シェア
むぅにぃ
2021年9月6日 14:27
3月ともなると、ラブタームーラに暖かい南風が吹くようになってきた。木の枝からは芽が吹き、クロッカスやチューリップが花を咲かせ始める。 すっかり緑色になった三つ子山の1つ、三の山を、タンポポ団はテクテクと登っている最中だった。「本当にあんのか、銀のオカリナなんて」先頭を歩く浩は、フウフウと息を切らせながら文句をぶつける。「言い伝えによれば、この三の山のどこかにあるそうですよ」元之は、手帳に書
2021年8月30日 12:32
このところ、とんと魔法昆虫の情報がなかった。それこそ、噂話すら聞かない。何か手がかりはないかと、タンポポ団は博物館へと行ってみることにした。 中に入ると、来館客の中心で展示物の説明をしている館長を見つける。「あれはステゴサウルス、そしてこっちがトリケラトプス。ステゴサウルスは1億5千万年前のジュラ紀に生息した恐竜で、互い違いに並んだ骨版が、まるで背びれのようにあるのが特徴なんですな。いっぽう
2021年8月23日 13:03
午後から降り始めた雪は夜になってもやむ気配がなく、ますます勢いを増していた。 大人達は憂鬱そうに顔を曇らせ、子供達は大はしゃぎ。「こりゃあ積もるぞっ」浩が歓声を上げる。「明日は雪合戦ね」いつになく美奈子もそわそわ興奮していた。「一応、手袋はしてくるように。しもやけはあとが大変ですからね」合理的な元之は注意を忘れない。「この白い粉みたいなのが雪?」緑は空を見上げながら言った。長い睫毛に、
2021年8月16日 12:51
ラブタームーラにも木枯らしが吹き始めるようになってきた。 そんなある日、緑が耳に手を当てながら言う。「お姉ちゃん、セミが鳴いているよ」「まさか。だって、もう12月なのよ。とっくのとうに土の下で、今頃はぐっすり眠ってるわ」 けれど、言われてみれば、かすかにミーンミーンと聞こえていた。「あれってセミじゃないの?」緑は小首を傾げながら美奈子の顔を仰ぐ。「そうねえ、セミの声よね。誰かがテレビ
2021年8月9日 12:33
元之には妹がいた。生後8ヶ月で、江美利という名である。元之は江美利が可愛くてたまらず、よく抱っこしては「あぶぶぶぅ」とあやした。 江美利のほうも元之が大好きで、抱かれるとうれしそうにキャッキャとうれしそうに笑う。 元之は面倒もよく見た。母親の代わりにオムツを交換したり、ミルクを飲ませたりするのも億劫がらずにする。 もし浩や美奈子がそんな様子を見たら、元之の意外な一面にびっくり仰天するに違い
2021年8月2日 11:00
そもそも魔法昆虫を捕まえるために結成したタンポポ団だった。このところ、そのことも忘れかけ、半ば探検隊として活動することが多い。「今日は『岩神様の洞窟に入ってみようか」浩が言い出した。「えー、バチが当たるよう」そう弱音を吐くのは和久である。タンポポ団の中で一番の臆病者で、いつもしんがりを務めていた。「ばかね、神様なんいるわけないじゃん」美奈子はばかにしたようにいい下す。「そうですよ、和久
2021年7月26日 08:48
ある日曜の朝、浩はなぜか早くに目が覚めてしまった。時計を見ると、まだ5時ちょっと過ぎ。「もうちょっと眠っておこう」そうつぶやいて、毛布にくるまる。けれど目が冴えてしまい、まったく眠くないのだった。 毛布をがばっとはねのけると、そのままベッドを下りる。もう、このまま起きてしまおう。「朝の散歩もいいかもな。ちょっと、ほっつき歩いてくるか」両親は2人ともぐっすり眠っているらしく、家の中はしんと静
2021年7月19日 09:13
三つ子山を前にして、ラブタームーラ小学校の2年生達がずらっと整列している。居合わせているのは各担任、そして博物館の館長だった。 美奈子達の担任の小倉先生が言う。「いいですか、皆さん。これから皆さんには化石掘りをしてもらいます。ここには、まだまだたくさんの化石が埋まっています。もし、化石が出たら館長さんに見てもらいましょう。あなた方の化石が、博物館に並ぶかもしれませんよ」 続いて、館長が簡単
2021年7月12日 11:39
長かった夏休みも終わり、ようやく学校が始まった。「9月に入ったからといって、まだまだ暑い日が続きます。できるだけ日陰を歩いて登下校するようにしましょう」担任の小倉静子先生がそう注意をする。 外では風がビュンビュンとうなり、葉や枝、そして木そのものを揺らしていた。「すごい風だな。そういえば、今日はタイフウがくるって言ってたぞ」後ろの席で、浩がそうささやく。「タイフウってどんなの?」和久が聞
2021年7月5日 09:02
背の高い2本のニレの木が、ざわざわと葉を揺らしながらおしゃべりをしていた。「今日も暑いのう。雨でも降ればいいんじゃが」「雨なら、先月までたんと降ったろう。わしはもう十分じゃよ」「まあ、公園番が毎日水を撒きに来てくれるんで、だいぶ楽だがなあ」「それに、暑い暑いと言っておっても、じきに秋が来て、すぐ冬だ。わしらの葉がきれいさっぱり抜け落ちるのも、そう遠くはないて」 ここは2丁目にある中央公
2021年6月28日 09:25
2021年6月21日 08:09
2021年6月14日 12:40
今日も、タンポポ団はラブタームーラの町中を歩き回り、魔法昆虫の手がかりを探していた。「被害が出る前に、なんとしても捕まえなくてはなりませんね」元之が言った。「もう、どっかで何か起こってるかもしれねえぞ。おれ達が知らないだけで」浩はそう答える。「いやだ、そんな恐ろしいこと言わないでよ」美奈子は虫取り網をギュッと握りしめた。魔法昆虫には、たいそう危険な魔法が備わっているのだ。「館長からまだ連
2021年6月7日 09:09
久しぶりに倉又館長に呼ばれ、美奈子、浩、元之、和久、そして緑の5人は、博物館を訪れた。 一同は応接間に通され、ケーキと紅茶を出される。「館長、魔法昆虫のことで何かわかったんですか?」開口一番、美奈子が尋ねた。「いやあ、そのことだがね」館長は紅茶をすすった。「相変わらず、マユに書かれた文字のことはわかっておらん」「じゃあ、なぜわたし達を呼んだんです?」元之は首を傾げる。「うむ、実はな、有