宮坂変哲

タイ在住。川柳俳句短歌などを詠み、SF・歴史・冒険小説などを読む。文章を書く練習中。俳…

宮坂変哲

タイ在住。川柳俳句短歌などを詠み、SF・歴史・冒険小説などを読む。文章を書く練習中。俳句は屍派に憧れている。

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最近の記事

呑んだくれ

 去年ぐらいまでアパートに白人のおじいちゃんが住んでいた。引退した白人の常で、掃除のおばちゃんのような現地妻がいた。年金か退職金で暮らしていたのだろう。気が向けばクミン入りの見事なライ麦パンを焼いてはお裾分けしてくれたものだ。  ただ困ったことに彼はアル中だった。暴れたり大声を出したりはしなかったが、毎晩、小便とウンコを垂れ流すまで呑み、失神してそのまま眠るという、現地妻のおばちゃんには面倒をかける呑兵衛だった。  しばらくして彼とおばちゃんはパタヤへ引っ越していった。た

    • 連休

      「で、でもブライトさん、このスピードで迫れる平日なんてありはしません!」 「1月の連休明けは通常の三倍のスピードで接近します!」 「シャ、シャアだ、あ、赤い彗星だ!」

      • 2020年に詠んだ句と歌

        ・川柳編 ひとつひとつ自由を積み上げて孤独 ロックに生き浪花節で死ぬのが漢 最後には帰るからこそ旅なのだ 左前脚失った犬がゆく 隠してた菓子食べたやつ呪われよ ・俳句編 炎天や赤色巨星空半分 ハッブルに壮大な心霊写真 あたし海賊やからね天狼星 湯治宿菊人形の首がない まだ許し方が足りない吊るし柿 ・俳句ポスト 2020年人選集 雪女月の切り取る影絵かな 上京を見送る風や姫女苑 梅雨寒や朽ち果てるまで部屋にゐる 目を閉じて地球最後の蝉を聴く 藤袴校庭駆けぬけるらいてう

        • うなぎのしっぽ

           我が家はそれほど裕福ではなかったので、鰻はいつもいただきものだった。そして僕が初めて食べた鰻はずいぶん歯ごたえのあるものだった。  随分間に亡くなったおばあちゃんは働けなくなるまでずっと、鰻屋の中居さんをしていた。店では蒲焼きにした後の鰻の尻尾の方を切り落として捨てていたが、勿体無いからとおばあちゃんは鰻の尻尾をホイルに包んで持って帰り、おかずにしていたんだそうだ。もちろん僕が初めて食べた鰻、いただきものの鰻はおばあちゃんからのものだった。  おばあちゃんちには年に数回

        呑んだくれ

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        • メモ
          2本

        記事

          孤児院にて

          あれから6年が過ぎた。その後も機会があるときは小銭程度にすぎなくても寄付するようにしている。パタヤ孤児院もコロナパンデミックで影響を受けていることだろう。せめて食事やマスクが子どもたちにいきわたっていますように。  以下の文章は2014-02-24に書いたもの。この日見た衝撃は今も、そして生涯忘れない。  最近日本で、タイガーマスクを名乗る孤児院への寄付者がいて話題となったが、それこそ子供の頃タイガーマスクのアニメで見た程度、こういった施設を訪れたことは過去になか

          孤児院にて

          シャワー

          「なんだか疲れちゃったな」ぽつりと妻が言う。 「もし軽くて済むんなら、もう感染したほうがいい」 あの気丈な女がそんな弱気なことを言うのだ。どうやら今でも緊張感を意識的に持続させたまま毎日を過ごしているらしい。 買い物など限られた外出しかできず、一日中家にいる。いや、家にいなければいけないという、いわば籠城、徹底的な守備側、それは辛かろう。 その点娘は案外平気なようだが、あえて言えば少し躁状態かもしれない。それに少し太り始めた。 私はと言えば毎朝出勤時「今日、ついに感染

          シャワー

          遅刻した大王

          ノストラダムス 百詩篇第10巻72番 1999の年、7の月、 空から恐怖の大王が降ってくる アンゴルモアの大王を復活させるために その前後の期間、マルスは幸福の名のもとに支配する L'an mil neuf cens nonante neuf sept mois Du ciel viendra vn grand Roy deffraieur Resusciter le grand Roy d'Angolmois. Auant apres Mars regner par

          遅刻した大王

          もう煙草は吸わない

          「ああ、今煙草止めたら僕は一生吸わないだろうな」 22歳。初めて働いた会社の最初の数か月間で精神的にボロボロになっていた。ストレスに押しつぶされそうな様子を見かねた先輩の呪文「煙草吸ってみろ。ちょっとはマシになるぞ」これが喫煙の始まりとなる。早速キャメルを買って吸ってみた。不味かった。茶色の液体が流れ込んでくるようだった。それでも最初の日から真面目に1箱吸った。やがていつの間にか美味しいと思うようになり、一服を楽しみにするようになった。ピースでもガラムでもなんでも、煙草と名

          もう煙草は吸わない

          575 in 2018 ジョジョ立ちで風に吹かれてゴゴゴゴゴ

          昨日今日明日明後日明々後日 5二馬同銀左4二銀 シケモクを掻き集めてやお正月 お年玉パパの小遣いより多い お年玉借りて複利で返す父 小市民春に破滅の夢を見る 方言を忘れ冷たき田舎かな 愛なんて理屈で解るものじゃない 太陽も寝坊している暗い朝 小遣いを上げろと土下座父の冬 カラス鳴く俺の分まで泣いてくれ 童貞のまま成人の日を迎え 小市民ほどアウトローに憧れる 心臓で感じろ頭で考えろ 誠意とは金のことかと言ひ返し 死ぬために生まれたわけじゃあるまいに

          575 in 2018 ジョジョ立ちで風に吹かれてゴゴゴゴゴ

          林檎

          心は林檎 執拗に 言葉のナイフで根元まで サクサクサクと刺され 血を流すこともなく 一見何も変わらないまま しかし 一刺し一刺し 林檎は壊れてゆく 確実に 刺されたところから腐ってゆく

          故人の夢

          亡くなった人の夢を見たことがある。偶然にもおふたかたとも同じ会社であった。 ひとり目は当時の会社の社長。 宇宙空間に浮かぶ小宇宙のような星々の上に浮かび、少しはにかんだような、安堵したような、それでいて少し挑戦的な目をして腕を組んでいた。上半身しか見えなかった。 ふたり目は当時の会社の古株の人。 夢の中で彼は、黄色く薄暗い光に満たされた周囲が岩で、細く険しい洞窟の中を無表情に彷徨っていた。洞窟の向こう側から歩いてきて目の前を通り過ぎ、いずこともなく歩き去ってしまった。黄色

          故人の夢

          出張の夜

           備え付けのシャンプーは安い消しゴムみたいに甘い匂いがした。それでも、熱いシャワーに疲れが溶けて流されていくのは気持ちいいものだ。安宿だがお湯は熱く水量も申し分ないのは救いだった。  風呂からあがるとベッドに倒れ込むように寝転がる。頭はスッキリするのに、シャンプーで身体を洗うとヌルヌルした感じが残るのは何故なんだろう。そんな、どうでもいいことを考えながら明日の予定を反芻する。忘れ物はない。  ビールは小さな冷蔵庫の中、つまみもまたその冷蔵庫の上にある。たった一歩の距離が煩

          出張の夜

          シナモンの夢3 2018-06-10

          強い風が吹いている。空は立体的で灰色のような白いような雲が出ていた。私は多くの人と共に運動会のようなテントがいくつも張られたグラウンドにいる。雲の上の青空を見ていると、雲の後ろから恐竜のような形をして白地に角張った黒のまだら模様の巨大な何かが現れたので「これは技術者に言わなければならない」と探しているうちにグラウンドへ急降下着陸してきた。ビルよりも巨大な機械の恐竜はグラウンドをずるずると動いて止まる。盛大な土ぼこりを引き起こすが、機械恐竜は巨大すぎて土煙も下の方だけしか届かな

          シナモンの夢3 2018-06-10

          パタヤ・ブルー

           スクンビットロードからノースパタヤへ、そしていつも工事中の中途半端なロータリーを二つ目の道に入ると、少し下った左カーブの向こうに青い海が見える。僕はこの光景が好きで、パタヤへ来るときはいつでも、たとえ雨模様であろうと渋滞であろうとこの道を選んで車を走らせるのだった。  ビーチロードは名前通り、海岸に沿って南北に伸びている。歩道を挟んですぐ砂浜が広がり、海の反対側は大小様々のホテルとバーがごちゃごちゃと群居よろしく繋がっている。いかにもリゾートらしい青い空と海と風、そしてパタ

          パタヤ・ブルー

          シナモンの夢2 2018-06-09

          爆発音がしたので外を見る。窓の向こうのずっとずっと遠く、オレンジ色の巨大な炎が爆発した。降り始めの雨のように、火の粉がカツカツと窓に当たる。もちろん家全体にも降り注いで、目の前の屋根の端があっという間に燃え始め、急いで消そうと何かモップか棒のようなもので叩いている人がいる。逆光で棒人間のように真っ黒に見えた。室内を振り返るとそこは、今はもう亡くなった親戚のおじさんの家のようだった。黒い大きな家具が畳が敷かれた部屋を斜めに塞ぐように横たわっていて、窓を背にして左には家具に頭を乗

          シナモンの夢2 2018-06-09

          シナモンの夢 2018-05-25

          シナモンカプセルを飲んだ日は必ず夢を見る。今朝はこんな夢を見た。 (夢のあの奇妙な連続性を表現しようと、意図的に段落分けしていません。読み難さご容赦願います。) 2018年5月25日の夢 昔好きだった女性のいる風俗店へ行くと、その女性は同じところに泊まっているらしいとわかる。そして借りている部屋のある建物にいた。宿泊費は高いのだが、私はスパイだか何か重要な目的があって、多少高くてもしょうがない、経費なんだと思っている。階段は一段一段がベルトの高さくらいある。私の部屋は少

          シナモンの夢 2018-05-25