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芸術日記

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音楽・美術鑑賞記録ノート
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記事一覧

バレエ「リラの園」から覗くチューダー作品の魅力【鑑賞レポ】

ベスト・オブ・アメリカン・バレエ・シアターによる1985年公演の作品「リラの園」を鑑賞した。
振付はアントニー・チューダー、キャロライン役でレスリー・ブラウン、彼女の愛人役にロバート・ラフォス、婚約者の過去の愛人役にマーティン・バン・ハメルが出演している。

心理学バレエと称されることの多い作風のアントニー・チューダーであるが、今作からもシンプルながらに豊かに感情を運ぶ振りや仕草、控えめで自

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『眠り展』を訪れて

『眠り展』を訪れて

東京国立近代美術館 「眠り展」 2020-2021

 ルーベンス、ルドンの絵画作品から塩田千春の現代アートまで、多様な媒体を通した「眠り」が混在している会場には、まどろみの中をゆっくりと歩いていくようなやわらかさのある作品から、鋭く攻撃的な空気を感じられる作品など、同様のテーマであってもその切り口は実に多彩なものであった。

 作品群の世界観になぞらえて設置された、カーテンを思わせるような布や、

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【バレエ鑑賞レポ】 『人魚姫』 サンフランシスコバレエ団 【ノイマイヤー振付】

 サンフランシスコバレエ団による2011年公演の作品「人魚姫」を鑑賞した。史上最年少でプリマ・バレリーナに選出されたタン・ユアンユアンをはじめ、リギンス・ロイド、ヘリメッツ・ティット、パッテン・サラ・ヴァン、カラパティアン・ダヴィットらが出演している。ジョン・ノイマイヤー振付作品であり、彼のルーツであるロイヤル・バレエ団やシュツットガルト・バレエ団、ハンブルク・バレエ団などの系譜を継ぐ物語バレエと

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『琴線に触れる』という言葉の由来とイメージについて

 「琴線に触れる」という表現に対し、以前からこの言葉自体が自身の琴線に触れるような感覚を有しており、凛とした美しさのようなものを感じてきた。大学の授業で箏を学び、実際に琴線に「触れる」中で、再びこの言葉に対するいくつかの疑問が浮き上がったため、本記事ではその由来と楽器のルーツとの関係性について取り上げることとする。

 箏は古来より盲人の特権職業とされており、そのことから目ではみえない何かを手繰り

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フジコ・ヘミングの演奏から受け取ったイメージと音楽観

フジコ・ヘミングの演奏から受け取ったイメージと音楽観

 フジコ・ヘミングと聞けば、私は真っ先に月の光の名演を思い浮かべる。奥深く、人間味に溢れたぬくもりと哀愁を兼ね備えた音色は、全てを許容し包括するように私の心を癒してくれる。

今回の記事では、彼女のコンサートに初めて一人で足を運んだ高校二年の冬に書き残していたメモから、当時の記憶と感覚を整理しようと思う。

 ドビュッシーの音楽を一層好きにさせてくれたピアニストが地元長野でコンサートをするという知

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絵画「サン=トロぺの港」との出会い

絵画「サン=トロぺの港」との出会い

 大学の美術史レポート作成の為、この夏上京してから初めて美術館を訪れることが出来た。今回はその中で特に強くインスピレーションを受けた作品「サン=トロぺの港」について記事に残したい。

▶国立西洋美術館 常設より ひんやりとした空気と控えめに床を鳴らす誰かのハイヒールの音が心地よい美術館で、いくつもの想像力を掻き立てられるような作品に出合った。特にティツィアーノ・ヴェチェッリオと工房の「洗礼者聖ヨハ

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