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これでは「採用ミス」が続発する~「第一印象」が90%?そして最後は面接官の「好き嫌い」Vol.2(2/3)

4.「能力」を「行動特性」として捉える

大筋のポイントの説明は以上ですが、実感として理解しづらかったかもしれません。もう少し具体的に「ありがちな面接」の例を挙げてみましよう。

その前に、「ありがちな面接」とはどういう内容をいうのか、説明しておきます。


これをひと言でいうなら、「面接によって引き出すべき情報がきちんと取れていない」ということです。また「引き出す情報」とは、「応募者が自社で業務を遂行するときに必要な能力をもっているかどうか、それを判断するための材料」だと理解しておいてください。

なお、「業務遂行に必要な能力」は、決まった定義があるわけでなく、会社の事業特性や企業理念、 カルチャーなどによって変わってきます。 A社には A社の、B社にはB社の、それぞれに固有な「必要とされる能力(あるいは期待される能力)」があるわけです。

たとえば同じ銀行業であっても、 A行とB行では目ざしている銀行像も将来展望も違うのですから、求める人材像も、期待する業務遂行能力も異なるのは当然といえます。

ここで大事なことは、 面接の場で確かめるべき「能力」とは、新卒者採用の場合であれば、短期的には「担当した仕事を自力で完遂し、 それを成果に結びつけるだけの行動特性」のことだと捉えてください。

中長期的には「リーダーシップ」という言葉であらわされる内容 ーーーー「部下や他部門の仕事を統括し、 それぞれの力を最大限に引きだすことを通じて、プロジェクトを成功に導くような行動特性」を含める場合も、もちろんあります。

中途採用(キャリア採用)の場合であれば、配属予定部署における特定業務の遂行に必要な知識やスキルと、 その知識やスキルをつかってどのような行動様式を職場でとってほしいか、ということを含みます。

面接を通じて応募者の能力を推し量る場合、大切なことは「能力」を「行動特性」 (あるいは「行動様式」)として捉えるという視点です。

5.聞きだすべきは応募者の行動事実

たとえば「企画」という仕事の場合は、たしかに企画を案出する頭脳が必要です。しかしながら、出身校の偏差値や学業成績、ある種のペーパーテスト、あるいは面接での回答の速さや論理性だけで、”業務に必要とされる「企画力」”を推し量れるでしょうか。重要なのは企画内容の卓越性だけでなく、それ以上に、その企画を成功裡に実現させる力のはずです。

したがって、企画業務に必要な能力を表象する行動特性は次のような行動ー企画立案のプロセスにおける行動、上司や関係者を説得して企画案に対するゴーサインを獲得する行動、さらには、その企画を実現させ、それを期待どおりの成果に結びつける行動の中にあらわれると考えるべきでしょう。

このように、典型的な頭脳労働と考えられているような仕事であっても、それを実現させる能力、あるいは成果に結びつける能力は、さまざまな行動の集積として捉えることができるわけです。

逆にいうと、応募者の行動を検証すれば、その人の行動特性や行動様式が見えてきます。たとえば、右に挙げた「企画立案のプロセスにおける行動」に関していうなら、文献や関連資料の調査だけで企画を立てる人なのか、上司を説得して予算をもらい、市場調査まで行う人なのか、企画案の実現性を確認するために社内外の関係先に足を運び、さまざまな問い合わせを自ら行うのか、あるいは上記のすへてを行うことかできるのか、というように。

前項でポイントとして挙げた「応募者の考え方や意見、あるいは志や夢などではなく、具体的な行動事実を聞いて判断・評価の材料とする」とは、次のようにまとめることができます。

自社にとって必要な能力を備えているかどうか、またそれがどの程度なのかを判断するには、求める能力を行動レベルに落とし込み、そこから抽出できる行動特性・行動様式を応募者がとれるかどうか、もしとれるのならどれくらいのレベルや再現性が期待できるかを確認する。

こうした方法が科学的であり、精度が高いということはいうまでもありません。つまり、新卒採用であれば学生時代の、キャリア採用では前職での「期待される行動特性」を推し量れるような実際の行動を質問から聞きだすことが重要なのです。

「ありがちな面接」の事例をもう少しご紹介することにしましょう。

6.共通の話題で盛りあがるのは、むしろ危険信号

面接で応募者の何をどのように聞きだすべきか。このことがきちんと定まっていない場合、往々にして面接官は次のような対応になりがちです。

・自分が個人的に興味のあるところ、気になるところばかり聞く
・理解しやすいところ、聞いていて自分が共感できることを聞く
・話が弾むところに話題や質問が集中する

面接官トレーニングに参加していた方から、こんな話をお聞きしました。

「自分が就職活動していたときのことを思い返すと、私の面接では、
〈釣り〉の話で盛りあがりました。面接担当者の方がとても釣り好きだったので、面接時間のほとんどがこの話に終始したように記憶しています。冷静に考えてみると、私が採用された理由はよくわかりません。面接官と同じ趣味だったからでしょうか?」

このエピソードからもわかるように、共通の話題であれば話が弾むかもしれません。

たとえば、「学生時代によく映画を観たということですね。映画鑑賞が趣味のようですが、最近観た映画の中で印象に残っている作品は何ですか? 私は、最近だと、〇〇の作品が好きですが、あなたはどうですか?」あるいは、「現代中国論のゼミに入っているんですね。今後の日中関係はどうなると考えていますか? あなたの意見を聞かせてください」などといった質問です。

この種の質問では、面接の最大の目的である「自社にとって必要な人材か」「求める能力を保有しているか」の判断・評価にはほとんど結びつきません。

そもそも、どんな情報を得るために、こうした質問をしているのでしようか。たぶん多くの面接官は質問の目的や意図を意識せず、思いつくままに質問を投げかけているようです。

にもかかわらず、評価の段階では「話が弾んだ」とか、「受け答えするときの話し方は論理的で、笑顔もいい」などという理由で、高い評価をつけてしまうことかあるのです。

共通の知り合いがいるとか、出身大学、あるいは専攻や部活などか一緒といった共通の話題を介して盛りあがるのは、人間関係の距離を縮めるという利点はありますか、こと採用面接の場面ではマイナス要因としてはたらく場合が多いのです。

というのも、応募者との心理的な距離が近くなった結果、その人物に対して面接官が好印象をいだいてしまい、ヒトを見る目が曇るからです。

採用面接という場で醸成された親近感や安心感と、その人に仕事を任せられるかどうかという信頼とは、まったく違うものであることはいうまでもありません。

7.「志望動機」や「将来の夢」に関する質問の落とし穴

「私たちの会社を志望した動機についてお話してください」「私たちの会社に入ったとしたら、あなたの将来の夢は何ですか?5年後、10年後どうなっていたいですか?」

こういった質問は、面接官なら必ず聞いていらっしゃるのではないでしょうか?

「考え」を聞くという意味では、応募者の志望動機や「将来の夢」に関する質問も、前項で紹介した(応募者の行動特性を引き出すことができないという意味から)「よくない」質問のカコリーに入ります。面接官トレーニングの場でこれが「よくない。質問だというと、必ずといっていいほど受講者の方たちからの反論を受けます。

「志望動機を聞くことで、入社への意欲や熱意がわかるんだから、判断材料としてとても重要な要素じゃないんですか」「将来この会社でどんなことをしたいのか、希望やキャリアビジョンを聞くとは、どうしてあまり意味がないんですか」

応募者の「志望動機」や「将来の夢」は、採用面接の面接官ならば、ぜひ聞いてみたいと思う内容ですし、実際にみなさんが例外なく聞いています。それを「よくない」といわれたら誰だって反発を感じるでしょう。

しかし、ここで少し考えてみてください。面接官が好み、必ず質問する「志望動機」や「将来の夢(何をやりたいか)」は、学生にとっては最も対策の立てやすい質問項目でもあります。事実、 いわゆる面接対策本では必ず取りあげられ、その模範解答例が列挙されているのはご存じのとおりです。

「はい、御社を選んだのは、 けっして規模の大きさや安定性を求めたからではありません。むしろ私は、御社の創業時のチャレンジスピリツッともいうべき社風が自分の気風にあっていると思ったからこそ志望しました」

「将来、私は御社の主力製品である〇〇だけでなく、 現在注力されている新規製品の開発分野に、市場調査の段階から携わり、 それを御社の将来の収益性の柱にまで育てることに挑戦し、御社に貢献したいと考えています」

たとえば、 このような優等生然とした回答を受けて、面接官は学生の何がわかり、 それをどのように評価するのでしょうか。 この回答が本心なのか、 あらかじめ用意されたものなのか、それ自体がわかりません。

現に多くの採用担当者からは、 「志望動機は、 ほとんどの学生が同じように答えるので、話の内容からは優劣のつけようがない」、あるいは、 「多くの企業の面接を受けている学生はすぐわかる。志望動機の話し方が本当にうまくなっている」といった感想をお聞きします。

志望動機が高いか低いか (入社への意欲が強いか弱いか)、 将来の夢や希望が大きいか小さいかは、何によって判断するのでしょうか。また、 どういう動機や夢なら合格で、 どういう動機や夢なら不合格なのでしようか。 こうした応募者の思いや考えには明確な判定基準がなく、評価することはとても難しいことです。

結局のところ、志望動機やその会社で働く意欲についての評価は、話しぶりや表情の豊かさ、話のわかりやすさ、論理性、 そして印象などで評価しているのではないでしょうか。

くわえて、志望動機が高い (強い) こと、 あるいは夢や希望をしつかりと語ることが、 企業が求める仕事のできる有能な人材であるか否かとは、 必ずしもリンクしていません。

入社動機や意欲、 熱意のバロメーターとなり得るのは、 志望する会社を絞りこむために応募者がどのような行動をとったのかーーー誰に相談し、 そこでどんな質問をし、 その確認のためにどのような資料を探して目を通したのかということ、 つまり、 その会社に入るためにどのような活動をしたのか、 ということではないでしょうか。

その会社に入りたいと思う意欲も熱意も、 その行動事実の中から読み取ることができるのですから。就職活動中の行動からは社会人になることへの姿勢や職業観も見えてきます。

「将来の夢」 であれば、 聞くべきことは、 夢の大きさではなく、応募者がその夢を実現するためにどういった行動を過去においてとってきたか、 その一つひとつの事実なのです。

とはいえ、私はけっして「志望動機」や「将来の夢」 の類の質問は禁止といっているわけではありません。新卒採用では、志望動機は応募者にとって予定どおりの質問なので、面接担当者は、面接のウォーミングアップとなることを承知で、採用面接の最初に「志望動機」を聞いて学生をリラックスさせているケースもあります。

採用面接で聞くことの多い 「志望動機ー や「将来の夢」 への質問には、「落とし穴」があるということに気づいていただければと思います。

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【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター 執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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