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劇団☆新感線の『野獣郎見参』は好きな芝居のひとつだ。
作者の中島かずきが「〝いのうえ歌舞伎〟リスタートとなった作品」と言っているが、今も人気の同劇団の芯や方向性を感じるような1本だと思う。
安倍晴明や陰陽道をベースにした、人と妖、
同劇団が得意とする伝奇活劇(チャンバラ)だ。
晴明ブームは初演時にはまだなかった。
映画の陰陽師だったり、OSKの『闇の貴公子』が上演されたり、
で、晴明神社がなんか観光チックになったりしたのは、
再演の前後だったように記憶している。
同劇団らしく活劇もギャグも満載の作品は、でも、暗い。
主人公だけはタイトルどおり名前どおり単純明快のあっかるいキャラだけれど、
他の人物は暗い過去だったり野心だったりを抱えていて、引きずられたりがんじがらめにされたしている。
結末もハッピーエンドではない。
主人公たちが迫られて選択したことによって、魔界への扉がひらく。京の都は今へと通じる魔の街となる。
 
先日、ずっと親しんできた初演版ではなく再演版を観返した。
特に理由はない。古書店で戯曲集を見つけて懐かしく思ってのこと。
再演は物語の構成もすこし違うし、演じる役者も、変わっている。
初演で主役の野獣郎を演じたのは橋本さとしで、
軽くて明るくてロックな感じの芝居が好きだった。
再演版の堤真一はなかなか受け付けられずにいた。
野田秀樹芝居などで観続けていてイメージがついていたせいもある。
だが、再演にあたってもっと「うーん」だった役と役者が居る。
 
松井誠だ。
 
この芝居の要と言っても過言ではない悪役のひとり、
安倍晴明の末裔(という設定)で妖退治の元締め、
でありながら、あるけれど……な、
安倍西門(と、その兄の二役)を演じた。
梅沢富美男に続いて、
芸能界へ出たメジャー大衆演劇出身役者である松井サンは、
山田五十鈴の芸養子だとか、浅丘ルリ子との謎の関係だとか、
そちら方面で御存じの方も多いかもしれないけど、どれもだいぶ前の話。
わたしはこの人に勝手に勝手な因縁というかめっちゃ意識していた。
旅芝居で一番最初に興味を持った役者がこの人の最初の弟子だったからだ。
弟子であったけれど「(師匠の下で)大きい舞台でやるのが嫌になり」、
当時はまだ珍しかった各劇団をまわるフリーの役者として活動していたその人には、師匠を意識したり、完コピや、意識するあまりに作った違う舞踊作品とか、いろいろあった。
 
ということで、再演での松井サンの演技を、
わたしは、たいへんフクザツな気持ちで観ていた。
初演で同じ役を演じていた粟根まことは当時この役付近から異様に人気が出たが、わたしは特にハマらなかった。
でも松井サンと、ずっと大好きな新感線だ。
そりゃあフラットな気持ちで見る観られたはずがない。あかんがな。
と、今は思うけれど、「このひとのせいで、野獣郎の世界と世界観が台無しにされた」なんて勝手に怒ってすらいた。今思うとむちゃくちゃである。
でも、この度、泣いてしまった。
他ならぬ松井誠演じる西門を観て。 
泣き笑いした。泣いた。びっくりと共に、困った。これは浮気だ。何言ってるんだアホか(笑)
 
松井サンは、食らいついていた。ように見えた。
新感線の厳しく独特すぎる演出に。華麗に? 必死に? 必死に。
演出家いのうえひでのりの脳内の体現、
秒ごとに決められた動きやセリフ回し、完璧以上に完璧を求められる。
だから中島かずきの人間臭さが炸裂する〝物語魂〟溢れるストーリーが、
文字通り舞台に(役者のからだで)描かれる、
それが新感線という物語舞台だとわたしは思っている。
そこに、旅芝居・大衆演劇の世界で腹の中から役者として生まれてきて、
座長として何人もの弟子を育ててひとつの派閥にしてきた
いわばもうその世界で「出来上がった」、大御所(?)が、入る、入った訳で。
なんだかすごいな、すごいことだよな、
と、純粋に心から思った。今更。今頃。
セリフ量、半端ない。説明セリフも、半端ない。立ち回りも。そう、立ち回りと声と凄み。
しかも2役も。それも人気の役者で人気になった人気の役だ。
リスキーってか、劇団や劇団ファンに受け入れられ、
認められる要素は、たぶんめちゃ少なかったんじゃないか。
勿論、他の商業演劇などにも出演済みだし、新人や若者なんかじゃない。
でも、あの新感線に、ただでさえ比べられる再演に、
同じ演劇とかいえ異なる世界から来たその人が、
一世を風靡した座長として、座長だから、座長として。
 
とにかくプライドが高くスタッフにも共演者にも厳しいとも聞いていた。
売れなかったときのこと、野心を持ってあがってきたときのこと、
客の顔がぜんぶ札束に見えたと語っていたホスト時代のこと、
めちゃくちゃ意識していたから全部著作やインタビューや映像で読んだし観た。
商業演劇などに出演してもなまりが抜けにくいということも聞いた。
しつこく書くが、興味深すぎる謎の山田五十鈴の芸養子というやつや浅丘ルリ子との関係や、「(共演するなら)恋人役じゃなきゃ嫌よ」と褒められているとか、「生きる博多人形」や「現代の長谷川一夫」というめっちゃでっかいキャッチフレーズとか、会社とか弟子とか息子とのいろいろとか、なんかすごい、すごすぎやしないか。

「友達少そう」
「ご心配なく、その分敵は五万と居る。私は安倍西門。友達は少ないがね」
 
何度も書いてきたけれど、
今の大衆演劇は新感線の影響を大きく大いに受けている。
何度も言うが、わたしはこれが嫌いだ大っ嫌いだ。わたしは、だ。
気持ちいいよな。やりたいよな。
でも真顔で思う、どうなんよ金銭の発生するプロとして。
てかパクろうとしてパクリきれていないように見えるし。
パクリきれてもいないのにどや顔してるように見えるし。
ああ、でも、やりたいんやろうなあ、やりたいんやなあ、やるんやなあ。
大衆演劇の「新感線化」は、もはや、当たり前を通り越した当たり前の空気レベルだ。
様式美も、曲使用やコスチュームの「ぽさ」も、照明や音の入れ方も、曲も作品も、もう怒っていたらキリがないを通り越すくらい日常茶飯になっていて、影響されていない観ていない使っていない劇団や役者の方がきっと珍しい。
そしてその世界でやってきた「から」早乙女太一(と弟)が、今、新感線のレギュラーというかファミリーとなっている。
ちょうど劇団員の高齢化問題もあり、その「肉体」からの芸を評価され、
作家にも演出家にも認められ新感線ファミリーとなった彼らがレギュラーメンバーのように出演をし、現在公演中の芝居にも「彼らありき」として、出ている。
早乙女兄弟の新感線出演をきっかけに大衆演劇を観だして、ハマっている、
という客層も、今、旅芝居・大衆演劇の客席に、かなり、とても、多い。
 
いろんなことを、思う。
 
松井サンは、この夏、若いお弟子さんが「一か月座長」として
大阪で一か月公演をされる際に「特別出演」としてほぼ毎日出演された。
びっくりした。心配もした。
行くべきか。行かないべきか。迷いながら楽前に駆け込んだ。
会津の小鉄がニコニコ笑ってた。
そうだ、いつぞやの新歌舞伎座でも新門辰五郎がニコニコ笑ってたんだった。意味わからん。
でもそれはあくまでわたしの勝手な感想であり、この人の芸、この人の型だ。この人の人生の歩みと芸だ。
若いお弟子さんと、彼が集めた彼を慕う今時の若い役者さんたちとの一か月公演、ラストショー後オマケのダンス「推しが尊いわ」での花丸満点スマイルを浮かべていた裏にはどんな気持ちがあったのだろう。わたしは、考えずにはいられなかった。
 
ああ、戦ってはるなあ。あの、嘘くさすぎるスペシャル笑顔で。生きてるなあ。

野心家で、野心のままに、でも、野心に操られたその役と、
器用で、器用じゃなくて、きれいな、旅芝居のひとのこと、
歴史、バトン、時代、欲、いろんなことを思った。
今、今更やけど、とても思った。涙出た。笑った。拍手した。
「めっちゃ、いいやん。西門やん」
 
『野獣郎見参』は「鬼」の話だ。
同劇団の代表作と言われる『阿修羅城の瞳』から
中島かずきが形を変え描き続けている「鬼」というモチーフ。
鬼ってなんだろう。
同作に登場する悪に染まった人物(古田新太演じる芥蛮獄からの蘆屋蛮獄(蘆屋道満の流れからの))が言う台詞も印象深い。
「お前は自分の血を吸う蚊を殺すのにためらったことがあるか」
鬼、羅生門の鬼、餓鬼(egoism)、餓鬼道。金。人間。
わたしもずっと興味の尽きないテーマだ。
鬼って何。鬼って人間だよね。やっぱり人間って鬼だよね。人間ってかなしい。
舞台も客席も鬼だらけ。
「西門死すとも晴明は死なず。より強くなって蘇る。どうもありがとう!!!!!!」
白塗りの野心も、(たぶん)涙も、なんだか、とても、響いたし、沁みた。あの高笑いが、耳から離れない。今。今更。今だからかな。
劇場も世の中も自分の中にも鬼はいっぱい、鬼がいっぱい、ほんにまあもう、鬼だらけやねえ。


文中に書いたこととちょいかぶるけど、
8月に「特別出演」を観に行った際のこと。
この座組はもう観れないけれど、また、観に行こうと思う。


文中の、「最初のお弟子さん」、
いいところもわるいところも含めて、
わたしのsuperstar、professional、今も、殿堂入りのね。


これも鬼の話。ここに出てくるのは「横浜時代の松井サンの師匠」だ。うわー。


◆◆◆
以下は、自己紹介 。よろしければお付き合い下さい。

構成作家/ライター/コラム・エッセイスト
中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。

詳しいプロフィールや経歴やご挨拶は以下のBlogのトップページから。
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めっちゃ、どうぞ。

lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
【Twitter】【Instagram】 など、各種フォローも、とてもうれしいです。

先日、ご縁あって素敵なWebマガジン「Stay Salty」Vol.33の巻頭、
「PEOPLE」にも載せていただきました。

5月1日から東京・湯島の本屋「出発点」で2箱古本屋もやっています。

参加した読書エッセイ集もお店と通販で取り扱い中。

旅と思索社様のWebマガジン「tabistory」では2種類の連載をしています。
酒場話「心はだか、ぴったんこ」(現在19話)と
大事な場所の話「Home」(現在、番外編を入れて4話)です。

noteは「ほぼ1日1エッセイ」、6つのマガジンにわけてまとめています。

旅芝居・大衆演劇関係では各種ライティング業をずっとやってきました。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、
役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。
担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
YouTubeちゃんねるで過去映像が公開中です。
こちらのバックナンバーも、さきほどの「出発点」さんに置いています。

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