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うなぎのしっぽ

 我が家はそれほど裕福ではなかったので、鰻はいつもいただきものだった。そして僕が初めて食べた鰻はずいぶん歯ごたえのあるものだった。

 随分間に亡くなったおばあちゃんは働けなくなるまでずっと、鰻屋の中居さんをしていた。店では蒲焼きにした後の鰻の尻尾の方を切り落として捨てていたが、勿体無いからとおばあちゃんは鰻の尻尾をホイルに包んで持って帰り、おかずにしていたんだそうだ。もちろん僕が初めて食べた鰻、いただきものの鰻はおばあちゃんからのものだった。

 おばあちゃんちには年に数回位しか訪ねなかったが、僕の大好物なのを覚えていて毎回たくさんの鰻の尻尾をお土産にくれた。鰻の尻尾は売り物の身の部分よりも味が濃く、グニュグニュしながらもなかなか噛み切れないくらいしっかりしていて、とにかく常にお腹を空かせている食いしん坊の僕には大変なごちそうであった。

 捨てられるはずだった「うなぎのしっぽ」は、こうして飢えた小学生の大好きなおかずになったのである。

   あれから何十年も経ったが土用の丑の日になると必ず思い出す。五十を過ぎた今でも、おばあちゃんの鰻の尻尾を食べたいなあと思うのだ。

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