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【観劇レポ】 ロンドン『Moulin Rouge!』

まもなく帝劇で開幕する『Moulin Rouge!』。
一足お先にロンドンで観劇💃


劇場:Moulin Rouge の世界観の再現

Moulin Rouge は、パリにある130年超の歴史を持つキャバレーの名前です。
フランス語で「赤い風車」を意味するそうですが、その名の通り、赤を基調とした装飾と建物上部の風車が特徴的です。
で、このミュージカル『Moulin Rouge!』は、そのキャバレー Moulin Rouge を舞台としたお話。2001年の映画を基に、2018年アメリカで初演を迎えました。
如何に客席と舞台の熱量を乖離させずに観客を舞台の世界へ誘うかが大事な舞台芸術。本作は、劇場全体が Moulin Rouge のキャバレーと化しており、私たちはミュージカルではなくキャバレーのショーを観に来た観客です。

客席のライトは真っ赤、下手側にはあの風車。
舞台も左右に広く、迫り出し部分もあり、迫力満点。
1階席の1列目前には本物のキャバレーと同様にテーブル席が。
「舞台装飾」の粋を超えて客席全体を装飾する辺り、ロングランだからこそ割ける資金と労力なのかなあ、と。帝劇版がお楽しみですね。

場内天井


音楽:舞台業界を代表するジュークボックス・ミュージカル

先日レポした『& Juliet』と同様、本作も過去のヒットソングを文脈にあてるジュークボックス・ミュージカル。本作リプライズは少なめで、1フレーズだけ登場する楽曲も多く、バラエティに富んでいます。

そこそこ長尺のキャバレーショーシーンから始まる1幕。楽曲の役割は「人物の気持ちを表す」というよりはエンタメ要素強め。特に 'So Exciting!' はコメディに振り切っています。
2幕、展開が進み、すれ違いや暗い部分が増えるにつれて、人物の感情を繊細に捉えて寄り添う、本来のミュージカル楽曲的な役割を果たす曲が増えます。クリスチャンとサティーンのテーマソングとなる 'Come What May' なんて、話にあてて書かれたかのよう。個人的には 'Crazy Rolling' で舞台を上下で割って、別の場所にいるクリスチャンとサティーンの想いが重なる様子を表す演出が好みでした。


内容:壮大なラブストーリー

キャバレーの歌姫サティーンと、キャバレーのショーの作曲家クリスチャンの恋愛のお話。キャバレーのビジネス的にサティーンは資産家のデュークとの恋愛を強いられて、かつサティーンは病気を抱えていて、という障害付き恋愛です。
明るくて華やかなキャバレーの表舞台とは裏腹の、報われなくて切なくて暗くて苦しい恋愛模様。

誰よりも一途なのに、両想いなのに、一向に幸せに手が届かないクリスチャン。劇が進むに連れてやつれて壊れていく様子に心が痛みます。ぼろっぼろの状態で歌う 'El Tango De Roxanne'。演出は非現実的だけど、それがクリスチャンの心情そのままなので「そうだよね苦しいよね辛いね、」と感情移入しっぱなしでした。
最後、やっとサティーンと一緒になれたのに、その腕に抱かれて命を落とすサティーン。それまでクリスチャンが彼女の病気のことを知らなかったのも胸が詰まるポイントです。舞台上のクリスチャンはずっと苦しそう。そして、重くて暗い影が、その後の彼の人生にも付き纏う未来が見える。
サントラやトレイラーで観ていたBW版クリスチャンの Aaron Tveit、そしてこのロンドン版でクリスチャンを務める Jamie Muscato、両者雰囲気や過去に演じた役に似たものを感じる。すごくすごく適役でした。

他方のサティーンも、サバサバして芯があって強い印象を受けるけれど、本当は、報われないクリスチャンへの想いと、「キャバレーのためにデュークと一緒にいなければ」という葛藤と、病気の苦しみと、暗くて重いものを抱えている。そんなキャラクターがハスキーめボイスに表されていました。
余談ですが、サティーンの衣装のシルエットが綺麗。

他にも、権力とお金では手に入れられない恋愛に向き合うデュークや、しれっと恋愛関係にあるニニ&サンディアゴ、1度は愛したサティーンへの思いを諦めてクリスチャンを見守るロートレックなど、各キャラクターがそれぞれの人生を生きています。
ただ若干情報過多。キャバレーショー自体や他の音楽、メインのラブストーリー、周囲の人間相関関係の理解で頭がいっぱいで、背後の伏線やクリスチャンとサティーン以外の人物に心を寄せる余裕がなかった。

演出:キャバレーを舞台に乗せるにあたって

序盤の劇場の項目でも触れましたが、Moulin Rouge の世界に観客を引き込む場内装飾に長けている本作。それに伴い生じるのが、キャバレーのショーシーンとそれ以外の差別化が難しい、という問題。終始舞台が華やかなので、キャバレーショーではないシーンもキャバレーショーぽく見えてしまう。
また、時間が何度か行ったり来たりするのも、登場人物が同じなのでわかりにくい。ストーリー自体が結構複雑なので予習必須です。

先日『Guys & Dolls』レポで Immersive Theatre (没入型劇場)の演出について触れましたが、本作『Moulin Rouge!』も immersive 向きだなあ、と。
パフォーマンスへの観客の取り込み方とか、楽曲とか、総じて。いつか immersive theatre での上演も観てみたいです。


総じて

舞台写真やトレイラーから受けるパッと華やかな印象とは対比的に、ストーリー自体は切なくて心が苦しくなるもの。
その明と暗のバランスが丁度良く、互いが互いを引き立てていました。
日本初演を間近に控える本作。Immersive演出でも観たいし、年を追うごとに使用楽曲が古くなってしまう問題への対処法も気になる(最新曲を加えてリニューアルとかするのかなあ)。今後に期待大です。


※見出し画像は『SeatPlan』HPより
https://seatplan.com/london/and-juliet-the-musical/


作品情報

Date: 22 May 2023 7:30 PM
Venue: Piccadilly Theatre
Cast:
  Christian - Jamie Muscato
  Satine - Melissa James
  The Duke - Ben Richards
  Harold Zidler - Matt Rixon
  Toulouse-lautrec - Ian Carlyle
  Santiago - Elia Lo Tauro
  Nini - Katie Deacon
Creatives:
  Book by John Logan
  Music Supervision, Orchestrations, Arrangements, and Additional Lyrics by Justin Levine
  Directed by Alex Timbers
  Presented by Carmen Pavlovic, Gerry Ryan, and Bill Damaschike

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