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うたのおへや

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わたし 村嵜千草の詩をまとめています
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#村嵜千草

水鏡

今日もまた水たまりを踏む
ゆがんだわたしと泥が跳ねて笑う

どこまでゆけば 満ちるときがくるの
ここでやめたら わたしは後悔するの?

雨音のままに 今日は濡れよう
濡れて疲れて そして眠ろう

明日もまた水たまりを踏む
はじけて 滲みた 本音の一粒

どこまでもゆこう そのときを期待して
ここまでこれた わたしを褒めよう

雨音のままに 今日は濡れよう
濡れて疲れて そして眠ろう

今日もまた水

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黄色い背表紙

黄色い背表紙

壁の一面を覆う本棚に
幼児向け絵本から大人の新書まで
あの頃より少し伸びた背丈で
向かい合う

顔を寄せると時間の匂い
ざらざらしていて懐かしくて
少し酸っぱい

ちょうど目線の高さに
今でも惹かれる黄色い背表紙
当時は少しかかとを上げて
見上げていたのかも

まだスカート丈と前髪が
ステータスだったときに
出会ったハードカバー

読書を好むことが
なんか洒落てるつもりで
背筋を伸ばしていたっけな

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ほくろ

ほくろ

左の手の甲に
でっかいほくろがある

でっかいと言っても
よく見ると
ちいちゃいほくろの
集まりである

手持ち無沙汰になると
腕時計を確認するみたいに
つい見てしまう

右足首の真ん中に
中くらいのほくろがある

普段は靴下で
隠れてるけど
家では裸足なので
ときどき目に入る

ストレッチなんかしていると
虫が止まってるみたいに見えて
たまに叩いてしまう

手の甲のほくろは可愛いけど
足首のほく

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毛布

毛布

さ、おいで
今日もたくさん頑張ったんだね

そうか、そんなことがあったのかい
私は濡れたってかまわないさ
ほうら、顔をうずめて

いつでも待っているさ
そしてずっとここにいる
いいんだ、そんな汚れくらい
細かいことはお気になさるな

ねえ、ねえ、そしたら、わたしばかりだよ

あなたは、

あなたは?

…………………………

お読みくださりありがとうございます。
いろんな悩みも迷いも毛布の中で。

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しあわせなこと

しあわせなこと

どんなささいな、
たとえば目が合うとか
たとえばごはんが美味しいとか
ちょっとしたことが
いちいち嬉しいのです

どんなささいな、
たとえばまつ毛におりたほこりとか
小指のささくれとか
ちょっとしたことが
いちいち楽しいのです

ほんのすこし 指が触れたり

ほんのすこし 髪が揺れたり

ほんのすこしのことが
いちいちしあわせなのです

…………………………

お読みくださりありがとうございました

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生命を描く

生命を描く

体の真ん中の内臓から
ドクドク湧いた真っ赤な興奮が

粛々と列を成し
その指 その末端 果ては握られたペン先まで
いや その中のインクまで

頭の奥の1.5キログラムの総てから
ドクドク湧いた真っ赤な感情が

我先にと走り出し
熱い手の平 力む指先 そこから白に一線染まるまで
ミクロの粒のひとつまで

フウ
一度の換気を経て広がるは

生命 そのもの

静かな轟音をたて 襲い来るもの

悪い癖

悪い癖

白状する
ときどき、それかもう少し頻繁に
やめたくないと思うことを

俯いて タオル濡らして ぐるぐるお腹鳴らして
皺の一本ずつを確かめることを

白状する
たまに、ごくたまに、と言っておくが
苦しんでいなくてはと思うことを

綱渡りして よろけて 立ち止まって
そうして眼下の奈落に惹かれることを

白状する
とかなんとか言っといて
悩みを悪いことなんて思っていないのを

首を捻って 焦点も合って

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127

127

慣れた瞳に少し緊張しながら
足を組み替えて
ぽつりと言葉を紡いでみる

内緒話をするときは
いつもどこか不安で心が小さくなる
お刺身が乾いてしまうのを横目に見ながら
落ち着かない手をもじもじさせて
こっそり表情を伺ってみる

ああ なんだ
同じだったと知った

塩で漬物になるんじゃないかってくらい
濡れてしわしわになるんじゃないかってくらい
溢(あふ)れるものをそのままにして
そっと手を握り合って

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未練

未練

あなたはいつも大股で
歩くのが速くて
わたしはついて行くのに精一杯だった

合わせてほしいって
言えなかった
嫌われるのが怖かったから

あなたはよく笑って
褒めてくれて
わたしは照れ笑いを返すしか出来なかった

眩しくてたまらなくて
上手な返しなんて
考える余裕がなかったから

あなたはずっと前を見てる
どんどん遠くなる

わたしはまだ
道端の萎れた雑草なんかが気になってる

あなたの笑い声が遠

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指先

指先

気づいてほしい
ううん 気づかなくていい

どうしたの急に、なんて
へんなの、なんて
思われたらいやだもの

けれどやっぱり ちょっぴり気づいてもいいよ

かわいいなって
思ってもいいよ

あなたのための 気取った指先

コップの汗

コップの汗

早く車に戻ろうって
蒸し返すアスファルトを蹴って
ひーとかふーとか言って
この曲誰の?なんて
スピーカーを指差す

こんなときはもう最後かもしれないって
ふと心配になって
脈絡もないお礼を繰り返して
笑って照れ合って
コップの背中をなぞる

さっきまで外明るかったのに!
あっという間だねって
時計を横目にサラダを摘まんで
さっきのざわつきなんて忘れて
ケラケラはしゃぐ

気づいたら
冷えたジュース

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見えぬあなたへ

見えぬあなたへ

どれだけ一生懸命に目を凝らしても
人の目に見えるものには限界がある

と、思いたいのかもしれないし
本当にそうかもしれない
本当にそうだったら居るかもしれないから
やっぱり思いたいだけかも

あのときどんな気持ちだったの
何に触れていたの
最後に何を見たの 考えたの

さようならも言わせてもらえない私は
あなたをずるいと思えばいいのか
優しいと思えばいいのか

持てる五感のすべてから
無言の便りが

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薄ぼけたもやの中から

薄ぼけたもやの中から

単位をひとつ落とした。
笑って「次はがんばるね」と言った。

単位を半分落とした。
笑われて「大丈夫」と冗談交じりに答えた。

教室に入れなくなった。
ドアの手前で止まる足。震える体。溢れる涙。

家を出られなくなった。
自分はなんて怠惰で愚かなのかと責めた。

選択をした。
ここで終わることにした。

成し遂げられなかった。

次の選択をした。
せめて病気のせいであれ。

荒れた六畳間
スマホの

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おめかし

おめかし

わたしは花になる
色をまとって

こんなところ、見ないだろうけど
気になんて留まらないだろうけど

ほんの少しの期待...ううん、嘘だ
ほんとは50パーセントくらいの期待を
耳に、頬に、指に、唇にひそめて

今日くらいは、
不細工だなぁとおどけるのをやめにする
花になるのだから
心もおろしたてのネックレスも、
風に躍らせるのだから

もし、もしもよ、
きれいだね、だなんて言われたら
ちょうちょにな

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