そうか、今日は元恋人の誕生日だった
また今年もあの日が近づいてくる。
覚えていないように振る舞うのはただのフリで、
彼のことはたまに思い出す。
新しいSNSのアカウントも、何もかも知らないのに。
記憶はあの日で止まったまま、私の中に存在していた。
これはいつしかの七夕に並べた、秘密の言葉たち。
物事を覚えることが苦手だ。
マンションの毎月変わるオートロックの番号や、人の誕生日までもがその対象である。
もちろん歴代彼氏の誕生日も、「何月であったか」までは覚えているものの、詳細を尋ねられると「中旬あたりだっけ」くらいにしか覚えてない。
だけど中には例外もあって、今日この日が誕生日の大学時代の恋人だけは、ハッキリと記憶に残っている。
生活の流れだけに目をやると、ただの平凡な一日であった。しかし今日は七夕だ。子どもたちは給食で七夕ゼリーを食べ、恋焦がれる者は例の2人のように強い愛で結ばれたいと願うのだろう。
今日に生まれた彼のこと、初めてこの日を誕生日だと知った日から忘れたことがない。いや、忘れようとしても頭にこびりついて離れなかったという表現が正しいだろう。
くしゃっと笑う笑顔が好きだと言ったら、「元カノにも言われてた」と、なんの気なく話してた意地悪で無神経な元恋人
自分の夢を叶えると言う口実で私をぐんぐん突き放すけど、自分が風邪を引いてどうしようもない時は私を呼びだした
今も元気にしてるだろうか。
ワガママなその人に影響されて、ジェットコースターに乗れるようになった。2人で行く映画館を好きになった。
毎週のように通った、小さなあの映画館がある街にはもう訪れることがなくなった。思い出を上書きするのはなぜか勿体無い気がする。
日常は、気づいた頃にはすでに思い出へと変わっていって、それをフィルムのように巻き戻し、あの人のそばかすだらけの頬に触れることはできない。
上映前の予告を見て、「この映画をあなたと一緒に見ることはできないんだね」とセンチメンタルになっていたあの頃が懐かしい。
結局私は、一緒に見ようと約束をしていた映画も、薄暗い帰り道、2人で言葉が尽きるまで感想を語り合った映画の続編も、全部1人で見たよ。
彼と私の思い出が詰まったワンルームは、今頃もう違う誰かの匂いに染まっている。
ゴミと一緒に思い出は捨てた?こっそり置きっぱなしにしてきたTシャツも全て
お誕生日おめでとう、
恥ずかしながらあの頃は私の全てだった
昔の恋人
貴方がクリスマスに産まれなくてよかったよ。
新しい恋人との幸せな時間にその顔がチラつかなくて済むからね。
別にあなたが今でも好きなわけではない。
あの塩っぱい思い出たちが、今の私を作り出したものの一部なのは事実で、「いつか偶然会えたら嬉しいな」なんて思ってる。
「私は今とっても幸せ」って言うから、貴方は少し後悔しててね。
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