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第十五章 運命の女神-1

Vol.1
 「私が貴方と初めて出会ったのは小学生の時。多分覚えてないと思う。」
黒奈は、僕の方を見ていった。僕は黒奈の言う通り、何も覚えてはいない。黒奈と出会ったのは大学生に入学してからだったからだ。
「あれは、私が九州に空手の遠征に行った時。鹿児島県の鹿屋という場所にあるバラ園に行くことになったの。バラなんてあの頃の私には興味はなかったけど、両親はせっかくの九州ということではしゃいでいたわ。私の気持ちなんてちっとも見てくれなかった。バラ園に着くと、すぐさま両親は持ってきた一眼レフで写真を撮り始めたわ。私はいやいや来たのだけど、確かにバラは素敵だった。匂いも形も。お花ってこんなにいい匂いがするんだって初めて気づいたの。今まで東京では、バラが咲いていることなんて見たことなかった。せいぜい、花屋にあるバラくらい。花屋にあるバラは、ここまでいい匂いがしなかった。なんだか、死んだようだった。でも、バラ園のバラは生きている。命の息吹のようにだったわ。それによくみると、一輪一輪花の形が違っていたの。どんどん夢中になっていった私は、バラ園をどんどん奥まで一人で進んでいった。両親も写真を撮るのに夢中だったこともあって、私は迷子になってしまったわ。知らない土地で迷子になる恐怖をセレン君はわかる。あの頃は、まだ小学生だったこともあってとても不安だったわ。それは、迷路?いや園内を薔薇の棘の檻に閉じ込められてしまった童話の少女の気分よ。そのうち、お腹も空いてきて動けなくなって、とうとうおしまいだわ。と思った時、貴方は片手ソフトクリームを持ちながらやってきたの。涙目の私を見た貴方はずいぶん困った顔をしていた。手に持っている薔薇のソフトクリームを私に渡してくれた。暖かくていい香り。私にとっての恋の香りは薔薇だった。ほのかに香る薔薇が熱を帯びてどんどん濃くなっていくのを感じた。ソフトクリームを食べ終わると、貴方は私に歩けるかと聞いてきたわ。私は、「うん。」と頷きそのまま、ソフトクリーム売り場に行って迷子のアナウンスをしてもらうように頼んだの。その時の貴方は私にとって勇者だったわ。薔薇に閉じ込められたお姫様を助けてくれた王子様そのものだった。私にとって、薔薇は迷子になった時の刺々しい感情と貴方と出会えた恋恋な香りを彷彿とさせる素敵な花ね。」
僕は、黙って黒奈の語る様子を見ていた。彼女は、少し遠くを見るような目で語った。
「黒奈は、それからずっと、僕のことを想っていたの。」
僕が言葉を選びながら小さく呟いた。黒奈は少し微笑んだ。
「これだっけだったら、貴方は童話を卒業する少女に忘れられてしまうわよ。綺麗な思い出として。でも、もう一つ。あなたは私を救ってくれたの。実はね、私の元彼氏はブルーガーデンの信者だったのよ。」
「え。」
僕は思わず驚いた。黒奈に元彼がいたこともそうだったが、その人物がブルーガーデンの信者であったということに。
「高校生の頃、付き合っていた彼氏。相当な信者だったわ。それ以外は、普通にいい人だったのに。」
黒奈は下を向いていった。
「彼はね。聖杯のことも知っていたし、むしろそういうことを経験していたのよ。ロリコンってわけでもなかったけれど、そういう宗教に囚われていた。近づけば近づくほど、それは不気味なものに感じたわ。休日は礼拝に行って、私と寝る時だって彼は儀式のような神聖さを持っていたわ。そんなことをされて、私も変に強張ってしまって、濡れなくなっていたわ。そういうところって、感情に正直なのね。」
「その彼は今どうしているの。」
僕は黒奈に尋ねた。それを聞いた黒奈は少し寂しそうな顔をした。
「私と別れた次の日に自殺したわ。私は生理的に無理って言ってしまったのよ。そういう宗教とか、信じていないし、神に祈るなんてなんだか君が悪いって。だからもう別れましょうって。その時の彼は、ひどく落ち込んでいたようでもあれば、ひどく怒っていたようにも感じたし、なんだかよく覚えていないの。だって、別れ際の彼氏の顔なんてそうそう見たいものではないでしょう。」
「・・・。」
僕は何も黒奈に行ってやることができなかった。あまりにも衝撃すぎる展開に。それを察したのか。黒奈は話を続けた。
「未練とかあるわけじゃないわ。別に。彼との時間は楽しかったし、いい思い出だと想っている。だけどね。ブルーガーデンさえなければ、こんなことにはならなかったのにって想ったの。どうにかして、復讐してやりたいって。」
「だから僕の復讐をこんなにも手伝ってくれたんだね。」
僕が黒奈に言うと、黒奈は微笑んだ。
「そうよ。大学生になってあった時、セレンという九州出身のあなたを見て、なんだか運命を感じたわ。」
「でもなんで、僕があの時の少年だってわかったの。あの頃からだいぶ顔は変わっているだろうし。」
僕が疑問そうにいうと黒奈が答えた。
「名前よ。」
「名前。」
僕は聞き返した。
「助けてくれた時、背負っていたリュックにあなたの名前が書いてあったの。月喰なんてなかなかいる苗字じゃないわ。」
「なるほど。」
僕は納得した。幼い頃、母がよくものをなくす僕の身につけるものに名前を書いていたことがこんな運命の出会いを産むなんて。
「そしてあなたが、ブルーガーデンの信者の彼女と付き合い始めたのを見て私のようになるんじゃないかと。少し心配していた。でも、あなたは打ち負けるどころか、打ち返した。ブルーガーデンという巨大な壁を。まさに、私にとってヒーローだったわ。」
黒奈は、満足そうな顔で僕に微笑みかけた。僕は、黒奈が何を想っているのかを初めて理解した気がした。黒奈にそんなサイドストーリーがあったなんて、僕には想像もしていなかった。
「だから、ブルーガーデンを追い詰める上で羚羊さんを紹介してくれたんだね。」
僕は落ち着いていった。
「そうよ。いつかシルバーブレッドを打ち込めるように、そのために準備をしたし、編集部にインターンにも行っていた。」
「そこまでしても復讐したかったの。」
僕が小さく呟いた。すると、黒奈は少し考えてから、僕に答えた。
「復讐したかったわ。それと同時に、あなたを英雄にしたかったのかもしれないわ。私の勇者から、誰もが憧れる英雄に。」
僕はその言葉を黙って聞いていた。誰もが憧れるような存在に僕はなりたくはなかった。煌びやかなんてものはどうでもいい。ただ、今僕が生きている日常が健やかになればいい。と想っていた。ブルーガーデンへの復讐を行い、薄々気づき始めていた感情。虚しい気持ちが僕を襲っていた.
「そっか。」
僕はそれ以上の言葉が見つからなかった。「ありがとう。」なんて意言うべきだったのか、それとも「ごめんなさい。」とでも言うべきだったのだろうか。なんとも言えなかった。黒奈はそんな僕を察したのか。「今日はもう帰りましょう。」と言って僕らは自宅に帰ることになった。
 帰りの電車の中で、僕は黒奈の発言に対して、自分はどう返答するべきだったのかをずっと考えていた。自分をヒーローだと言ってくれた彼女に対して、嬉しいとも感じたし、何より一番は驚いていた。複雑な心境の中、僕は電車が揺れるのと同時に体が揺れ動くのを感じた。夕日が僕の頬を赤く染める。移ろいゆく季節が冬を迎えようとして準備をしているように日が落ちる時間が早まっていく。塾帰りの学生や仕事帰りのサラリーマンがごった返す電車の中で四季に思いをはぜていた。耳をすませば、「来週は模試があるから大変だ。」とか「そろそろおでんで一杯なんてどうですか。」という会話が聞こえてきた。僕は、今日の夜ご飯をどうするか決めかねていた。なんだか無性にジャンキーなものが食べたい気分になっていたので、家系ラーメンなんてどうだろうかと思い、スマートフォンで近くにある家系ラーメンを検索した。ヒットするお店はどこも美味しそうだった。せっかくなら背脂がすごくてチャーシューが特大なところがいいなと思い、調べるといいお店があった。新宿区の高田馬場駅近くにあるお店だった。チャーシューの大きさにこってり具合の背脂がたまらなくうまそうだった。スマートフォン越しに感じるジャンキーさに唾液が口の中でどんどん分泌される。そして、気づいた時には高田馬場駅についていた。自分がロボットにでもなったかのようにスマートフォンのマップアプリにしたがってただ進んでいく。店の近くまで来ると、豚骨のいい香りがした。店の前には数人が入るか入らないかを考えているらしき人がいた。僕は、その人達をかき分け、券売機に行って職券を購入した。席について注文を行うと、威勢のいい声でオーダーが店内を駆け巡った。しばらく、水を飲んだりスマートフォンをいじったりしながら時間を潰した。店内には僕以外にもたくさんのお客さんがおり、ズズズズッと麺を啜る音が聞こえてくる。みんな黙々とそれぞれのテーブルでラーメンライフを楽しんでいた。これは昔、某テレビ番組で芸能人が言っていたが、ラーメンはただ食べるだけじゃなくて五感で感じるものであると、まさにこれである。そのフォルムを見て、麺をすする音を聞いて、麺の腰や器の温かさなどを触って、ラーメンが織りなす香りを嗅いで、最後に味を味わって食べる。一つ一つの五感をフルに使って食す領域をラーメンの至高という。なんて。そんなことを考えているとラーメンが運ばれてきた。
「はいお待ち。背脂、野菜、ニンニク、マシね。」店員さんが注文したラーメンを運んできた。
「ありがとうございます。」と僕は言い、早速ラーメンを見つめた。素晴らしいフォルムだった。盛られた野菜やニンニク、背脂のせいで面が見えていない。凄まじい破壊力だ。匂いを嗅ぐと、こいつはうまいぞと訴えてくるようなジャンキーな匂いだ。
「うまそう。」僕は静かに呟いた。
僕はレンゲをとってスープを啜った。豚骨の濃厚な味が口の中で広がった。そして、下に沈んだ麺を掘り返し、啜った。ズズズズズっと音を立てながら。めんは中太麺で小麦の味を感じるようなとても香ばしいものだった。腰もなかなかあり、口の中でスープといいハーモニーを繰り出す。そして、ごろついたチャーシューはとても柔らかく、箸で簡単に崩れてしまいそうだった。口に入れると、ホロホロで味がよく染み込んでおりとてもおいしかった。野菜を一緒に交えて食べたり、マヨネーズや塩胡椒、七味、背脂、さまざまなバリエーションを試していく。一杯のラーメンが変幻自在に味を変えていく。これも、ラーメンの醍醐味だと僕は思う。注文が来てから5分とたたないうちにもう半分くらいの量になっていた。一通りのバリエーションを試した中で、僕は追加で生卵を注文した。生卵をラーメンの上でわり、少し崩した卵の黄身に麺とチャーシューと野菜を絡めて口の中に運ぶ。それは、卵というドレスを着せたことにより、さらに美味しさが爆発した。すき焼きや牛丼なんかに卵を絡めるのとはまた違う、この感覚はなんだろうか。カルボナーラに近いと僕は感じる。まあ、ベーコンの原料の豚とパスタ麺と同じ小麦粉を絡ませているわけだからなんら不思議ではにことだろう。中華に西洋を感じる?そんな感覚だろうか。でも、このラーメンは中華ではない。本格中華にこんなラーメンは存在しない。これは、日本の下町が産んだサブカルチャー的な料理だからだ。だからこそ、我々日本人の舌に馴染むのかもしれない。日本人とは、食に対するアレンジ力が凄まじいと思う。ラーメンしかり、とんかつやカレー、ナポリタン。それらは、多国籍の料理が独自の進化を遂げ、日本の文化として生めれた料理だ。それらを発明した人々は、エジソンやアインシュタインに匹敵するほどの革命を料理に起こしたのではにかと、僕は感じる。料理人は偉大だった。そんなことを麺を啜る一瞬に感じながら僕はどんどんと麺を啜った。卵を入れてからの食べるスピードは前半よりもさらに速くなっていた。というより、気づいたら完食していた。僕はお水を飲んで心と体を落ち着かせた。かなりのスピードで食べたせいもあり、すぐに動くことができなかった。体の中がニンニクと豚骨臭でいっぱいになっているのを感じる。このまま電車で帰ったら、隣の人に嫌な目をされそうだな。そう思いながら僕は重たい体を動かした。
「ありがとうございました。」ニンニクの匂いのする口から感謝の言葉を述べ、僕は店を後にした。
 店を出て、駅へと向かった。このところ、あまり運動をしていないから歩いて帰ったほうがいいのかもしれないと思ったが、お腹がパンパンなのであまり歩きたくはなかった。ニンニク臭を撒き散らしていたが、特に周りからはなにも言われない。というか思っていても言わないだろう。改札を抜け駅のホームまでの階段が登山でもしているような感覚だった。重たい体をはあはあと動かし、やっとのことでホームについた。電車は僕がホームに着くとすぐにやってきた。人はあまりいなく、割と空いている。ラッキーと思い、僕はすぐに座った。一呼吸を置いて最寄り駅までの時間を確認した。はやく家に帰って、ベッドでぐっすりしたいな。と思いなが最寄り駅に到着するのを待っていると、僕の目の前に怪しげな黒いパーカーを着た男が立った。黒いパーカーだから怪しいというより、座れるスペースがあるのにわざわざ僕の前に立っていることが怪しかった。電車で人の前に立ちたい人なんて滅多にいないだろう。薬でも決めていない限り。そんなことを考えていると、電車は最寄り駅に着いた。僕は、電車から降りようとしたが、男がそれを邪魔した。
「もう少し、一緒に電車に乗ろうか。」
男は低い声で、小さく僕にいった。僕は無視して降りようとすると、僕の腕をがっしりと掴み静止した。ドアは閉まり、僕は最寄り駅で降りることができなかった。
「なんなんですか。駅員さん呼びますよ。」
と僕がいうと、男は不敵な笑みを浮かべながら囁いた。
「あんまり騒がない方がいい。君の大切な人と2度と会えなくなるよ。」
そう言って、男はスマートフォンから黒奈の写真を僕に見せた。
「ー。黒奈。」
「悪いことは言わないから、落ち着いて話をしようじゃないの。」
男はそう言って僕の隣の席に座った。僕は、とりあえず、黒奈の安否を確認するまでは下手なことはできないと直感した。男は、僕が大人しくしているのを確認し、自分のリュックの中からスマートフォンを取り出し僕に渡した。
「これからは、このスマートフォンを使って筆談でも楽しもうか。お互い、あまり公に話せないことが多いでしょ。そこのメッセージアプリの中にシヴァってあるでしょ。それが私です。そこからメッセージを送ってください。ああ、後下手なことしないでくださいね。警察とかあなたの大切な人とか連絡するの。それと、自分のスマートフォンを使うのもだめですよ。」
男は、自分のスマートフォンを取り出し、僕にメッセージを送ってきた。
#シヴァ :私の名前は’’シヴァ’’です。よろしくお願いします。
#シヴァ :今どういう状況か?疑問ですよね。そもそも私は何者なのか?まあ、勘のいいあなたなならなんとなく察しているんじゃないですか?
男は少しニヤつきながら僕の方を見てきた。おそらく、コイツはブルーガーデンの人間だろう。シヴァなんて大それた名をつけているのは少し癪に触るが。
#セレン :ブルーガーデンの人間。
#シヴァ :exactly .
#セレン :そんなことより、黒奈は無事なんですか。
#シヴァ :彼女のことが大切なんだね。未来を失って直ぐなのに、黒奈って子に乗り換えた。愛とは移ろいやすいですね。
#セレン :そんなことはどうでもいい。安否は。
#シヴァ :そんなこと。あの時の一年前のあなたならそんなことは言わなかったでしょうに。まあ、いいか。今のところは無事ですよ。
#セレン :今のところは?
#シヴァ :君の行動次第では、いつでも無事じゃなくなるとだけ伝えておきましょう。
#セレン :卑怯だぞ。
#シヴァ :なんとでも言ってください。
こいつ。なにが目的なんだ。僕と接触してきたということは、やはり何かを僕に。例の報道の報復だろうか。僕は、頭の中で怒りを抑えながら考えた。
#セレン :僕に接触してきた目的はなんだ。
#シヴァ :それより、電車に乗り換えましょう。小田急線に。私に着いてきてください。
そう言って、シヴァは電車を降りた。その後、小田急線に乗り換えた。その間、ずっと無言だった。小田急線は快速急行に乗った。
#シヴァ :さて、私の目的でしたね。なんだと思いますか。あなたの考えが聞きたい。
#セレン :報復。今回の報道によって受けたブルーガーデンの。
#シヴァ :なるほど。報復。
#セレン :僕のことは十分過ぎるほど恨んでいるはずだ。
#シヴァ :確かに、今回の件は神はお許しにならないでしょう。ここまでのことをしたわけです。当然、その報いを受けなくてはならない。
#セレン :報い?そもそも、お前たちがやっている行為は、許されることじゃない。
#シヴァ :許される?神が誰に許されるというのでしょうか?
#セレン :この世界に神なんて存在しない。等しく与えられた命だけだ。
#シヴァ :この世に、真の平等なんてものは存在しないのですよ。命には天秤が存在している。私の命とそこにいるサラリーマンの命は平等ではない。
#セレン :そんな戯言を。なんのための法律だ。法のもとに皆平等だ。
#シヴァ :人が紡いだ法に平等なんてものはないんです。それに、世界では今でも人種差別や宗教の違いによって差別は鳴り止まない。あなたの学生時代だって、差別をしてきたでしょう。いじめなんて言い換えてはいるが、ただの差別でしかないでしょう。
僕はなにも返すことができなかった。フリックを動かしていたては止まり、呆然と画面を見つめることしかできなかった。
#シヴァ :どうしました?トイレでも行きたいんですか?
シヴァは、僕を煽ってきたのか本気で聞いてきているのかわからなかった。僕がそのままダンマリを続けていると、シヴァは勝手に話を続けた。
#シヴァ :話を戻しましょうか。私の目的はなんなのかでしたね。
#セレン :そうです。
#シヴァ :私の目的は、作品の完成です。
#セレン :作品の完成?
#シヴァ :ええ。あなたという悲劇の作品を完成させるためです。
#セレン :意味がわからない。
#シヴァ :そのままですよ。深い意味はありません。あなたと言う存在の人生を一つの作品と捉えているんです。
#セレン :僕は、あなたの作品になるつもりはない。
#シヴァ :あなたはそうかもしれないのですが、もうすでに君は作品ですよ。
#セレン :そんなことはない。僕は、自分の意思で今まで行動してきた。これからも、その未来を自分の意思で切り開いていく。
#シヴァ :ご立派ですね。では、未来のせいであなたの身になにが起こりました?なにも起こっていないなんてことはないでしょう。あの時ぶつかってきたのは偶然だったのか必然だったのか。どうですかね。
#セレン :偶然ではなかったと。
#シヴァ :ええ。偶然ではない。未来は、君にとってのモルタとでも言うべきかな。
#セレン :モルタ?
#シヴァ :運命を絶つ死の女神だよ。
#セレン :未来が死ぬことが必然だったと言うことですか。
シヴァ:そうだよ。彼女は、死ぬべきして死んだ。これは仕方のないことなんだ。
セレン:仕方のないで人を殺すな。
シヴァ:殺したんじゃない。最後の審判を受けに死後の世界へと向かったんだ。そして、彼女は彼女の罪を償わなくてはならない。神の怒りは際限がないからね。
セレン:未来がなにをしたって言うんですか。ただ、彼女はブルーガーデンという柵から抜け出したかっただけなのに。
シヴァ:あなたは、彼女のことを知らな過ぎる。
セレン:どういう意味ですか。
シヴァ:落ち着いて聞いてくださいね。彼女は、高校生の頃から援助交際をたびたび行い、オーバードーズによって快楽を得るような人間なんですよ。
セレン:嘘だ。
シヴァ:信じられないと思いますが、これが現実です。
そう言ってシヴァは、僕のスマートフォンに動画を送ってきた。そこには、確かに未来の姿があった。僕と出会った頃より幼さが残っている。おそらく、高校生だろう。彼女は、サラリーマンと一緒にホテルへと入っていく様子が映し出されていた。そして、次の動画には未来が白い錠剤をたくさん飲んで目が虚になりながらも快楽を得ている様子が映し出されていた。他にも動画が送られてきたが、僕はそれ以上動画を見ることができなかった。動画に写っている人物が本当に未来なのかなんて考える余地もないほどに、僕はひどくショックを受けていた。そんな僕を見てシヴァはメッセージを送ってきた。
シヴァ:心中お察しします。辛いでしょうね。自分の助けようとした人物が、ここまで非道な人だとは知らなかったでしょう。
僕は、そのメッセージを見て震えた。思わず、スマートフォンから目を逸らしてしまった。もしかして、未来は僕の人生を破壊するために近づいてきたのだろうか。もしかするとという負の感情が溢れてくる。月が他の惑星によって隠れて月蝕が起こるように、僕の心は光を失っていった。未来の笑顔をもううまく思い出すことができない。僕が未来と過ごしたあの1年間は、幸せのように見えていただけだったのか。そんな暗く黒い感情の中で、僕に「あなたは私のヒーロー。」と言ってくれた黒奈の言葉が浮かんできた。そうだ。僕には黒奈がいる。もう未来は、この世にはいないし、僕の人生は、破壊されるどころか新しい希望の光を見つけたのだ。未来のことでクヨクヨしても仕方がないんだ。今は、黒奈のことが心配だ。僕は、再びスマートフォンに目をむけ、メッセージを送った。
セレン:もう、未来のことはいいです。それより、黒奈を返してください。
このメッセージを見たシヴァは少し驚いた様子だった。が、すぐに次のメッセージが送られてきた。
シヴァ:あなたはもう少し女々しい人間かと思っていましたが、そうではないようですね。
セレン:過去はもう振り返らない。それよりも、今が大切です。運命を紡いで次に繋げるための。
シヴァ:では、今の話をしましょう。実は、あなたに会いたいという人がいるんですよ。
セレン:会いたい人?誰ですか。
シヴァ:私もそこまでは聞かされていません。
セレン:あなたに命令している人は誰なんですか。
シヴァ:私に命を出す人なんて、一人しかいないでしょう。
セレン:ブルーガーデンの教祖ー。
シヴァ:exactly .その通りです。
シヴァは、そのメッセージを送った後、最初にあった時よりも不適な笑みを浮かべ僕の方を見ていた。僕は、その笑みに不気味さを感じた。


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