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第16話 ジャンプ

時は遡ること13年前。
2010年4月。中学1年生の頃。
テニス部の体験入部を終え、一人帰路につく。

駅の改札をくぐり、腹が減った僕は、駅のホームにあるセブンイレブンへ向かう。
当時、僕の大好物だったハムとチーズのブリトーを求めて。

店に着くと、ラケットバッグを背負った同じ制服の生徒がいた。
今日、体験入部に来ていた奴だった。


「あれ?ジャンプあらへんの?ここジャンプあらへんの???」
店員も客もいない店内で、一人デカい声で喋っていた。

僕は思った。
「あ、絶対へんなヤツだ。」


しばらくして、僕は正式なテニス部員となった。
メンツを見てみると、ジャンプあらへんの男がいた。
彼の名前はノダ。1年1組の人間だった。

僕の代の部員はほとんど1組の人間で
すでにコミュニティが出来上がっており、3組の僕にとってかなりアウェイだった。


部活を終えた帰り、僕はノダに話しかける。

「一緒に、か、、帰らへん?」

当時、人との距離の詰め方を全く心得ていない僕は
「関西弁には関西弁を使えば、仲間意識を持ってもらえるのではないか。」
そう思い、渾身の似非関西弁を披露する。


「おめえ馬鹿にしてんのか。馴れ馴れしく話しかけんな。」

結果、作戦は失敗した。
ノダのみならず1組の人間全員が敵に回った。
皮肉にも、「俺か、俺以外か」という構図が出来あがった。
(某ホストの帝王もこんなつもりで言ってはいないだろう。)


「なんだよ。せっかく親睦を深めてやろうと思ったのに。嫌なヤツ。」


それから部活動中、小競り合いをする場面が多々あった。
そしてその度に、1組の他の連中が腐してくるというお決まりのパターンだった。

ただ、そのやりとりは
「こいつを虐めてやろう」という敵意の込められたものではなく
ドライないじりに過ぎなかったため、正直そこまで悪い気はしなかった。


基本は鼻つまみ者の僕だが、部活後は一緒に帰ることが許された。
汗臭いシャツで電車の席に座り、漫画やゲームの話に花を咲かせる。
そして次々と仲間が下りていく。

残ったのは、ノダと僕のみ。
嫌でも会話をすることになる。


二人きりになるや否や、ノダはジャンプを読み始める。
近視のくせに眼鏡を外し、顔面をページにピッタリくっつけ
ワンピースを読む。

「目悪いのはわかるけど、それ読めてるの?」

「今読んでんだから邪魔すんな。」

てっきり無視されると思っていた僕は、確かな手応えを感じた。


ひょっとしたら、仲良くなれるかも。


可能性を感じた僕は、その後も帰りが一緒になるたびに
話しかける。

「ワンピースって面白いの?」
「他なんの漫画読んでるの?」
「その近さで読めてるの?」


そんな絡みを続け、気付けば中学3年。
互いに相手を腐しながらも、なんだかんだ喋るような関係になった。

クラスの「闇属性」陽キャであるTを中心とする全員に虐められている時も
ノダは以前と変わらず相手をしてくれた。

Tとも仲が良かったノダは、立場上僕を庇うことは一切なかったが
それでも僕の存在を認知してくれる人間がいるだけで幾分救いになった。


さらに時は経ち、高3秋。僕が学校へ行けなくなった日。
「俺のせいで不登校になったわけじゃねえよな?面倒臭えな。」
闇属性どもが責任転嫁を繰り広げる中、ただ一人心配してくれている"らしい"人物がいた。

それがあの日に昼食を一緒に食べていた仲間、ノダである。


不登校中、部活仲間からLINEが来る。
「ノダが心配してたぞ。」

あの日、僕がNの毒霧を食らったとき
横にいて嗤っていたことが原因で
学校に来れなくなったのではないか。
悪気なく虐めに加担してしまった自分のせいではないのか。

そう思っていたらしい。


ノダは毒霧事件以外にも、僕が「飛べよ」と輩に囲まれている時も
それを見て嗤っている一人だった。

ただ、嗤っていた連中の中に
自責の念を抱いた者が彼以外にもいただろうか。
少なくとも、僕はいなかったのではないかと思う。

「お前のせいじゃないよ。気にかけてくれてありがとう。」




高校卒業後、何度か会ううちに僕とノダは「友達」になった。
もしかしたら所謂「親友」と呼べるくらいの間柄かもしれない。
(ノダがどう思っているかは知らないが、少なくとも僕はそう思っている。)


各駅停車しか乗れない僕に文句ひとつ言わず、色々なところに
一緒に遊びに行ってくれた。
発作が起き途中下車した時も、ホームのベンチでずっと雑談をしてくれていた。

今でも中学の頃のように、互いを腐す姿勢は変わっていないが
こいつといると楽しい。
自分が病気であることを忘れ、自然と心から笑える。


鼻つまみ者の似非関西弁野郎だった俺を
仲良くしてくれてありがとう。
こんな訳アリ人間の俺と関わってくれてありがとう。





俺もこれから頑張るから、お前も強く生きてくれ。









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