのもアリなんだって。

その書き込みを見た時、アタシは思った。
ま、会長ちゃんはあれめちゃくちゃキレてたし、先輩らはめちゃくちゃ焦ってたけど。
れんぴょんがこれからどうするか分かんないけど、見つかるといいよね!
れんぴょんのことアタシ何も知らないけど、会いたい人に会えないことってめちゃくちゃツラいもんね。

会いたい人。ふと、アタシの探し人に思いを馳せる。
ありとあらゆる手を使っているけど、探し人はなかなか見つかる気配はない。
色々してること全部遠回りかもしれないけれど、手掛かりがまるでないから仕方ない。
ちょっぴり難航してるけど、任せ切りにするよりは進んでるはずと信じながら探してる。

どんなに探しても見つからないなら迷宮にいるかもしれない、確かにかなりある。
けれども、アタシは迷宮にいる人のこと、アタシらとは違うんだって思ってるから、同じ目的では使わないんだろうなとも思う。

初めて入った迷宮。全てが友達の世界。
友達っていう誰が決めたか分かんないカテゴリーに無理やり押し込められたような人しかいない場所。
なんだろう、あの迷宮はちょっと雑っていうか。
ちゃんとした願いがないからかな?
いる人皆薄っぺらくて。アタシを追っ掛けて来た人くらいしか人間味ある人がいなかった。
別にそれじゃ意味無いじゃん?
どうせ作るならもっとどデカい奇跡でも叶えてくれた方が面白いのに。

そうだな、アタシならどうするかな。
折角作るのに計画段階で止められなんてしたら嫌だもん、うんと遠くて、それでいて関係のあるとこじゃないといけないよね。
何も、掲示板って形にこだわらなくてもいけるはずだし?
きっとアタシなら作るのもそう難しくは無いし。

迷宮を広げて、自分だけの理想の世界を作る。
上手くいくならそれってすっごく最高かも。
広げて、広げて、どんどん広くすることが出来たなら、アタシの願いを叶えることが出来る。

ああ、でも今はまだその時じゃないかな。
正直あまり実感湧かなさそうだし、奥の手くらいにしとくべきかも。
ちはやんも最近冗談言って会長ちゃんに怒られてたしね。
危険思想だー!とかで怒られちゃったら最悪だし。
誰にも何も言わず、アタシはいつも通りバカやってればいい。
そしたら周りはアタシのこと、いつものひまりとして見てくれるから。

目の前で、変わらず金魚ちゃん達はゆらゆらと揺れている。

「またね、金魚ちゃん!」

アタシは金魚ちゃんに軽く手を振る。
ゆらゆら、ゆらゆらと金魚ちゃん達はただ揺れていた。

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