【Whiskey Lovers】 出張番外編その歌声は呑んだハイボールも含めその全てを忘れさせる。
世の中には、一言で終われない事だって存在する。丁寧な無駄にこそ遊び心を込めたい。
その日は、撮影と名を変えたウイスキーの宴を終了し、気分が高揚したままの私は、ポップとシュモンさんを誘い近くのフードバーへと向かった。撮影の途中に私が2人にそのお店を思い出させたことがきっかけだ。
この日撮影しながら呑んでいた私は、呑み始めると帰りたくないナ病を発病していた。それは、頻繁に私に作用するとても厄介な病だ。アルコールという魔法がもう少しこのままこの仲間と呑みたいナとなってしまい、私には次の日など訪れないと思い込み永遠の時間の中で漂えど沈まず状態な厄介なものだった。
そして、もう一つこれとは別に、どうしても電話にて深夜に女性の声が聞きたいナ病を持っている。これに関しては度重なる失敗を繰り返しているので、最近は電源を切るという裏技を身に付けて呑みに出ている。アルコールとは普段の私とは欠け離れた存在を引き起こし兼ねないから厄介だ。だが、そんな自分にたまに会いたいナとなるのが私だ。
私としては、ポップとシュモンさんという伊勢原の生きる宴人とお店に行くのが好きなのだ。彼らは、伊勢原の夜の街に馴染んでいる。
彼らは、ただ呑むということでなく、そのお店で呑むということを大事にしている。どこのお店に行っても、笑顔で迎えられるのだ。
伊勢原駅から少し離れた処にkuro96というフードバーがある。いつか、1人で行ってみたいと考えていたお店だ。それには先ず、宴人と行くに限る。
お店に入った瞬間から宴人パワーは発揮される。その存在感から圧倒的にホームゲームの雰囲気になる。これは、普段呑み慣れない私からすると、実にうらやましい瞬間である。
この瞬間だけは唯一、これまでに彼らが費やした時間とお酒に心服する。普段の人間性とかは、知らない。
お店に入るとすぐにポップは、マスターと釣り談義に興じる。
「ムギイカ釣れたの見ました。まだありますか?」
マスターは、嬉しそうに釣りの話しをして、もうほとんど出ちゃったよと伝える。
「でも、沖漬けならまだ少しあるから、ポップちゃん食べなよ。出してあげて」
マスターは、カウンターにいるアルバイトの子に声をかけ用意してくれた。
マスターは、沖漬けを用意してくれながら、その夜釣りにアルバイトの子と一緒に行ったこと、その子が最初に釣れたこと。それを自分達で処理してお客さんと美味しく食べたこと。沖漬けを教えながら作ったこと。ゆっくりと楽しそうに話してくれた。
親子なのかな。と思わせるくらいに愛情と信頼と楽しさが伝わる関係性だった。私は、その雰囲気に自分にとって大事な恩人や先輩を思い出していた。
シュモンさんは、その場の空気を変化させるようなタイミングではなく、ごく自然に話す。
「みんなで呑もうよ。2人もね」
このさりげなさは、とても真似できるものではない。実際に、その場を大事にしていてその空気を感じてこそサッと言えるのだ。
この宴人が‼️
と、カッコよさから来る嫉妬心で思い切り心の中で叫んだが、仮に私がお店の人に一緒に呑もうよ何て言うならば、そのぎこちなさから逆に断られるだろう。と容易に想像出来た。
ポップは、すかさず春巻きをオーダーした。
「この前人気でしたもんね。食べたくなりました。とりあえず全種類」
このさりげなさも、大したものだと本当に感心した。過去のエピソードを引き出しながら食べたいと伝える。
この宴人が‼️
またもや、心で叫んだがこのコンビを見てるのは面白いと本当に感じていた。
春巻きは、4種類。生ハムチーズ、青椒肉絲、マカロニ、そしてタコス。
春巻きを揚げるアルバイトの子を見守るマスターが、とても楽しそうで、揚げる音と共に私のテンションも上がっていた。
だが、私はここまでまだ一言も発していない。
私は、ビールを頼もうとしたがハイボールと言い換え、ウイスキー好きをアピールし共に酔いしれた。
熱々の春巻きを頬張り、ハイボールを呑む。ただそれだけの調和に酔いしれていた。
マスターとシュモンさんは、これから一緒にやりたいことがあると教えてくれた。それを楽しそうに話す姿に、自分たちの10年後を考えずにはいられなかった。
こういう姿は、自然とその生き方を問う。
不意にシュモンさんがマスターに私を紹介してくれた。
「コイツ物書きなんです」
一気に酔いが吹っ飛んだ。私にとってその言葉は重く、それを認めるには到底出来ないほど険しいものだと感じているからだ。
物を書くことには、資格がいらない。
私は書くことが好きだが、自分から名乗りたくない。第三者に言われて初めて物書きだろうと思っていたからだ。
人に何かを与え、それが認められ、人に言われてこそ物書きだと思い真剣に書いてきた。
単なる言葉としての一言だと思うが、私を紹介するのにその単語が選択されたことは、人にとって小さくても私にとって大きな一歩だ。
醒めた酔いを隠すように呑んだ。
ポップにこの前のはなしを書き上げたことを伝えた。読んでもいない彼が発した言葉は「ネタにすればいい。俺達もいずれ何かになるだろう」だった。
同じことを考えている10年後が、わりと楽しみである。
帰り際、ポップが言い出した。
「テイラー・スイフトでしょ。若い子は」
何言っているか分からなかったが、とりあえず頷いた。
おもむろに、アルバイトの子がマイクを手に取った。歌ったのがテイラー・スイフトだった。あまりの美声に横でポップがしきりに聞いている。
「英語喋れるの?喋れないの?ほんと?耳から?これ聞いたら、今日のこと全部忘れたな」
まったくその通りだ。記憶など一つの衝撃にあっという間に書き換えられる。
耳コピで完璧に歌えるアルバイトの子に贈りたい。
「あなたは、歌い手だ」
なんのはなしですか
そして、私もこれからの夜はこう伝える。
「若い子は、テイラー・スイフトだと決まっているんだ。それは、ハイボールには春巻きと同じようにね」とね。
行きたいお店が増えた夜。
この日呑んだハイボールも忘れ、物書きと言われたことも、あっという間に歌い手によりキレイに忘れ去られた。私が忘れなかったのは、やはり深夜に無意識に送っていた女子へのLINEだけだった。今日も目覚めのLINEに自己嫌悪する。
ぜひ、聞いてみて🎤
↑上をクリックもしくは、下の@shumoooonをクリックしてバイトの子に歌ってもらったらをみてみてね↓
この街が楽しくなるのにやらない理由がない。
ぜひ、ご一緒しませんか。
著 コニシ 木ノ子
神奈川県伊勢原市桜台2-13-8
フードバー kuro96
我がウイスキーコレクションはこちら🥃
自分に何が書けるか、何を求めているか、探している途中ですが、サポートいただいたお気持ちは、忘れずに活かしたいと思っています。