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配給会社ムヴィオラの映画1本語り

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#映画監督

【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』⑦山水画の絵巻を映画にする、と簡単に言うけれど。

【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』⑦山水画の絵巻を映画にする、と簡単に言うけれど。

「ストーリーを通じて現代の町の変化をいかにとらえるかを考えるうちに、英題にもなっている『富春山居図(Dwelling in the Fuchun Mountains)』という絵巻物からヒントを得て、映画を絵巻物のように描くことを思いつきました」(グー・シャオガン監督/2019年11月24日 東京フィルメックスでの上映後Q&Aより)

*フィルメックスでのQ&A 左は市山尚三さん、右は、今監督取材で

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【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』⑥10分53秒のシーンを何十テイクも? 鬼ですか?

【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』⑥10分53秒のシーンを何十テイクも? 鬼ですか?

昨日の記事の続きになるが、「競争しないか?僕は泳いで君は歩く」の、泳いでから最後船に上がるまでの10分53秒の超ロングテイク。これは素人キャストだからこそできたシーンと言ってもいいと思う。もちろん「映画のためならなんでもやります!」と、延々と泳いでくれる奇特な俳優さんももちろんいるだろうけど。普通なら「スタント使いましょう」だ。

このシーンに登場している孫娘グーシー役のポン・ルーチーさんは、小さ

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【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』⑤「これは驚いた」「これは映画史に残る」。10分53秒の自由。

【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』⑤「これは驚いた」「これは映画史に残る」。10分53秒の自由。

リュミエール兄弟によって、パリのグラン・カフェ地階の「インドの間」で、『工場の出口』を含む10本の短編が上映された1895年12月28日。この日を「映画が誕生した日」と呼んだりもするが、それから125年。それだけ経てば、映画の撮り方・作り方はセオリーだらけで、もう「映画の表現」は出尽くしたろう、新しいことなんかないだろうと思う人がいるかもしれない。映画に愛着のない人だと「映画はもう古いメディアです

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【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』④ジャ・ジャンクー、アピチャッポン、イニャリトゥ、ワン・ビン以来の…

【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』④ジャ・ジャンクー、アピチャッポン、イニャリトゥ、ワン・ビン以来の…

『春江水暖〜しゅんこうすいだん』は1988年生まれの中国新世代監督グー・シャオガンの長編劇映画第一作。うっかりすると、これまでも中国映画で見たことのある「ある家族の大河ドラマ」という印象を与えてしまう面もあるのだが、私の初見での印象は何をおいても「驚き」だった。こんな映画が出てくるなんて!という嬉しい驚きに溢れていた。

その後、監督に話を聞いたところ、さらに驚かされたのが、「クルーと一緒に撮った

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【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』②お皿の中身と汽水域のスズキ

【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』②お皿の中身と汽水域のスズキ

昨日の『春江水暖〜しゅんこうすいだん』1回目、「停電とロウソクと扇子」は冒頭3分くらいまでしか行けなかった。また今日もそうなるかもしれない。

爆竹の場面が終わると再び誕生会の会場へカメラが戻り、宴の御馳走が運ばれてくる。「富春江の新鮮なスズキよ」。ここでカメラが俯瞰になり、皿にのった美味しそうなスズキの蒸し物が映り、円卓に並ぶ他の料理もよーく見える。青梗菜が添えられた肉料理らしきもの、大ぶりの赤

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【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』③汽水域と借景のキャスティング?

【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』③汽水域と借景のキャスティング?

その昔、エルマンノ・オルミ監督の『木靴の樹』を見た時、農民たちが土を耕したり、種を蒔いたり、収穫したり、鋤を使ったり、トウモロコシの皮を剥いたりする、全ての所作が美しくて、それを見ているだけで感嘆したものだ。

映画の舞台はイタリアはベルガモで、オルミ監督はベルガモの本当の農民に演じさせたと知った。物語は、脚本を書いたオルミのものだろうけれど、そこには農民の人生が持ち込まれていて、言ってみれば劇映

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【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』①停電とロウソクと扇子

【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』①停電とロウソクと扇子

2021年が始まった。今日は1月11日。1並びで眺めていると気持ちがいい。でも、首都圏緊急事態宣言の3日目だ。よほどの人でない限り、誰もが大なり小なり不安を感じざるを得ない毎日が続く。

ムヴィオラの今年の配給公開作の1本目は、2/11に文化村ル・シネマでスタートする『春江水暖〜しゅんこうすいだん』。(全国順次なので他劇場は公式HPの劇場ページをどうぞ!)

正直、去年の緊急事態宣言の際に、冬には

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