見出し画像

ブドウの新たな栽培管理法(副梢果房栽培)

今回はブドウの生理学だ。

先日職場の方から新しい論文の話を伺った。

「副梢を利用するブドウ成熟時期のコントロール」

これはおもしろい。

主枝を開花期の前に剪定し、そのまま開花前の蕾も落とすことで副梢の成長を促し、そこには一か月ずれ込んだ蕾ができ、最終的な実も一か月ほど遅れて収穫できるというものだ。

これがなぜ面白い論文なのかということが分かるように説明していく。


・主枝と副梢

まず基本的な生理学について。
ブドウには主枝(4番)と副梢(5番)がある。

画像1

ブドウはツル科の植物で基本的に縦横無尽にとにかく伸びて光を求めに行くような植物だ。
それを栽培では利用し、コントロールして仕立てという形で扱っている。

そこで出てくるのが主枝だ。これは冬を越えた芽(3番)から出てくるもので、これも1次的な主枝と2次的な主枝がある。

どちらも同じ芽の中にあるのだが1番目の主枝が出てきたときは2番目の主枝は出てこないように抑制され、なんらかの理由で1番目の主枝が現れなかった場合に2番目の方が芽から顔を出すという仕組みになっている。
なんらかの理由というのは主に冬の凍死と春先の霜害を指す。
霜害の場合は一度、1次主枝が芽を出すのだが、その後すぐに枯死するので、副次的に次の芽が発芽する。

下の図は芽の断面を示しているのだが、この図であれば真ん中が一番目の主枝を作る芽で両サイドに2番目と3番目があるような状態だ。

画像2


そして1番目の芽から出る1次主枝のほうが実の付きがいいが、一方で冬の低温や芽の生育期(発芽の前年の春から夏)の天候に行く末を左右されやすい。

少しわかりにくいと思うので補足しておうが、この場合の芽の生育期というのは芽の内部の生育期である。
芽は前年の段階で既に大方の形が決まっていると言われている。
特に節(node)の数や房の数がそれにあたる。
そのため前年の環境によって房の数は左右されやすいのである。

一方で、2次の方は冬の低温には強いがあまり実をつけないので、目指す葉と実の量のバランス次第では発芽してすぐに摘み取られることもある。

そのあたりのことは栽培管理に関する記事で扱っているのでこちらを参照してほしい。


それはさておき主枝と副梢の話だ。

副梢は主枝から出ている茎といった感じだろうか。これは節の部分から出ていて、葉や巻きひげ及び将来実になる花序(6番)といったものと同じ辺りから伸びてくる。

しかし本来副梢というのは主枝の先部分からくるホルモンで成長が抑制されている。

先端から来るホルモンによって調節されているので、先端に近いほうが副梢は伸びにくく、根の方に近づくにつれて伸びやすくなっているという構造だ。

そしてその主枝の先端のホルモンを制御している部分を落とし、副梢からの成長を促し、それによって全体の成長の時期を調節するというのがこの研究の主な結果となっている。


・研究の意義

先にも述べたように、結果的に成熟期が遅れるというのが研究の目的でもあり第一の成果でもある。

というのも一度花序ができてから一旦それを切除して、そこから副梢の成長を待つので、単純に開花時期もブドウの成熟時期もその成長分ずれ込むということだ。その成長分は約1月分になると言われている。

これは繁忙期の分散、成熟期の秋雨を避ける、高温を避けるといった課題の解決につながる。

そしてさらに副梢は本来成長することのないはずの部分なので、予定されている花序が主枝に付くほどの量が見込めないということがある。

これは一見マイナス要因のようにも見えるが、日本のブドウ畑の実情を考えると実に理にかなっている。

というのも日本のブドウ畑は基本的に収量過多の問題をはらんでいるので、収量を自然に減らせるというのはメリットになりうるのだ。

少しだけ収量過多の問題に触れておくと、これは日本の棚仕立てという栽培方法や契約農家との契約方法などによって引き起こされている。
簡単な例を挙げると、質より量で売却高が上がれば収量を増やして質を落とすのが農家にとっては最適な戦略になるからである。

さらに言うと、それによって摘房や傘掛けといった他の作業も減るので、全体として本当にいい試みだと思う。

さらに本来の収量制限の目的でもある色づき、ポリフェノール含量、糖度などの項目も軒並み試験区より高いレベルを示しているので、この手法は取り入れる価値のあるものだと思う(色づき問題は下の記事に)。


同様に白ワイン品種であるリースリングでは香気成分の元となるTerpen類の化合物の含量が多いということもわかっているので、白ワイン品種にも使える技術となっていくことと思う。

・利用とこれから


気候変動がブドウ木の植え替えのスパンより圧倒的な速度感で起こっているので、品種、クローン、台木といったものを選択していくより直接的な解決方法としてこれからフォーカスされていく技術だと思う。

というのもフランスを含みワインの伝統的な国でさえ今は様々な気候変動にあたふたしている状態なので、こういったブドウ栽培が困難な地域の技術は確実に将来逆輸出されていくことと思う。
その中でこの研究の果たす役割は決して小さくないものだと思う。

日本でも現在山梨から長野、北海道へと涼しいところへと産地が変化していく中で、山梨はこういった技術を導入していくことで産地としてのプライドと底力を見せてほしい。


なにか質問等あればコメントもしくはLINE@(ID:twr5274n)にてお待ちしております。


これからもワインに関する記事をuploadしていきます! 面白かったよという方はぜひサポートしていただけると励みになりますのでよろしくお願いします。