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彼に傷付けられながら、授けた仕事と価値の人生訓。

会社の後輩と片道90分ほどかかる場所へ向かう事になった。彼は、私をnoteに誘った男だ。彼は、車の鍵を私に渡すとこう言った。

「コニシさん。自分、車30分以上運転すると疲れちゃうんで、運転してもらっていいですか?」

彼は私が疲れる事を、その事実はまるで存在しないかのように、一瞬の澱みもなく言いきった。

私は、鍵を受け取るという選択をせざるを得なかった。

横須賀に向かう車は、湘南海岸を右手に江ノ島方向へ進む。車内で私は彼に話しかけた。

「君に言われるがままに続けているnoteだがね。あれ、悪くないね。むしろ好きだね」

彼は、少し沈黙してこう返した。

「コニシさん。コニシさんは言いたい事を本当にそこに全部書けているのですか?」

私は、彼の意図を探ろうと思考したが、答える前に彼が言い出した。

「自分、今会社辞めようか悩んでいるんです」

あまりに予期せぬ方向への話の転換に、私は思わず反対方向にハンドルを向けて、いっそのこと箱根に行っちゃおうかと思ったが、中年が青春するわけにもいかず、海沿いをそのままに、アクセルを踏み続けた。

「ほう。それはまた。難儀だね」

私は、今後一生私の口から発せられそうもない「難儀」という言葉を発した自分が少し可笑しかった。

「コニシさんは、なんというか会社にいて、会社に属していないじゃないですか。だから話しやすいんですけど、上司とか周りの人達って話し聞いてくれないですし、本当の事を言ったら空気が悪くなって、正しい事は言うなって雰囲気になるんです」

私は、少なからず会話の前半部分で地味に傷付いてしまい、後半部分の真面目な相談が頭に入って来なかったが、とりあえず話の続きを促した。

「それでいて、自分は上司に向いていないとか部下の自分の前で話したりします。向いていないと思っている上司の下で働く部下の気持ちとか何も考えないのですかね?こっちだってやる気失くすじゃないですか」

彼は、モチベーションの低下を訴えて来た。私の気持ちの沈みも考慮すべきだぞとツッコミたかったが我慢した。

「まぁ、思っている事全部言ってみろよ」

落ち込みを見せないように、精一杯出来る譲歩をし、彼の話を全て聞いた。その上で一つの質問をした。

「では、君はこの先どうなりたい?何に軸を置いて生きていきたい?」

私は、仕事を一生懸命するという前提において、「生ききる」という人生を考えた時に「仕事」それだけの時間だけが決して重要ではなく、豊かになるものでない事を伝えた。

やりたい事を「仕事」として、生きていけるならそんなに幸せなことはないと思う。自分で経営し、その情熱を捧げるのは本当に素晴らしい事だ。だが、そういう風に生きられる人は稀だと考える。自分が本当にしたかったかどうかもわからないで「仕事」を始める人の方が大半だ。

それを知らずにのめり込んでしまい、周りが見えなくなり、常に「怒り」や、「焦り」、「蔑み」、「妬み」を抱えて生きて、「仕事」しか無くなってしまい、大半の時間を見失う不幸を説明した。

「言ってくれようとしてることは、なんとなくわかります」

と、理解してるとは言い難い、いつも通りの返事が来たが、半ばちょっと良いこと言っている先輩みたいな雰囲気に酔い始めている私は、さらに続けた。

「私は、君が週末にサッカーのコーチをして、子供達が好きで、サッカーが好きで、触れあっている君のその価値観の方が、生ききる上でよっぽど素晴らしいと思う。その子達がさらに成長して、君と一緒に教えるようになったり、お酒を呑んだりするのを想像するだけで嬉しくなる」

彼は、少し照れ隠しに笑った。

「まぁ、はい。お金にまったくならないですけどね。考え方変えるとなんとなく、小さい事で悩んでいた気がします」

私は、その先輩らしい満足感から叫びたかったが、さも当然という雰囲気を壊さないように、話を締めた。

「お金にならない話しをしたかったから、私に話したんだろう」

彼は、その日の始まりを反復するかのように、そしてその事実はまるで存在しないかのように、一瞬の澱みもなく言いきった。

「仕事の相談は、コニシさんにはしないです。それと、勧めてくれた本。あれ、痺れました」

また、前半部分で傷付いたが私は持ち直し、大江健三郎を読めるようになった彼を、なかなか可愛い奴だと思いながら、江ノ島を越えた車は鎌倉方面へ進む。

「おい。コンビニ寄るからコーヒー奢れよ。お金にならない話のお礼に君から俺へだ」

 私は言った。彼は答えた。

「コニシさん。それ自分のセリフですね。お金にならない話を、無駄にまた書いてくれますよね?それこそ私の使用料です」

なんのはなしですか

私は、コーヒーを奢らせていただき、帰りも運転させていだいた🚙

色んな価値観が混在しながら、一生懸命時間をかければ良いと思う。「仕事」だって「生き方」だって皆、同じように悩む。一つに絞らないで幾つも同時に楽しめる生き方を心がけたい。

私は本当の事なんて、いつか書けるのだろうか。










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