そのまま百年が過ぎてゆく心地

単に触れただけでものすごい量の感情を伝えてくる身体がある。

生きている、という主張が強すぎて胸が痛いくらい愛おしくなる身体をもった人間がいる。

そんなことは彼に会うまで考えたこともなかった。






きみはおそらく、並外れて感情表現に優れた身体の持ち主なんだね。

なんて素敵で、美しい才能なんだろうと思う。






胸元に顔を寄せただけで彼の高めの体温が無邪気に私を迎え入れて包みこむようで、同じタイミングで鼻腔を満たした彼の匂いがじんわりと、私の頭のてっぺんからつま先までを貫く大きな螺子をゆるめるのが分かる。



そっと背中に手を腕を回して、彼の愛おしい輪郭をなぞる。



緊張でもなんでもなく、ただ彼の生きているぞという主張にぴんぴんに張り詰めた皮膚が、Tシャツ越しにもあらわに手のひらに染み込んでくる。



彼がここ最近をどれだけの必死さで生きたか、私にどんな思いで、どれほどの優しさで触れているか。

触れたところが次第にぼやけてひとつになって、それらが激流となって私の身体に流れ込む。





そういった情報量の多さからか、表面はおそろしく密度の高い肉体であるのに。

反対に奥に進めば進むほど内側があつくやわらかく崩れそうな気配があって、このままどこまでも侵りこんで融け合ってしまえるのではないかと、思わず抱きしめる手に力が籠るのです。





この身体に、今までどれほどの愛情を掻き立てられてきたのだろう。

途方もない量のそれを想像する。




できうる限りの私を触れ合わせて、皮膚の下の深く深く、彼の身体の記憶の海に潜り込む。


そこにはきっと、幾つもの私の色をした欠片が静かに眠っていて。

あたたかくなめらかな砂であるかもしれないし、ふわふわした形の石や岩かもしれない。




あの時の欠片は残っているか、愛は確かに伝わっていたか。


それらを探しながら、彼の中をどこまでも深く潜っていくのです。





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