ももせ

誰かに贈りたかったり、自分のために取っておきたかったりする

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誰かに贈りたかったり、自分のために取っておきたかったりする

最近の記事

そのまま百年が過ぎてゆく心地

単に触れただけでものすごい量の感情を伝えてくる身体がある。 生きている、という主張が強すぎて胸が痛いくらい愛おしくなる身体をもった人間がいる。 そんなことは彼に会うまで考えたこともなかった。 きみはおそらく、並外れて感情表現に優れた身体の持ち主なんだね。 なんて素敵で、美しい才能なんだろうと思う。 胸元に顔を寄せただけで彼の高めの体温が無邪気に私を迎え入れて包みこむようで、同じタイミングで鼻腔を満たした彼の匂いがじんわりと、私の頭のてっぺんからつま先までを貫く大きな

    • 止まってお天道様、朝6時

      大人になってからの私が最も起きている可能性の低い時間帯は、朝の6時台なんじゃないかと思う。 朝帰りで家にたどり着く瞬間の、酒の染み込んだ内臓を洗い上げるかのような澄んだ空気。 徹夜してさすがに眠気を感じ出した瞬間の、レースのカーテン越しに浴びる柔らかな朝日。 有り得るのはまあこの2つのパターン。 だから朝6時台の空気は特別で、あと本当にほんっとうに美味しいんだね。 まともな生活習慣をお持ちの学生・社会人の皆様から「知らねぇのはお前だけだ」とツッコミが入りそうですけれども

      • 日曜日はローズマリーの香りに溶けて、

        アトレとかヒカリエとかいう商業施設には見事に不要・不急のものしか売っていなくて、あれを目的もなくぶらつくという行為が一番心と時間と財布の余裕を感じられるから好き。 都会育ちで最寄り駅にパルコがあったきみには分からない感覚かもしれないけどね、田舎者の私からしたらそういうお店に歩いて行けることすらとっても贅沢なことなんです。 ここのところ8時にはちゃんと起きていたのに、珍しく10時まで寝てしまった。 きのう遅くまで映画を観ていたからだけど最後の方は全然記憶になくて、また観直

        • 中華丼焦がして、爪はブルー

          「あらゆる感情は期待と現実のギャップによって生じるものだよ」と私の尊敬する人は言う。その通りだと思う。人は何に対しても見えない期待値を自分の中に設定してしまって、それを上回るから嬉しいし、下回るからがっかりしたり怒ったりする。大体はマイナスの方向に働いてしまうからどうしたら期待せずにいられるかをずうっと考えている今日この頃。 難しいよ、だって好きな人やすごくできる人は、自分にとってプラスの出来事を運んでくれることが圧倒的に多かったと感覚でわかっているからこそ次も斯くあれ、そ

        そのまま百年が過ぎてゆく心地

          レモンなんか買っちゃったし、とびきりのハイボールを作ろう

          キンミヤの梅割り、とかいうものを頼んでみたらグラスから溢れるほどのキンミヤ焼酎にちょちょちょっと梅のシロップ?を垂らされただけではい完成〜とそのまま放っていかれた。恐る恐る口をつけてみるとちゃーんと飲みやすくなってしまっていたもんだから煽られるままに2杯目も空けていたらしく、朝起きたらところどころに穴の空いた記憶と愚鈍な内臓と壮絶な気持ち悪さだけが残っていた。 もう一生酒は飲まない。酒を何かで割る、という言葉の意味を辞書で引き直してください。四文屋よ、頼みます。 ところで

          レモンなんか買っちゃったし、とびきりのハイボールを作ろう

          母の味、っていったらセロリのキーマカレー

          花粉症がなかった頃、春はただただ気持ちが明るくなるだけの季節だった。 気候はだんだんと過ごしやすくなってくるのにずっと鼻の奥に何かがつかえて息が苦しい、こんなにいい天気なのに決して元気100%でいることができない、それだけで毎日にうっすら憂鬱が垂れ込めて、同時に春って曇りの日も意外と多かったんだとか、この生半可な温かさってどこか苛立つものもあるなとか、今まで思ってもいなかったようなことが心に引っかかりはじめた。 そうでなければ「春愁」という季語の美しさを理解することはできなか

          母の味、っていったらセロリのキーマカレー

          桜が綺麗で、裸足でもいいくらいの夜です

          恋はすごくパワフルな感情だねと思う。そんなの何百年も、いや下手したら何千年も前から擦り切れるほど言われてきただろうけど、私が本当の意味でそうだと実感したのはごく最近の話みたいだ。 恋はすごく理不尽で説明のつかない感情だねと思う。こうだから嬉しいとか、なにされたから悲しいとかよりももっと複雑で、矛盾や理解し難い価値観をたくさん孕んでて、とびきり取り扱いのむつかしい感情なんだと知った。 嫌いなとこもたくさんあるけど、それを上回るくらい好きで好きでたまらなくて、でもどこが好きな

          桜が綺麗で、裸足でもいいくらいの夜です

          たまに猛烈に料理がしたくなる

          料理をしたいという衝動は、常日頃イソギンチャクのようにふよふよと生きている私にとってはいつも唐突に訪れるものであり、特に今日のその閃光のような激しさたるや、極めて珍しい。 もっとも前の晩に未だかつて無い量の涙と泥のような感情を吐き出し切っていた人間にとって、空っぽな体とまっさらな気持ちで何かを新しく創り出したいという欲求が現れるのはごく自然、かつ精神回復の指標として喜ばしいものであるのだが。 料理らしい料理がしたい。例えば朝食時のようにパンを焼き、冷蔵庫の中のものを皿にそ

          たまに猛烈に料理がしたくなる

          海は生きている

          非情に荒れ狂い、冷たい風と飛沫を吹きつけた昨夜とは打って変わって、今朝は波止場の岩肌を労わるように優しい呼吸をしている。刻一刻、誰かのこころをうつしながら、そのすべてを飲み込んで、そのすべてを泡沫に帰して、海は生きているのだと思った。 そこには誰もいないが、何もない訳ではなかった。 私の嘆きを、言葉を、願いをただ受け止める巨大な存在感がそこには在った。 私は形のないそれに寄っかかって縋り付いてひた泣いた。 海はその時たしかに相手だった。 形を持たない海の、この町だけの形と

          海は生きている

          秋もいよいよ深まる頃で

          夕方まで布団に閉じこもってほぼミノムシみたいに過ごした後、バイトのためにやっと初めて外に出るなんて日もある。 きっかり17:50にアパートの階段を降りる。コップ1杯の湯ならとうに沸くんじゃないかと思えるほど長い信号待ちをしながら、ビルと空の境を見つめる。最近の17:50の空がほぼ真っ暗であることはよくよく知っているが、それはいつ頃からだっただろうか。1週間前は多分そうだったけど、2週間前はどうだったっけ。わからない。わからないけど、もう少し明るい、藍色くらいの空が好きだった。

          秋もいよいよ深まる頃で

          「丁寧な生活」と言わせてくれ

          かろうじて「朝」と呼ばれるような時間に起きる。耳をつんざくアラームの音に叩き起されるのではなく、陽の光によって自然に目覚める。とても気持ちが晴れやかである。 顔を洗ってリビングに行くと、うさぎがケージに前足をかけて食い物をねだっている。 何よりもまず先に自分が水を飲みたかった。その意識をスッと引っ込め数分かけてニンジンを食わせてやるまでの自然な流れに、母性の萌芽を感じた。 朝食はトーストと決めていた。 6枚切りにスライスチーズ、そしてブラックペッパーをお世辞にも少々とは言

          「丁寧な生活」と言わせてくれ

          感情は風化する

          当たり前だけど、感情って風化するんだ。 忘れたくない感情を丁寧にラップに包んで冷凍庫でそのまま眠らしておく、なんてそんなことはできなくて、多分、よくて日陰にそっと置いておけるくらい。 ゆっくりゆっくり溶け出して、気づいたら元々の形は残っていないんだ。 何か大きな感情を経験した時、「この気持ちは絶対忘れない」ってきっと思う。 幾度となく思ってきた。運動会で優勝してとても嬉しかったあの日。信じられないほど怒ったあの日。チームメイトにいじめられて泣いたあの日。海の向こうで忘れられ

          感情は風化する

          曇りのち

          久しぶりに、なんだかやるせない気持ちになった。 出演するはずだったライブの中止が伝えられたのは前日の午後8時。 ここまできてまさか中止なんてないだろと思っていた。確信して、期待して、バイトしながら「明日は何着よう」なんてルンルン考えていた。 バイトが終わって携帯を開いたのが午後11時過ぎ。 詳細によく目を通して溜息がこぼれる頃にはライブ当日の日付になっていた。 スタジオのキャンセル料がもったいない。 当日朝の最終調整にと入れていたスタジオ練は消化することになった。 あれ

          曇りのち

          海に還る

          8月たったひとつでいい、せめて夏らしいことをしたいと思って海に行った。 駅から海岸まで20分くらいかかった。 道すがら濃くなっていく潮の匂いに胸が高鳴っていく。潮。海。磯。これはぜんぶ違う匂い。でも最早どれでもよかった。ぜんぶ本能をくすぐるものだった。 ようやく辿りついた海岸の砂浜には貝殻が多かった。少し見慣れない光景だった。故郷のは岩だらけで、砂浜なんてなかったから。 踏みしめる足の裏が少しだけ痛い。それでもはやる足を止めることはできない。 2年ぶりの海だった。心の奥の

          海に還る

          ♩= 62 (Adagio)

          ぜーんぶ、空のせいにできたらいいのに。 からだがだるいことも、9時間寝たのにずっとねむいことも、なんにも頑張れる気がしないことも。 慣れ親しんだ2倍速の授業も、今日の私にとっては速すぎるみたいだった。 1.5倍速、ぎりぎり大丈夫。 相変わらずモデラートに毒を吐き続ける先生は、悪魔のメフィストーによく似ている。 この前のリアクションペーパーに書いたやつ、読み上げられちゃった。私は好きだよ?メフィストー。 そんな私はグレートヒェンだろうって?はいはい。 アンダンテの

          ♩= 62 (Adagio)