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世界で活躍する日本人/日系アーティスト 3選(Mitski,Joji,Rina Sawayama)


 今回は、日本にルーツを持ちながら、今世界で大活躍しているアーティストであるMitski、Joji、RINA Sawayamaについて紹介していきます。RINAはサマソニやスッキリ!に出演するなど徐々に知られ始めていますが、mitskiやjojiは世界的人気と比べると日本では知名度がまだまだなように思えるので、是非もっと日本のメディアで取り上げて広まってほしい。

 幼少期から海外に移住し活躍している方など境遇も様々で、単純に「日本人アーティスト」と括ってしまうのもよくないかなと思ったので、「日本にルーツのあるアジア系アーティスト」という感じでざっくり捉えてもらえたらなと思います。

居場所のない孤独を歌うmitski「Your best American Girl」&「Nobody」

 mitskiは、アメリカ人の父と日本人の母を持つ、NYを拠点に活動するシンガーソングライター。 
 父親の仕事の都合で、18歳までの間に7つもの国を行き来していたそうで、居場所がない中で何とか自分のアイデンティティを音楽に見出してきた彼女。彼女の音楽に描かれる居場所のなさや陰鬱さは、そうした彼女の境遇も深く関わっているように思われます。

  日本との関わりという面で言うと、人生で一番最初にみた映画として『もののけ姫』を挙げ、思春期には『嫌われ松子の一生』に影響を受けたそうです。 
 また彼女は、中島みゆき、松任谷由実、山口百恵など1970年代の日本のポップ・ミュージックを好んでいて、インスパイアされたアーティストとしてM.I.A、Björk、Mariah Carey、MICACHU、Jeff Buckley、椎名林檎をあげています。

 こういうので結構名前があがる椎名林檎はやはりすごい。後進のアーティストに影響を与えまくっているというか。mitskiの思想や音楽性が、少なからず日本の映画や音楽から影響されていることがわかります。

1.あなたのアメリカ人の恋人になりたいという願望を歌った「Your Best American Girl」

mitskiの曲の最初に紹介したいのが4thアルバム「Puberty 2」から「Your Best American Girl」。
 映画の主題歌にも使われていて、「アメリカ人の男の子」の「アメリカ人の女の子の恋人」になりたいと願っている、という曲になります。(MVがやや過激なので下に曲のみの動画も載せます)


 この曲は恋愛の曲でもあると同時に、自分のアジア人/アメリカ人としてのアイデンティティについて歌ってる曲でもあるんですね。

 「あなたの望む/魅力的な女の子になりたい」というストレートな欲望と、「自分のアイデンティティや母国の文化を離れて、あなたと同じアメリカ人の女の子になりたい」というやや屈折した自意識が、包み隠さず曝け出されていて、それがサビで鳴るギターの轟音と共に真っ直ぐに歌われるものですから、否応なく胸を掴まれてしまう。

 アジア人蔑視への反発や白人至上主義への迎合…といった類のものでなく、もっとパーソナルな部分での「私とあなたの違いとその切なさ」を歌ってる曲のように思えます。

 また、mitskiのように遊牧民的にいろんなところを行き来している人にとっては、母国の文化より、今いる国や地域の文化に合わせていかなければどうしようもない部分があると思うんですね。
そういう意味では、「自分のアイデンティティを忘れて相手に身を委ねたい」という願いは、重いかもしれないけれど共感できる気がします。

 “Your mother wouldn’t approve of how my mother raised me“という歌詞も、自分の育ってきた価値観と相手(とその母親)との間の埋められない差を感じさせられて切ないんですが、異文化摩擦というだけでなく、違う価値観や環境のもと生まれ育った人に恋をする、という境遇ではごくありふれた感傷だとも思います。

2.誰もいない孤独な感情をポップに歌った「Nobody」

 二つ目は、前作の「Be The Cowboy」からキャッチーかつポップに孤独を歌った「Nobody」。
mitskiの曲の中でもかなり聴きやすいし耳に残るからか、「Washing Machine Heart」の次(の次?)くらいによく聞かれていますね。

 彼女の魅力は、普通だとどうしようもないような陰鬱さや生の感情を音楽として昇華しているところかなと思います。個々人に内在する孤独や寂しさとかを抉り出してくるので聞いていてちょっとしんどいんですが、それでも音楽がとても良いので何度も聞いてしまう魔力があります。

 Nobodyは、他人を求めても誰にも気にかけない、誰も愛されない、求められない孤独が歌われています。
2018年制作なのでコロナ禍前なのですが、コロナ禍で人々が抱える孤独ともマッチしているようにも感じられます。ヘアブラシを持って歌っているmitskiとってもチャーミングでかわいいです。

 Nobodyというフレーズが何度もリフレインするので、より悲壮感、孤独感が伝わってきます。MVも、誰かを探しても探しても見つかるのは誰もいないという事実と、縋っていた他者ですらひたすら「わたし」でしかないというやるせなさが表現されています。

 物理的な孤立(誰も周りにいない、パートナーがいない)だけでなく、理解者がいないという精神的孤独や、他者と交流してもそこに映し出されるのは結局自分自身の鏡でしかない、という根源的な寂しさについて歌ってる気がします。分け入っても分け入ってもひとりという悲しみ。

 ここまで紹介してきたように彼女の歌はとてもパーソナルなので、ついつい自分と重ね合わせて共感してしまうのですが、そんなファンを彼女は潔く一蹴します。

US版の「GQ」に掲載された記事では、彼女は、「あなたの音楽のこういうところが好きです」とファンに言われたら、指摘されたことを以後二度としないよう心に刻むのだと語っている。そして実際、彼女がリリースした「次のアルバム」は、大方の予想を大幅に裏切る作品となった。

若林恵:あなたは音楽 Mitski「Be the Cowboy」のこと

 こういう、ファンを裏切り続けるというmitskiの態度は、ウケた曲の再生産で媚びを売ったりしないというアーティストとしての覚悟とプライドが伺えます。
 mitskiは結構日本とのつながりを意識していることや、深く内省する歌詞が日本人にも響くと思うので、もっと日本の地上波などで活躍しているアーティストとしても取り上げてほしい…

 今年三年半ぶりにリリースされたmitskiの6thアルバム「Laurel Hell」もすごく良いのでまだの方はぜひチェックしてみてください。


迷惑系Youtuberからの転身、Joji「Glimpse us」

 次に紹介したいのはJoji。曲自体は有名なので知っている、という方も多いかもしれないです。彼は日本の神戸市出身のオーストラリア系日本人。本名はGeorge Miller。十代まで大阪、神戸で過ごしていて、日本語も一応喋れるみたいです。
アジア系アーティストを束ねる「88rising」に所属しています。

1.過激なYoutuberのFilthy Frank✖️繊細な作風のjoji

 彼は「DizastaMusic」や「TVFilthyFrank」「TooDamnFilthy」といった複数のチャンネルで「Filthy Frank」や「Pink Guy」と言うキャラクターを生み出し、下ネタ全開の日本語教室をしたり、ピンクの全身タイツで道ゆく人に絡んだりと、いわゆる迷惑形youtuberとして名を馳せていました。
 全体的に下品で過激で偏見だらけで口に出すのも憚られるようなものばかりなので、もし閲覧する際は要注意です。家族の前や人前ではくれぐれも見ないでください(警告)

 彼は若い頃から音楽への情熱を持ち、youtuber時代にはFilthy Frankのyoutubeチャンネルで「Pink Guy」名義で(HIPHOP調で過激な歌詞の)曲を出していたりもして、音楽活動を続けてはいました。joji名義の曲とはかなり曲調も雰囲気も異なっています。

 そして、その後健康に支障をきたし、本人は動画内で生まれつきの脳の病気、と診断されたと説明しています(おそらく精神的な不調もある?)。その後Youtube活動を完全に引退。彼の本来の性格とはかけ離れたキャラクターを演じるのに限界があったのかもしれないです。

 彼がYoutube活動を始める以前、あるいは同時期から音楽への関心があったことを鑑みると、彼はある程度Youtuberから歌手へ転身することを織り込み済みだったのかなと思わされます。
 彼が「Filthy Frank」という過激派Youtuberとして有名になり、多くの支持を集め、繊細な作風の歌手Jojiとしてデビューしたことは、アーティストjojiとして成り上がるための盛大なプロモーションだったとも考えられます。

 もちろん、どこまでが計算されたものでどこまでが偶然だったのかわわかりません。やりたいことを叶えるために歯を食いしばってピエロに徹していたならそれはそれで大変な苦労だなとは思います。

 彼自身も「Filthy Frank」や「Pink Guy」がここまで有名になるとは予想していなかったかもしれないですし、少なからず過激派Youtuberとしての活動が彼の精神的負担になっていたことを思うと、それも込みで彼の計画の内だと言い切ってしまうことは少し乱暴な解釈かもしれません。

 ただ、Lil nas Xが、自分自身をミーム化させる地道なセルフプロモーションで今や世界的に有名になったように、現代ではJojiのように異業種からの乗り換えで注目を集めるのはそれほど邪道とは言えない、むしろ王道になりつつあるのかなとも思います。

成功するかどうかは別にして、Youtuberから作家になったりアーティストになったりモデルになったりする人も多いですし、これからそういうあり方は主流になるのかもしれないです。アーティスト側の負担が大きすぎますが…

2.別れた恋人を思い出す感情を歌った「Glimpse us」

Jojiは、「Glimpse us」ビルボードR&B/HIPHOPアルバムチャートでアジア人として初め一位を記録し、名だたるビックスターを抑えてspotifyのグローバルプレイリストにも一位になるという快挙を成し遂げます。 

(⚠️暴力描写など過激な表現があるため閲覧注意!曲だけ聴きたい人は下の動画を見てください)


 曲を聞いてからこのMVを見たとき、多層的な解釈が可能だな、と思ったので、自分なりの解釈をつらつらと書いていきたいと思います

 まずは、歌では新しい恋人のそばにいながら昔の恋人を思っていると言うストーリーが描き出され、それと美しく調和したメロディーが展開されます。

 そして、MVではそれに合わせた美麗な風景が映し出されるのかと思いきや、それとは真逆。
 MVが見れない人のために細かく解説しますと、おそらく失恋したと見られる男性が不良集団に所属して、飲酒、タトゥー、車の破壊と炎上、女性への暴行、などの生々しい行為に及ぶ荒んだ様子が断続的な古いビデオクリップのように断続的に流れます。
そして最中には、(おそらく別れた恋人に)壊れたスマホから「miss you」と送っているチャットや、「Here’s What Woman Want in a Man」というサイトを閲覧している様子が覗き見れます。
そして最後の方の場面では、不良仲間とも距離をとってひとり座り込み耳を塞ぐ男性が映し出されています。

 暴力沙汰と飛び交う怒号は、一見曲の雰囲気と不釣り合いにも感じられますが、単にコントラストをつけるためにこのような表現を選び取ったようには思えません。

 昔の恋人の未練を断ち切れず、行き場を失い、不良たちと粗暴な行為で逃避するもまた孤独になる、という負の連鎖は、彼が感情の行き場を暴力や不良行為にぶつけることでしか対処できないことを示しています。

 しかしそれでも心の隙間を埋められずに、奥底では誰かを求めているのにそれも叶わず、カオスな現実と自分自身から湧き上がる憂鬱から逃げるためには、うずくまって耳を塞ぐほかありません。耐えられない孤独に陥った時、自分の心に対処するために暴力的な行為に及び、その人自身すら追い込んでしまうというのは、なんとも皮肉で、でもありふれた現実であることもわかります。

 さらに言えば、かつて過激行為を繰り返していたFilthy Frankとしての自分との訣(あるいはかつてのファンとの訣別)みたいなものが、このMVでは表現されているとも考えられます。
 アングラで痛々しい独自の描写に切なさを重ね合わせるのは、彼にしかできない表現だなとも思います。

 まだうまく言語化できないのですが、Glimpse usの情緒的な曲調や、サビへの盛り上がり方、歌詞のおける「you」の使い方*、さまざまな要素にどことなくJ popっぽさを感じる気がします。似た指摘をしている記事があったので貼っておきます。↓

(*これは私の友達の指摘ですが、youとsheの代名詞が逆の方が英語的にはしっくりくるよねという話をしていました日本語でいうキミ=You)

意外と、Jpopによく見られる、メロディアスに「君を想ってる」と歌う曲が、一周回って新鮮なのかも?と思ったり。ただ、Jojiが流行ったからといってJ popが流行るかというとそこは微妙だなという感じはします。

彼のMVがつい最近公開されたので、こちらもチェックしてみてください。

差別と偏見に立ち向かう Rina Sawayama「This Hell」、他

 Rina Sawayamaについては過去のnoteで何回も紹介しているので、さらっと紹介しておきます。Rinaはロンドンを拠点に活動する新潟出身のアーティスト。4歳までは 東京にいましたがその後ロンドンに移住しました。

 ネクスト・レディーガガと評される彼女ですが、確かにその精神性や音楽性をかなり受け継いでいるのは感じます。1990〜2000年台の日本の音楽、特に宇多田ヒカルや椎名林檎の影響も受けていて、「Tokyo love hotel」など日本を題材にした曲も制作しています。

1.あなたと一緒なら地獄も悪くない「This Hell」

 今回は、リナの新アルバム「Hold The Girl」から「This Hell」を紹介します。

 長引くコロナ禍や社会情勢の不安、有名人としての苦悩など、不安や欺瞞に覆われるこの世を地獄と言い放ちながらも、「あなたと一緒ならこの地獄も悪くない」と力強く歌います。
 現状をしっかりと見つめながらも、それを音楽の力で吹き飛ばすというのが、Rinaらしくて頼もしく感じます。

 Rinaが以前歌っていたMetalicaの「Enter Sandman」など、ロック調の曲もとてもハマっていたので、またこういった曲をどんどん作っていってほしいです。

 また、同じアルバムの「Hold The Girl」では彼女のインナーチャイルドと向き合いより内面的な部分が描き出されており、「Catch Me In The Air」では母親との複雑な関係を乗り越えた思いを歌い上げています。

 つい最近公開された「Phantom」も美しいバラードで、こちらも自身のインナーチャイルド、周りに合わせて自分を差し出してきた彼女のこれまでを振り返って「You’re good enough」と(過去の自分に)優しく励ましています。
これまでのアルバムより、より深く内面にフォーカスした作品になるのかな?と予想しています。

2.サマソニの件について思うこと

 先日来日した際のサマソニでは彼女がLGBTへの差別をなくすための連帯を日本語で呼びかけましたが、そのメッセージに感銘を受ける一方で、これを普段海外で活動している彼女に言わせてしまうのもな、というもやもやした気持ちもあります。

 それに、その後の洋楽vs邦楽みたいな不毛なやりとりに辟易するというか…
確かに今回のrinaのスピーチは素晴らしかったし一部の日本人アーティストが行った行為はダサいなと思いました。でもだからって邦ロックというジャンルを腐す必要は全くないと思うんです。
(知らない人は「やっぱ邦ロック聴いても音楽聴いたことにならなくない?という話」、というブログ記事を読んでください)

 政治的主張を音楽に持ち込むな、というのも極端ですが、ポップ音楽を聴いて社会への無関心や差別を表明する人がいるとしたら音楽を聴いていないということだ、という表明もまた極端なんですよね。極論vs極論になってしまってるし、後者に関しては論理が破綻していると思います。

 ポップ音楽を聴いて差別や偏見のない社会になったらそれは素敵なことだろうし、少なくないアーティストがそれを目指して活動していると思います。でもそもそも、特に母国語ではない言語で歌われている音楽を聴いて、歌詞まで追って意味や社会的意義まで理解しようとする人って、そんな多いんでしょうか?なんかかっこいい歌歌ってるな〜、くらいがほとんどだと思うんです。
そしてそういう 聞き方も決して否定すべきでないでしょう。

 私は歌詞を解釈するのが好きなので、好きなアーティストはこうしてそれまでの潮流を追って理解しようとしますが、別に全部の曲でそうしているわけでもないですし、それを他人に強制するつもりもありません。

 そもそも今回紹介したアーティストも、邦楽か洋楽かと言われるとはっきり分断できるわけでもないですしね。もっと自由に、いろんな人が自分の好きな歌について自由に気軽に語り合えるような土壌にができるといいなぁと思います。

 サマソニの件が長くなってしまいましたがこれまでの彼女の曲に込められた思想については、以下のnoteで紹介しているのでよろしければチェックしてみてください↓

「chosen Family」でのLGBTの連帯、「XS」で描かれる資本主義の欺瞞について👇

「STFU!」のMVで描かれるアジア人のマイクロアグレッションと抵抗について👇

Rinaの新アルバム「Hold Girl」は9/2にリリースとのことなので、今から楽しみです。

本当はconan gray 、beabadoobee、japanese Breakfastなどのアジア系アーティストも取り上げたかったのですが、長くなりすぎてしまうのでまたの機会に。

最後まで読んでくださってありがとうございました。また「音楽」マガジンで更新していくので読んでくださると嬉しいです。

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