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【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』④ジャ・ジャンクー、アピチャッポン、イニャリトゥ、ワン・ビン以来の…

『春江水暖〜しゅんこうすいだん』は1988年生まれの中国新世代監督グー・シャオガンの長編劇映画第一作。うっかりすると、これまでも中国映画で見たことのある「ある家族の大河ドラマ」という印象を与えてしまう面もあるのだが、私の初見での印象は何をおいても「驚き」だった。こんな映画が出てくるなんて!という嬉しい驚きに溢れていた。

その後、監督に話を聞いたところ、さらに驚かされたのが、「クルーと一緒に撮った1本目」なのだという。なんとそれまで撮っていた短編やドキュメンタリーは、一人でカメラも編集も全部やっていたのだそうだ。これを聞いて、腰を抜かしそうになった。初めてクルーと、しかも映画でエンドクレジットを見てもらえばわかるが、大勢のクルーと大勢のキャストで撮ったというのに、こんなにも完成度の高い、映画的魅力に溢れた作品に仕上げるなんて!?成長したドラえもんののび太くんのような(失礼!)風貌で飄々と話すシャオガン監督の顔を思わず見つめ、「ご冗談でしょ!?」と言いたくなった。

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*グー・シャオガン監督(右)この写真にもびっくり。しますか?Vサイン?カンヌ批評家週間クロージング監督ですよね(と二度見確認)

でもそんな驚きも私が古い世代だからかもしれない。新しい世代にはこちらが想像しない可能性があるものなんだと目を開かされた気分だった。だから、この映画を日本の若い、映画人たちにもぜひ見て欲しいと思う。今、上の世代に締め付けられている(?)と感じている人には特に。

それでふと、自分がこんなに驚いた「監督第一作」って何があったろう?と記憶を探ってみた。「自分が」なので、世の評価とも違うし、人間十人十色なら感動する映画も十人十色で、誰の参考にもならないのだけど…。

この数年で考えてみる。まずは…中国新世代。フー・ボー監督の『象は静かに座っている』。本当に素晴らしかった。触れられないけど抱きしめたい気持ちになった。でも「驚き」とは違っていた。ビー・ガン『凱里ブルース』。これは才能だと感心したが、この一作目は「驚き」というのとは種類が違った。目を西に転じて、グザヴィエ・ドランは?『マイ・マザー』は衝撃だった。19歳という年齢に驚かされたが、映画に「驚かされた」というのとは少し違う。今、人気のケリー・ライカートは?『オールド・ジョイ』からしかみてないので判断不能。ただ彼女の映画はいつも「驚き」というより「とても素晴らしくいい」という感覚だから違うのかもしれない。アリーチェ・ロルヴァケルが「驚き」に近いけれど、こちらもあいにく第一作を見ていない。セリーヌ・シアマは一番驚いたのは『燃ゆる女の肖像』だから、第一作というわけではないし…

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というわけで、ウンウン記憶を探ってたどり着いたのは、“もっとも最近で”ワン・ビン『鉄西区』(99-2003)、アレハンドロ・イニャリトゥ『アモーレス・ペロス』(2000)、アピチャッポン・ウィーラセタクン『真昼の不思議な物体』(2000)、ジャ・ジャンクー『一瞬の夢』(1997)だと思い至った。“もっとも最近で”なわりに、20年近くも前………。しかも、ワン・ビンアピチャッポンは自分が配給している監督で「手前味噌ですみません」な感じだが、どう思い返してもこれが本当。この20年については、また機会を改めて考えてみよう。

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*『春江水暖〜しゅんこうすいだん』の撮影風景

まとめ)なんだかんだで20年以上も映画の仕事をしてきて、少し表皮が硬くなった私に、こんなに「驚き」に満ちた「監督第一作」を見せてくれたグー・シャオガン監督には心の底から感謝している。おばさん、すっかり若返りましたよ!いやぁ、映画って本当にいいもんですね!(by 水野晴郎さん。若い人は知らないかな)

2021年1月14日 ムヴィオラ 武井みゆき

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